九百七十三生目 大爪
ラキョウは異世界転移者。
さらにグレンくんは異世界転生者だった。
「俺は無意味に俺を呼び寄せたこの世界を恨む、生きる術すらない無力さを恨む、この世界を終わらせ、元の世界へ帰る。それが俺の願いだ」
「なんというかまあ、自分がうまく行かなかったからって周りを巻き込む迷惑なやつなのはわかったぜ……」
「……ラキョウのようなやつは、他にもいるんだろうかな……」
ラキョウのすることしていることは決して許されることではない。
ただ同時にラキョウの身の上はあまりにも同情してしまった。
半端に前世の記憶や経験がある身体で来てしまったがゆえに誰とのつながりもない世界になってしまった……か。
全員でラキョウを囲んで総攻撃をしかけるもののスキあらばラキョウお得意の瞬間移動が厄介。
また私のイバラやグレンくんの剣が当たったとしても深手にはあまりに遠い……
ラキョウのペースにのまれそうになったときにグレンくんが叫ぶ。
「待った! お前はそれだけではこの世界では生きていけないはずだ! たすけてくれた人、やり遂げれたこと、色々あっただろう!」
「何が言いたい!」
「……あっ、そうだ。ラキョウ、キミはウロスさんに拾われたはずだ!」
グレンくんの言葉でひらめき私がイバラで連続武技しかけつつウロスさんの言葉を口にする。
その瞬間にラキョウは顔をしかめる。
うっかりイバラへの対処が遅れまともに腕で受けたほどだ。
でも吹き飛んだりはしないな……とにかくパワー差がある。
「……クソババアがどうした!」
「キミの心の軸はこの世界への負の感情だ。キミの中で彼女の存在はゆらぐものなんじゃないかな?」
「なんだと……!?」
ラキョウの顔がどんどん怒りに歪む。
やはりここがラキョウのウィークポイント……!
ラキョウは瞬間的に私へ詰め寄る!
相変わらず見えない!
「ウグッ!?」
見えない攻撃に剣ゼロエネミーは合わせられない。
かわりに守りを合わせていく。
おそらくは巨大な爪が来るような部分にあわせ……うっ!
ものすごい衝撃と共に後ろへ体ごと下がらせられる。
爆発……!?
さっきの『何か吹き出る』ってこれの事か!?
それらがまったく感知できないししかも攻撃時にしか出ないみたいだ。
ならば! 相手とこちら互いにラッシュをかける。
うおおおおっ!!
「ババアと俺のことを何も知らずに語るな!! ババアは俺の内側にズカズカと踏み込みやがって、なんでもかんでも押し付けてくる割に、趣味が最悪な死体愛と来た! あのババアにとっちゃ俺も死体の方がよかっただろが、な!」
互いに連続攻撃……と言いたいがぶっちゃけ私は受け止めるのに必死。
剣ゼロエネミーで切りつけても次の瞬間なにかに弾かれる。
私自身は防いで爆発を感じ背後に下がり……
さらに受け止めた瞬間に"絶対感知"!
これは……
瞬間を切り取って見えたのは竜のように太く虎のように細く鋭い。
つまりは大きな獣の爪じみたものが彼の腕を覆うように生え私と接触した部分から激しい爆発。
なるほど……この爆発が私の方に向いて吹くから私は凄まじい衝撃と相手は無傷両方かねていたのか。
さらに実体がこれでしか感知できないほど。
おそらく相手もこの衝撃を受けずに耐えていた。
では1度だけ爆発しなかったアレは……
そうか。勇者の剣の力か。
「ウグッ! 強い!」
私はラッシュで負け大きく空中吹き飛ばされる。
みんなもラキョウに殴っていたがあんまり効いている様子がないどころか殴られれば吹き飛ぶ。
だが……
「やあっ!」
「はあっ!」
勇者の剣と魔王の爪らしきものがかち合う。
……爆発はしない。
「グレンくん! 勇者の剣なら!」
「そうか! こいつの力は魔王の力なのか!」
「む、冷静さを欠いて余計な情報を与えたか、ならば、もう手を抜く必要もないな……」
普通は必要なはずの重さによる動きの変化や大物特有の振り。
それらを無視するラキョウの構える魔王の爪だが……
今見えていなくても両腕を下げ構えた格好は。
見えない大爪がそこにあると誇示せんばかりだった。
「……ウロスさんは例えラキョウの言う面が確かにあったとしても、彼女はキミに手を差し伸べた、そうじゃないのか。そしてキミは憎しみが鈍るのを恐れ、離れた、違う!?」
「もはやその手の挑発には乗らん。だがな……ババアはババアだ、俺にとってそれ以上でもそれ以下でもない」
凄まじい勢いで空中を飛び突撃してくる!
イタ吉に"同調化"で皇帝の避難を頼む。
転移魔法で飛ばしたかったがそれどころではない。
「それにお前に何がわかるイバラ女! 魔物ごときお前に!」
「……わからないけれど、わかるよ! 私も異世界転生者だから!」
このカードは……切る時に切る!




