九百七十一生目 瞬間
ラキョウが投げ捨てたもの。
それは皇帝だった。
「皇帝、大丈夫ですか!?」「本物か……」「なんかえらいやつだっけ?」「こ、皇帝……!」
それぞれ別の反応。
私は回復しつつ"観察"。
うわ名前が本物だ!
ダカシは困惑。
イタ吉はあまり興味がなさそう。
グレンくんは若干引きつつラキョウに注意を払っている。
「……あやつを……」
「う、うん?」
「……あやつを……止めて……」
それだけ私の耳もとで言うと彼女の気が落ちる。
大丈夫気絶しただけだ。
よくはないが。
状態をみるに極度の疲弊や原因不明の肉体ダメージ。
まあおそらくは先程の輝くワザにまつわるものだろう。
イスの影に彼女がいたのは漂う邪気のせいで気づけなかった。
そしてその邪気もラキョウと共に降りてきている。
ゆっくり宙を浮いて地上に降り……
そして降り立つ。
「もはや、勝ち目はキサマらにない………〜少し失礼」
ラキョウは懐からタバコを取り出し火をつけてくわえる。
ことわりをいれたと言うよりほとんど強制する気ではあったな……
鼻につくニオイがあたりに広がる……
「うわなんだくっさ! あ、それあれだな、ニンゲンたちの好きなケムいやつだ!」
「こ、これから戦うんだろう? もっと真面目にしなよ……」
「何、こうした方がリラックスできるのでね。というわけで……」
ラキョウの瘴気が収束していく。
それはラキョウの身にしっかりとまとわりつき……
その姿がしっかりと顕になる。
小綺麗な服を着つつもはだけていてそこから不気味な姿が垣間見えていた。
皮膚はところどころひび割れそこから力強くも気味の悪い青い光が浮き出ている。
それらの形がまるで全身を巡っているかのようで……
服の薄い部分からもところどころ見えている。
そしてタバコの煙が揺れると。
私達の背後にラキョウの姿が移動していた!
……! "時眼"を私に高速化しつつ振り返る!
攻撃に合わせ何かを腕の鎧部分で受ける。
なっなんだいまのは……?
攻撃の正体がつかめないまま私は吹き飛ばされるが足で踏ん張り大きく下げられるのみ。
"時眼"解除。
「グッ……!」
「ほう、今のを止めるか。さすがにここまでこれたのは伊達ではないらしいな」
「んなっ!?」
「今のは……」
「ちっ、フォーメーションを変えるぞ!」
ダカシの言葉に全員機敏に動く。
少し間をとり全員の姿が各々見えるように。
互いの背後を守りつつラキョウを見張る形態だ。
「今のが防がれるとはな。キサマを先に落とせば戦いやすくなるかと思ったが……」
「勇者より……私?」
「それもそうだろう。勇者より遥かに厄介そうだからな」
全くありがたくない認定だ……
つまりは私を積極的に狙うということじゃないか。
切れていた補助魔法を発動させよう。
土魔法"クラッシュガード"!
1度だけ敵の攻撃を無効化してくれる。
ゴツゴツした岩らしい光が私たちを覆いすぐに消える。
ラキョウは目を細めその光景を警戒。
そして……煙が揺れる。
速い! 私の目の前!
大きく何かが頭を叩く。
"クラッシュガード"の効果発動!
私は高速で何かとラキョウに対して"縛り付け"!
イバラがスッと伸び距離を取ろうとするラキョウの腕を掴む。
だがすぐに解くように力をこめてきた。
「あっ」
「フンッ!」
グレンくんが声を上げた以外詳細はわからない。
ただイバラはとんでもないパワーで振りほどかれてしまった。
なんなんだ攻撃の正体は……
「今の、見えたよね?」
「え? 何もわかんなかったが……」
「俺も。何かあったか?」
「もしかして見えているのは、グレンくんだけ?」
「え? もしかして、勇者の目じゃないと……」
グレンくんが言うとおりなら厄介だ。
私達には不可視の攻撃が来るというのだから。
まるで勇者の剣みたいに……
「ちっ、勇者の力というやつか……小賢しいな。そんな勇者サマは魔王を倒すためにここまでわざわざご苦労なことだ。出てからくれば良いものを、勇者の使命に踊らされるというのは、どういう気分から聞きたいね」
ラキョウが私達から一気に距離を取る。
なんだあの動き。
凄まじい勢いでラキョウの姿が遠くへスライドしていったような……そんなおかしなものが見えたような。
そう。駆けていく感じではなかった。
私の目をもってしても。
とにかく今だ。空魔法"ストレージ"で亜空間からおみとおしくん眼鏡を出す。かけて"観察"!
[マヒュム Lv.50 比較:かなり強い 異常化攻撃:とくになし 危険行動:不明]
[マヒュム 個体名:ラキョウ 魔王の力を取り込み常識はずれの生命力と理解外の攻撃を繰り出す。見た目と実態はまるで異なる]




