九十二生目 光明
とある昔天才の夫婦がいました。
しかし天才なうえ性格に問題があるふたりはニンゲン界から追われました。
とっくに死亡していると思われていのだけれど、迷宮の奥で生きていたのです!
「というわけよ」
「どういうこと……いやわからないじゃなくて、なんでこんなことしてるの!?」
そのニンゲン界なら過去の超有名人ぽいアインキャクラ博士が何故ここに!?
天才夫婦だったらしいから何となくここに街を作る経緯までの発想がぶっ飛んでいそうだが。
「まあそれにはここに来たあたりの話からしたほうが良いかの。
ワシら2人は『疑似思考魂』と言われる、みんなで賢く楽しむくんシリーズの研究を潰されたあとあたりから暗殺されかけてな」
「暗殺!?」
おそらくこっそりその技術を利用したかった誰かが差し向けたのだろうと言った。
戦闘は得意ではなかった夫婦は家ごと燃やされるもののなんとか逃走。
研究仲間たちは散り散りになり自分たちは特に危険だとして迷宮先に逃げるようにと言われたという。
衛兵は『仕向けてきた黒幕』が不安でとても頼れなかったという。
「そして奥へとやってきたらな、そこには犬の魔物たちが村を作ってたんじゃ。えーっと、なんと言ったかのう?」
「ああ、もしかして集落を作る犬といえばコボルトかしら」
「ああ、そうだったか」
ユウレンによるとコボルトとは犬の頭や身体をもちつつ人のような骨格で二足歩行する魔物らしい。
小柄で非力ながら協力し原始的ながら集落を作る生物だそうだ。
ちなみにニンゲンに対しては優しくすれば友好的。
「魔物も面白いな、と思ってな。
気づいたら妻が話をまとめていてかくまってもらうことになった。
そして次第にみんなで賢く楽しむくん1号ができたんじゃ」
思考がニンゲンほどになることで別の作用も見られたらしい。
同じコボルトでも仲違いしたり、全く別の種族でも仲良くなったり。
彼等はこの発明のおかげだと知っているのはその時のコボルトたち……町長や議員メンバーのみだそうだ。
もうその初期の時から奥さんが試作型翻訳機をつけていたから出来た技。
「規模が大きくなるたびに作り変え、今ではこんなに巨大になってしまった。
ただ、ワシらは隠れなくちゃならんからの。
あくまでこいつ含めここにいるのは秘密じゃ」
なるほど、この発明が出来るのは博士夫妻のみ。
そしてそれがある場所はイコールで博士がいると見つかってしまう。
だから地下の隠し街のみんなにも秘密なのか。
「それに、コレの力で考え、街で暮らし、営めているなど、知ったところで誰も幸せにならん。
町長たちは同意の上じゃが彼等の中にはこの街で産まれこの街で死んでいったものも多いからの。
ワシは嫌われ者の偏屈ジジイの役で良いんじゃよ」
ふん、と九尾は鼻をならした。
役というかわりかし素では……とも思ったが口に出さない。
絶対怒られる。
それにしても虫たちも普通にニンゲン並に話せていたのはこの影響か。
そしてこの中にわざわざ街があるのも……
そしてその街が閉じられているのも。
「まあ、そんなところじゃな。とりあえず出るぞ」
そう言って九尾のおじいさんは再び人から狐へと姿を変えた。
頭に葉っぱが乗っていたらそれっぽいんだけどね。
言われるがままに私達は地下室を後にした。
確信に近いものをもてた。
おそらく私の寿命をなんとか出来るのならこのおじいさんぐらいしかない。
トランスについてさっき何か言い掛けてたな……
客間へと行き私達はおじいさんに改めて話を聴くことにした。
「それで、トランスの話なんですが……」
「ああ、どこまで話したかのう?」
「トランスが調べられるとかどうとか」
「ああ、そこか。確かに出来るぞ、少し待っとれ」
そう言っておじいさんは違う部屋へとゆき壮絶な物音をたてたあと帰ってきた。
……掃除のし直しかな。
「ほら、これがトランスなんなの分かるくん10号じゃ!」
これは……なんて言えば良いのか。
見ためはダウジング用の棒に石の板がついてるような。
この板の部分に分析結果が出るとか。
「それで、その『死にそうな子』とやらはお前さんかな?」
「……バレてましたか」
「まあここまでヒント貰えればの」
ふうむどこから推測出来たのだろう。
とにかく私に対して早速使ってもらった。
棒の部分がくるくると動き出す。
「どれどれ……ふむ、トランス先が出たぞ」
「主のトランス先はなんと?」
「急かすな! ふむ、ガウハリ、条件は……
誰かを従えなおかつ……」
アヅキの顔が輝く。
確かに私はアヅキとかから慕われているから、それで良いということなのかな。
「オスである」
「うわ、そうきたのね」
「なぁ……」
ユウレンが顔をしかめアヅキが絶句した。
確かに、これは……
「他にはないのですか!?」
「ないの、ホエハリとしてはこれだけじゃ」
「そ、そんな……」
こっちの方向性で合っていると思ったのに、間違いだったのか!?
と思っていたら九尾が悪い顔をする。
あ、この顔の時は……
「なあに、ワシがなぜ発明家と名乗っとるかわかっておるのか?」
「それじゃあ……!?」
「ばあさんが書いたものの中で理論上は出来ていたが必要なものや作成が面倒くさすぎて後回しにしていたものがあるの。
だからまだ試作すら出来てない状態で材料集めから始める必要があるうえ、事実上実験台になってもらうぞ。
それでも良ければじゃな」
何か、方法があるらしい。
ならば乗るしか無い。
例え細い道だとしても、真っ暗な道すら見つからない時よりずっとマシだ!
「是非おねがいします!」
「発明家の血が騒ぐわい」
「本当に良いの? 詳しいこと聞かなくても」
「まあ、なんとなく信用は出来るかなって」
今までのやりとりで九尾の事少しわかったしね。
ロクでもなくとも、きっと結果は出してくれるはずだ。
そして九尾はしまってあった書類の1つを取り出してきた。
内容は『未知なるトランスを創り出す方法』。
思ったよりもとんでもなさそうだ。
「トランスとは種族ごとにや枝別れ方により非常に不平等なものである。だから私は新しく作れないかを考え編み出した……
ふむ、まさにばあさんの発想じゃな」
空を自由に飛びたいなと思って翼を生やす方法を思いつくが如くの思考能力。
詳しいことはちっともわからなかったが、つまりは私に無理やり新たなトランス先を作ってしまうというものだった。
とんでもないが、出来たら最高だ。
九尾が一応と言って気をきかし医者にも見てもらえた。
わざわざ九尾の自宅まで来てもらったのは私の状態が悪いのならとのこと。
なんか色々と気を使わせてしまっている気がする。
「大切な実験動物に問題があったら困るからの、ちゃんとしたそういう状態だという証明が欲しいからの」
本当に気を使ってもらっているのか不安になることをつぶやいていたのは聞き流すことにする。
医者に色々と検査してもらった所やはりお手上げ。
少なくともこの街の医者のところでは処置不可能なほどに肉体自体も損耗しているそうだ。
「まるで産まれた瞬間から何度も命に関わる怪我を繰り返し、しかも度重なる酷使して鍛え上げ、過大な負荷のかかる戦闘行為を行い続け、しかも睡眠も十分に取れていないから回復していないのに、魔法でごまかし続けてきたのが破綻してきている……そんな感じですね。
はっきり言って、かなり悪いです」
「あははは……」
笑うしか無い。
身に覚えしかない。