九十一生目 疑似
私達は昨日の九尾の元へとやってきた。
同じ依頼を受けた事でめちゃくちゃ驚かれた。
仕方ないじゃない、ご指名だもの。
依頼書にもばっちり書いてあるし。
でも今回は3体全員で行く。
"進化"の話が出たんだ、もしかしたら私の探す相手かもしれない。
だから重点的にあたろうということだ。
門の前のスイッチを押してブザーを鳴らす。
「おはようございまーす」
「話には聴いていたが……」
「凄いわね。完全にここだけ浮いているのね」
ここだけ1世紀飛ばした雰囲気だからね。
均等に石を組み白塗りの屋敷は威圧感さえある。
ブザーも他のところでは見たことがない。
扉が開いて九尾のおじいさんが顔を覗かせた。
あれ、眼鏡が変わってる。
「ふん、なるほどお前さんの言うとおり、老眼矯正はうまく効いとるわい。
お前さんらがはっきり見える」
「あ、老眼鏡作ったんですね」
「小さい文字も読めるくん2号じゃ」
すごいな、昨日の今日で既に試作したのか。
開発意欲は確からしい。
今日は外の仕事なので九尾が庭へと出てきた。
私達も門から庭へと入る。
「それで、お前さんの連れは?」
「あ、紹介しますね。こちらの黒い鳥がミルガラスのアヅキ、こちらの黒いニンゲンがレヴァナントのユウレン」
「もうちょっと特徴わけして説明しなさいよ……」
ユウレンにつっこまれつつもそれぞれ自己紹介をした。
九尾のおじいちゃんはあまり興味なさそうに聴いていた。
その後は早速仕事ということで色々と道具を手渡された。
また身体に取り付けて行動力を吸って動かすタイプのだ。
「それで御老体、話があって……」
「その前に、仕事をやってもらおうか!」
「あ、ちょっと、あ」
アヅキもあっという間に機材を取り付けられてしまった。
まあ、昼休憩の時で良いからね。
私とユウレンは芝生と雑草狩り。
アヅキは壁の塗り直しだ。
「そこをそうして、そうそう」
「なるほど、ここに行動力を送り込むのね」
「ニンゲンの割に飲み込みがはやいのう」
色々と形状や仕組みは違うし私のは機械の腕が伸びている感じだが、これは前世で言う芝刈り機だな……
具体的に一番何が違うかと言うと、丸鋸の周りに安全仕様が一切ない。
その代わりある程度勝手に機械が判断して動いてくれる。
ほぼ凶器。
エンジン的なものが動き出し唸るような音をあげだす。
耐震装備と石が跳ねても大丈夫なように危険な位置……ようは目に防御用のメガネ。
不安なので防御魔法系統も重ねておこう。
「さあ、草を切り切りくん4号と3号のデータ取りに協力してもらおうか!」
「とうとうデータ目的なのを隠さなくなった!?」
開き直った九尾は堂々とデータを取り出したがまあやるしかない。
「うっ、結構振動が激しいのね。その代わり草は次々刈れるわね」
「うわっ! 耳に石が飛んできた! 魔法しておいて良かった!」
「なるほど、まだそこらへんは改良の余地がありそうじゃな、そっちはどうじゃ?」
九尾が空を見上げると滑車台の上にアヅキが乗っていた。
それそのものは縦に動く分は単純な木製だがどうなっているのか横にも動けるらしい。
どうなっているのだ。
「まだあまり操作に慣れないですね……ただそこまで大きな問題はなさそうです」
「ふむ、若干軋んでおるか?」
そんなこんなでデータをとり外側をキレイにして昼休憩まで働いた。
昼休憩に入るとアヅキとユウレンは疲れ果てていた。
いや、機械にエネルギーを吸われすぎて行動力の残量が危険なのか。
とりあえず彼等には休んでおいてもらった。
「ふん、お前さんの連れはお前さんほど行動力はなさそうじゃな」
「まあ、私が少し変わっているぶんもありますからね……」
紅茶を飲み一息つく。
さて本題だ。
「おじいさん、仮になんですが肉体と精神に魂も非常に不安定で今にも寿命が消えそうな子がいるとします」
「なんじゃいきなり」
「まあまあ。そしてその子を根本的に治して寿命改善させるとしたら、おじいさんなら何をさせますか?」
九尾は少し思案をめぐらしたあとに答える。
「……3元がだめじゃと医者じゃ無理じゃな」
3元というのは肉体と精神と魂のことかな。
「可能なら、トランスさせるの」
「トランスですか……」
「トランスは種族毎に可能になる条件もあるし、変化不可能かもしれんが、トランスできればおそらくは全快するはずじゃ」
トランスか……
"進化"と違い恒常的に姿を変える現象。
ホエハリはガウハリになるはずだが……
「ちなみに調べる事もできるぞ、どうなるかく……」
「ひゃぁ!?」
遠くから悲鳴!?
しかも今のはユウレン?
「なんじゃ騒々しい、休んでおったのじゃないのか?」
「ちょっと行ってきます」
「やれやれ……」
話の腰を折られたおじいさんは不機嫌そうだが流石に悲鳴は気になる。
声がした方へ廊下を抜けて……
1つの部屋の中へ。
あれ、地下への階段?
こんなものあったかな。
気配はこの下へ続いている。
慎重に降りていくと灯りが見えてきた。
薄暗くはあるが大丈夫な光量だ。
さらに降りて地下1階へとたどり着く。
ここは……あ、尻もちついているユウレンと隣にアヅキ。
「何があったの?」
「ああ、ローズね。紙を踏んで滑っちゃったのよ。それよりも……」
ユウレンは経緯を語ってくれた。
この街にすむものたちは全員にかすかなある方向に繋がる魔力を感じていたそうだ。
こっそり術式を解析し未知の術式ながらもヒントはあったらしい。
推論を確証づけようとしていたら繋がる先がこの屋敷の地下だとわかったそうだ。
「休憩を利用して探っていたら人にしか反応しない術式をみつけて仕組みをといたらここが現れたわけ」
「そしてこれを見つけたのですが……」
ユウレンとアヅキが首を向ける先には、青い光の大きな球があった。
この青い光と支えるようにある台には大量の術式が書き込まれている。
まったく理解は出来ないが……私の"魔感"にまったくもって存在すら認識出来ないあたり隠蔽が完璧に施されているのか。
しかしこれは目で見えるほどの大きな魔力の塊だ。
一体これは……
ユウレンがたちあがり汚れを払う。
「街全体の数をカバーするほどの『疑似思考魂』だなんて馬鹿げた発想、人間界ならそこそこ有名よ。
ただとっくの昔に亡くなっていたと思われていたのだけれど。
そうよね? 『人間』のアインキャクラ博士」
ユウレンがそう言うと階段から九尾が現れた。
九尾のおじいさんが、ニンゲン!?
え、元とかじゃなくて?
「……まあ、ヨソものなお前さんらにはバレても問題あるまい」
色々と聞きたい事が溢れる中、九尾のおじいさんが一瞬光に包まれる。
光のシルエットが姿を変えるとそこには二足で立つ白衣に身を包んだおじいさんが立っていた。
尾はあるままだし耳も狐だが全体的におじいさんだ。
ある程度トランスした人はこうやって人に近く戻れる術があるとは聴いてはいたが……初めて見た。
「みんなにナイショじゃよ」
やはり細い目も含めて好々爺のようにみえる。
一体何歳なのだろう。
「疑似思考魂……契約した小動物たちに人間並みの思考を持たせはっきりとした意思を魂に加える装置。
飼い慣らした魔物たちに使って軍の兵士へとする実験ね……
当時は50匹程度が限度で、なおかつ50年ほど前には計画が頓挫していたはずなのだけれど」
「ふん、人間以外がただでさえ高知能で魔物に悩まされているのに、小動物までもが人間並の思考を持つのを恐れたというくだらん理由で横槍が入っただけよ。
ならばくだらん人間界に付き合う必要もあるまい。
それにあの頃よりも遥かに強化してある、主に妻のおかげでな」
ええっと……?
アヅキも困惑している。
ニンゲンじゃない私達が混乱しているのを見てふたりがそのあと解説してくれた。