九百五十四生目 嗅覚
不気味な顔のない巨人。
ニンゲンの形はしているがカケラもニンゲンの気配をさせていない。
胸にある大きな悪魔の瞳だけが私達を見つめていた。
「「ぎええー!」」
思わず私とイタ吉は身を寄せ合う。
グレンくんも剣を抜きかけ……必死に自分で抑えている。
刺激はマズイ。
ダカシはまた自身の悪魔に聞いているらしい。
「……なるほど。こいつもさっきのと似たような感じらしい。ただ今度過敏なのは匂いらしい」
「匂い……? 確かにこの化物、かなり臭いけれど……」
「そう。誰かの体臭に反応するらしい。血の匂いなんか特にな。食われたらひとたまりもないぞ……」
それは……厄介だ。
さっきよりどうにかしづらい。
ただそれなら魔法で対処できるかな……?
この気持ちの悪い匂いは……甘すぎるというか……それと同時に死体のようなものが腐った臭いがする。
これはひどい……限界まで嗅覚の感覚は小さくするよう意識しておこう。
生活魔法と呼ばれる便利系魔法からひとつと光魔法を使おう。
[ライティインディケーション 対象の気配を薄くすることで狙われにくくなる]
光魔法はこれとして。
「じゃあ……少し唱えよう。"清めの水、払う風、我が身を整え美しく揃え、クリーン"」
生活に役に立つ魔法をニンゲンたちが作り出し魔本で伝えているものこそが生活魔法と呼ばれる。
その中でも高度気味のもの。
2つの属性を持つ魔法で対象をきれいにする。
今回は私。
上から光が溢れるように流れ私の身体から汚れが落ちていく。
……よし。さらに"ライティインディケーション"と。
「うーん、まぁまぁいいけれど……」
「クンクン……いや、まだお前自身のニオイがきっちり残ってるぜ」
「えー、でもなあ……」
イタ吉はどうしろというのだ。
ただ襲われるのは勘弁したいな……
唸っているとグレンくんがおずおずと手を挙げた。
「じゃあ……濡らしてみる?」
空を飛ぶ。
それだけでも気分はあんまりよろしくないが加えてなんか全身濡らされている。
気分は最悪しかも周りが臭い。
巨人は微動だにしない。
息をしているのかすら怪しい。
顔無いしね。
そのかわり嫌でも目立つのはどこまでも裂けている口と牙か。
あれらがウネウネと口から漏れ動いているのだ。
ぶっちゃけかなり怖い。
顔の横を通り過ぎ後ろ側が見えるとその口がまだまだ裂けているのが見えた。
一旦交差してもさらに背へ。
そしてずっと下まで……
どこまでも牙が蠢いている。
本体が不動だからこそおそろしく目立つ。
こちらの身体も管から針を刺され注入で大人しくなっている様子。
これの量……ミスしていないよね?
鉄扉開いたから大丈夫だとは思うが。
それはともかくパイプ先に到達。
またスイッチをオフにして……
破壊!
今度はどうなる!?
機械からガスが吹き出てなにやら臭いにおいがする。
今度はニンゲンのニオイ……!?
これは……!
すぐその場を飛び立つと私がいたところに複数の牙が伸びてきて刺さった!
「あっぶな……」
獲物をさまよい求め複数の牙たちが化物の口らしき部位から飛び出ていく。
みなここらへんを雑多に狙っているのはにおいがするからだろう。
こちらに雑に触手が飛来してくるのを……避ける!
(さわりたくないからゼ〜ッタイ当たらないもんね!)
素早く飛び巨人の横を抜けるころには私がまったく狙われずパイプが繋がっている機械がメタメタにされていた。
ふう……
「うおお、よ、よし! 引くぞ!」
「俺の力……もいらなさそう」
「俺つっかえるから、先に下がる」
なんとか私も足場に到達して着地!
急いで部屋内に逃げ鉄扉を閉める。
ゆっくり閉まる鉄扉にじらされ……
なんとか閉まればみんなから深い溜め息が出た。
「はぁ……あれも、元は普通の生き物だったのか……?」
「だとしたら、勇者としては見逃せないなあ……」
「俺としてはどっちでもいいが……あんなん作るやつ放っておいたら世界が臭くなっちまうよ」
「絶対にここで止めよう!」
ダカシやグレンくんそれにイタ吉も私の言葉を肯定。
休む暇も無く中央へともどった。
中央の部屋に戻ればパイプからの供給が止まり奥の扉が開いていた。
石壁扉が壁の中に収納される形で。
これでやっと進める!
勢いよく乗り込んでゆけば今度は廊下。
急いで奥へ駆けてゆき……
大扉をくぐる。
……そこはあまりにも巨大な空間。
長方形に切り取られた世界。
私達と向こう側……複数の影がいるところと向かい合う形となっていた。




