九百五十ニ生目 光嫌
「「それ!!」」
イタ吉のタイミングで全員合わせてレバーやスイッチを操作しだす。
タイミングを細かくイタ吉に指示されダカシの前足で慎重にメモリをいじる。
そして決定のたびに[ロック]と書かれたメモリを触る。
おそらくもともと複数人でやるためだろう。
わりと覚書きが多くて助かった。
私の触るメモリの最大値はみな1000と表記。
そして最後の調整。
アルファは100ベータは500と入れてきて次はシータ。
数値が不明瞭だったが予想は出来る……!
「よし、ここまでは順調! 次ローズ、3、2、1!」
「ここ!」
メモリを400に動かしてタイミングをあわせ[ロック]ボタンを押す。
カチリという音とともに動きが確定された。
あとはイタ吉のタイミングに従ってレバーを上げてゆく。
ダカシが最後に指示されていたボタンを叩けば突如天井にある赤ランプが唸りだし部屋が暗くなる。
同時に鉄扉がゆっくりと開き出した。
うわ……分厚いな。20cmありそう。
自動で壁に収納されるあたりもどこかオーバーテクノロジー気味。
みんなどこか真剣な表情になり心が引き締まる。
補助魔法がきれかけているの掛け直しつつゆっくりと扉の向こうへとくぐった。
扉の向こう側。
それは暗くも青いフィルターを通していくつかの光源がおかれていた。
心細いその光源に照らし出されていた存在。
……それは何と存在を定義できるほど形状が定まっていなかった。
私達がいる高台の足場から見下ろす必要もないくらいこの広い地を埋め尽くすそれ。
泡沫の中から眼球や口が現れたと思えば次に見たときには泡沫に消えている。
夢は夢でも悪夢としか形容できない蠢く存在は肉体らしきものを揺らめかせ定まらない。
血などなくスライムのようなものでもなく。
青白い肉質がひっついたり離れたり壁面を登ろうとするかのごとくこちらを認識していた。
冒涜的存在……そう表現するしかなかった。
そして蠢く巨大な肉塊の真ん中から悪魔の目が浮かび上がる。
黒い結膜はたしかに見覚えのあるものだった。
「う、うげぇ〜……」
「き、気持ち悪い……」
イタ吉やグレンくんはダウン。
私は今かなりひきつった表情をしていることだろう。
ダカシは……
「ふうむ……うん……なるほど……」
「ダカシ?」
「ああ、いや、悪魔らしいから、俺の中の悪魔に話を聞いていた」
ダカシはさすがだなあ……
それにしてもこれも悪魔のひとつなのか。
ダカシが前本格的に取り憑かれて倒す羽目になったのよりひどいけれど。
「それで、これどうなの?」
「まず……まともに相手しないほうが良い。あと今はかなり落ち着いている。この姿は現界するさいにかなりいじられて……つまり狂化させられているらしい。うっかり刺激して正気を失ったら……まずい」
うへえ……かなり危なそうだ。
ただグレンくんは幸い勇者として悪魔祓いの力を持つ。
もし刺激してしまったらそれで祓おう。
「うーんそうかあ……パイプの伝わる先は……」
「ん? うん……追加情報だ。今ここに光が変なことでもわかるだろうが、アイツは光の刺激を極端に嫌うらしい。ギラつくような光……太陽や魔力光なんかをな。それが最大の刺激になる」
「わかった、光だね」
光か……場合によっては光も危ないな。
うっかり暗いから照らして探そうとか思わなくてよかった。
パイプの先はそのまま辿れば蠢く者の奥に続いている。
"観察"でヤツのこと見るのは……やりたくないからやめておこう。
さっきから"影の瞼"が降りているのが気になるし。
「それじゃあ、ちょっと行ってくる」
「き、気をつけろよ……!」
「危なくなったら、俺の力使うからね!」
「うん」
そのままスッと浮く。
普段は音なんて気にせず飛ぶがそんなことしたら刺激のひとつになる。
アインス頼んだ!
(たのまれた〜!)
アインスが飛行コントロールし穏やかに跳び続ける。
大量の瞳に悪魔の目がこちらを凝視しつくるができうるかぎり気にしないよう……
よく見ると壁の中から管が伸びてこの気味の悪い化物になにやらケミカルなものを注入している。
あれらが先程調整したもの?
このような気味の悪い化物をあれらで抑え込めるのは……
それはそれで恐ろしいかもしれない。
化物は何かをしてくるわけでないがひたすら壁を這い登ろうとピタピタ壁に張り付いてはその部位がちぎれる。
どうやら柔らかすぎるらしい。
このままありがたく奥まで飛んで……と。
壁際までくればまたひとつの足場とパイプに連結された大きな機械。
向こうに鉄扉もあるから本来はそっちからアクセスするところなんだろう。
まあ結界の向こう側なんだけれど……




