九百五十生目 解錠
階段の上は先程とはまた違う雰囲気をかもしだしていた。
黒の城中は比較的広いものの部屋で区切られているタイプのものにもどった。
なんだかケミカルなかおりが漂ってきいるしよくわからない機材があちこちに見受けられる……
階下からは戦闘音が聴こえてくる。
アンデッドの専門家ウロスさんがいるし大丈夫だろう。
というわけで。
「「ハァーっ……!」」」
みんな一旦の安全を知りやっとひと息つく。
「結構危なかった……」
「勇者の剣はあっても、体力には限界がある……!」
「くっそ、こんなところで寝ている場合じゃないのに……! 無駄な体力使わされた!」
イタ吉やグレンくんそれにダカシももう大きな余裕はない。
もちろん私も。
「ハァ、ハァ、よし、休憩品出すよ……」
空魔法"ストレージ"で亜空間からドサドサとものを取り出す。
水。携帯食品。薬品瓶……
血を拭う布や武具手入れの品も。
私が周囲を"絶対感知"を交えつつ見張り。
だれかの手が空いたら私は"ファストトラベル"。
外で龍脈を使い再度"進化"!
今日はなんだか体調がいい。
対決はこういう日に限る。
空魔法"サモネッド"でイタ吉たちの元へワープし直す。
先程までの喧騒とは違いこのエリアは不気味なほどに静まり返っていてる。
あと"絶対感知"でなければ今いる部屋以外がわからないほど何重にも機密漏洩対策がされている。
アンデッドの気配もないし楽だけれど今までと違いすぎて不気味だ……
特に何事もなく休憩を終えた。
「「…………」」
と同時にみんな言いしれぬ不安が拭い去れなかった。
ここまできて……そしてさっきあんなに関わって。
何もしてこないのだ。
最終調整だのなんだのと言っていたのは気になるがこちらの体力を考えると休憩はせざるおえなかった。
だからもしそのアカネに対して何かしたのならさっさとぶつけてくればいい。
それすらもしないとは……
「……行こう!」
グレンくんは勇者の剣を抜き先に歩みだす。
私達もその後に続いた。
グレンくんの瞳はいつの間にか勇者にふさわしい覚悟を持つ目に変わっている。
不気味さを感じても最初の1歩を踏みしめられる者。
まだ幼くとも勇者の片鱗を感じるには十分だった。
「しっかしなんだこれ……? ヘンにくっせえなあ」
「治療所みたいなニオイがするが……そもそもこの機材たちもなんなんだ」
「このような大掛かりなものじゃないけれど……発明家の家で似たような感じはみたことあるよ」
脳内には九尾博士を思い浮かべつつ。
機械があれこれあってなんらかに使用されてたり止まっていたりするが重要そうには見えない。
広さだけはあるのでみんなで走り抜ける。
「……ん!?」
次の部屋へ抜けようとしたら今度は道が閉じている。
これは……電動扉が下がっているのか。
しかもこれ多分……
「だったら、斬る!」
「あ! 待っ――」
「やあっ!」
グレンくんが勇者の剣を振りかざし……大きく斬る!
……のはずが大きく勇者の剣は弾かれていた。
やっぱり……
「えっ!?」
「――て、うん、こうなるよね……ひどく頑丈なのと、魔力が部屋の周囲覆っていたから、おそらく特殊な防ぎ方をした結界に近いのかなって、そう思っていたところだったんだ」
グレンくんには下がっていてもらって結界に手をかざす。
……うん? なんだこれ。
うまく読めない。魔力……なのかこれ?
「あっ、下がったらわかったんだけれど、これもしかしてこのパイプじゃあ?」
「え?」
グレンくんが指を刺した先。
2つのパイプが別方向から伸びてきて扉近くの壁の中へ繋がっている。
……いやまさかそんな王道な仕掛けが……
「おっ、パイプたちは別々の部屋に向かっているのか? これ、壁かと思ったが開きそうだな!」
「施錠されてはいるが、ただの鍵だな……」
「え、ええー……」
壁と同一化しているが他にも道がありパイプたちはそのふたつに繋がっていると。
"見透す眼"で透視出来ないから"ミニワープ"は無理。
ただかんたんな施錠しかされていないようだ。
イタ吉がおもむろに自身の小物入れを漁る。
毛皮から出し入れしているように見えるけれどちゃんと隠し身につけているだけだ。
出したのは……なんだろうあれ。
「よーし……いけるいける」
「ってピッキング!? どこでそんな技術を!?」
「んあ? 俺だって立場上アレコレやるんでね、隠された品はだいたい古来の誰かが施錠したまんまだから、自然と学ぶ羽目に……なっ! うし」
ガチャリという音とともに健全なみんなにはお見せできない解錠行為が行われた。
グレンくんもダカシも思わずポカンとしている。
私もびっくりだよ。




