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九十生目 鼬吉

 イタ吉が帰ってこない。

 依頼報告のあとに街から出て群れに帰ろうとしたのだが……

 ギルド集合と伝えたはずなのにこない!


 イタ吉がギルドに来ると困るからアヅキとユウレンはそのまま待ってもらって私は衛兵所へと辿り着いた。

 はてさてイタ吉はどこかな?

 きいてみよう。


「こんばんは、実はかくかくしかじかなのですが……」

「今調べて見ますね……

 ……あれ、もうそこそこ前にココを出てるよ?」

「あれっ、そうなんですかありがとうございます」


 しまった、こういうことになるならイタ吉のにおい覚えておけばよかった。

 大量に痕跡が残っててどれがどれだかわからない。

 とりあえず衛兵所を出る。


 うーんあとは何か彼の位置を知る方法は……

 あ、スキルだ!

 確かあのスキルを使えば……


 電話を繋ぐ感覚。

 相手が誰かさえわかれば位置がわからずとも問題ない。

 スキルを使ってコーリング。


 ……繋がった!

 目をつむって相手の五感を共有。

 "身体リンク"!


「んあ? んなにゃになんら?」


 その途端口内に溢れる肉の味。

 しかも焼いてタレとかつけてるなこれ!?

 いきなりだったからむせかけた。


 イタ吉、どっかで肉を食べているらしい。

 モグモグ食べながら何か言っているがなんて言っているかわからない。

 そもそも食べるのやめろ、周り見てくれ!


 想いが通じたのか焼いたお肉が乗った皿から目を離して周囲を見渡した。

 正確には声をかけられたからか。

 ここは……商店街のお店のどこかかな。


「今日はおつかれ! なかなか良い戦いっぷりだったよ!」

「へふ、はひひほほふむふむ」

「一度飲み込んでからで良いんだよ!」


 イタチと同じかもう少し大きいくらいの鳥だ。

 えーっと……ウトウとかの種類だったかな。

 その魔物版で翼と一体化した腕が合あって3本指には串に指された肉。


 よし、探しに行ってみよう。

 一旦"身体リンク"を切る。

 走ればすぐにつくだろう。





 ひえ、はえ、つ、疲れた!

 今日はあまり寝ずに働いたというのもあるがまだ魂が弱っているのか!

 あっという間にバテてしまった。


 何とか着いた……!

 はあ、はあ、うえ、ええとイタ吉は今どこだ?

 "身体リンク"!


 映し出された視界は……どこ!?

 イタ吉サイズくらいの小動物たちが周りに4匹。

 さっきのウトウもいる。


「いやー今日は良い稼ぎだった!」

「うちら、良い感じのバランスになったね!」

「楽しかったなー」

「イタ吉くんはこの後どうするのですか?」


 そんな会話が周りから聴こえてきた。

 これ、もしかして即席チームを組んでギルド依頼でもしてきたのか?


「あれ? また繋いできてどうしたんだ?

 ああ、言葉はそっちからは送れないんだっけ」


 イタ吉の小声が聴こえてきた。

 そうだけど、どうしたじゃないだろ!

 約束を完全に忘れてるじゃないか!


「イタ吉?」

「ああ! うーんこの後なあ……この後……何か忘れてるような?」


 そうだ、思い出せ!


「まあいいや、とりあえず泊まる所探さなきゃなー!」


 ダメだこいつ!!

 ええい"身体リンク"解除して行こう。

 多分知っている場所だ。





 ぜぇ、ぜぇ、ほんと、つらい。

 いないな……

 どこへ移動したんだ? "身体リンク"!


「お、繋がったか。おおい、何やってるんだー?」


 イタ吉の目を通して広がる光景。

 それはギルド前だった。

 お、おおいいいいいぃ!!





「よ、なんでそんなに疲れてるんだ?」

「イタ吉を……探して……いたんだよ……」


 ちなみに私がギルド前についた頃には散々ユウレンとアヅキに怒られた後だったらしい。

 まあ軽く流していたようだけど。


「わるい悪い、完全に忘れててさっき思い出した!」


 って言っていたそうだ。

 もう私は怒るに怒れない……


 話を聴くと、イタ吉は昼ぐらいまで散々衛兵所で街でのイロハを叩き込まれやっと出してもらえたそうだ。

 この時点までは約束を覚えていてちゃんとギルドへ向かったそうだが……


「ギルドの中に入ってみたらさ、色々と面白そうな話を聴いてさ!

 そんで困っているやつらがいたから手伝ってきちゃった!」


 この時点で約束の事はすっかりどこかへ行き、ギルドの利用登録をして火力不足から悩んでいたチームに臨時加入。

 そして見事対象の討伐を果たしてお金を手に入れ、お金の使い方を教えてもらった後だったから街でおいしそうなものに釣られる。

 たくさん食べて満足したあとに仲間たちと共にぶらついている最中に約束を思い出したのだとか。


「もう……頼むよ……」

「いやぁ、うっかりうっかり」


 まあいいやぁ。

 疲れたけれど何とかこれで帰れるぞ。

 これで今日は


「あ、今日オイラ帰らないから」


「……えっ」


 いきなり何か言い出したぞ。


「いやさあ、今日組んだ奴らと仲良くなっちゃって。

 それにここならもっと強くなれそうだからさ」


 そう屈託のない笑顔で言った。

 私は何か拒否しようとしている自分に気づいてしまった。

 イタ吉は捕食する側とされる側として出会いそのあと成り行きでついてきただけだ。


 ならば私はなぜ止めようとしているのだろう。

 イタ吉はイタ吉のやりたいようにやれば良いのだから。


「そう? まあたまには帰って来てよ」

「というか『そっち』も『こっち』に頻繁に来るんだろ?

 じゃあ問題ないって!」


 そう言い合ったあと私達は数回言葉を交わしてわかれた。





「じゃあまた明日な! 絶対お前より強くなってやるからな!

 だから越えてやるまで友達だ!」

「はいはい、友達でいようね」


 そうして街から出て門が閉じる。

 また明日も来るはずの場所なのになぜだろう。

 かなしいのは。


 私の大切なものが別れていったけれどそれはそれで満足したような感覚。

 心の欠片を置いてきて、それでもどこまでも繋がっているような……

 うまく表現できない感覚。


 殺されかけ振り回され散々好き勝手やられた相手だったけれど。

 思い出補正か今は悪くないと思える。

 だからかな。

 寂しいのは。


 まあ、明日も来るんだけどね。





 群れへ帰るとこっちの世界ではやはり昼になっていた。

 元々昼間はよく寝ている種族なのでそこまで問題はない。

 そうだなぁ、イタ吉と出会ったのは夜中だったなぁ。

 まあ、またすぐに会うんだけど。





 夜の時間になったらまた街へと走っていく。

 だいぶ魂の疲労が治ったなぁ。

 身体が軽い。


 門が開き私は中に入る。

 ギルドへとまっすぐと行くとそこには、いた。


「イタ吉! おはよう!」

「おお! おはよう!」


 駆け寄って軽く舐めてやる。

 くすぐったがっていたがこれぐらいは良いだろう。

 魔物同士なんだし。


 ああ、一日が始まる。

 仕事をしようっと。





·小話


アヅキ「私も主に毛づくろいをしてもらいたいものだ」

ユウレン「あなた羽根しかないじゃない」

アヅキ「気分の問題だ」

ユウレン「代わりにたぬ吉くんにやってもらったら?」

たぬ吉「えっ、それはちょっと……」

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