九百四十五生目 隊長
ラヴの燃える投げキッスは空中機雷。
ハート型の飛んでくる爪の斬撃は連続で放たれ私達を狙ってくる。
部屋に安全圏はもうない。
ハート型の斬撃はかなり重く刺さる。
鎧越しでも衝撃は大きい。
できうるかぎりイバラではたき落とし……
「さあさあ、さっきまでの戦いでだいぶ疲れたんじゃないかしら……だったらここでずっと眠りなさい!」
「ハァ、ハァ、うわっあぶねっ」
イタ吉は散々踊らされるように避ける。
小イタ吉の誘導でそらしが成功してなくちゃどれもこれも致命的に当たっていておかしくない。
血が何回も飛ぶ。
「さあ、そろそろ、止めと行こうかしら?」
ラヴ自身はまるであざ笑うかのような声を上げながら瞬間的に身を翻し次々別の場所でイタ吉や私を狙い攻撃してくる。
他の面々がいたらむしろ危険でやれない大規模な攻撃……!
だけれども!
「……なっ!?」
「えっ!?」
剣ゼロエネミー!
床の隅をまるで液体かのように変化させ忍び寄せていた。
それを召喚士の背後で実体化。
S字で2つの刃が召喚士へ斬りかかる!
「ぬ、ぬおおお!!」
なんと避けた!?
大剣を支えに軸を思いっきりずらし跳ぶように避ける……
つまりわざと派手にころんだのか!
でも体制は崩ししかも大剣を手放した。
トドメ!
「ら、ラヴ防いで!」
「させないわよ!」
剣ゼロエネミーとラヴの足蹴りがかち合う!
回り込んできたのか!
彼女の蹄の纏う光……最大レベルで重い!
剣ゼロエネミーを回転させ刃をそらし次の斬りつけ!
それもラヴが蹴り飛ばしむしろ剣ゼロエネミーを遠ざけた!?
「さ、これでどう――」
「まあ、それならそれで」
「なっ、か、返せ!」
私の陽動が決まるというものだ。
小イタ吉たちが召喚士の服内側からなにか取り出す。
実はさっき"同調化"でアレコレやっていた。
「へへ、召喚石もらい!」
「――バカっ!」
ひと目見て異質なその石を召喚士から取り上げてすぐに離れる。
そうすれば今みたいにラヴの姿が光となって消えるのだ。
だが召喚士はまだ動ける。
「くうっ、奪い返して再召喚、を……!?」
体勢を立て直し大剣を取りに急いで駆けたその1歩。
わずかに体勢が崩れる。
あの時イタ吉が切り裂いて関節を痛めていたのにそのことを忘れた1歩は確実に蝕み僅かなスキを生む。
「じゃあな!」
刃持ちイタ吉が大きく"峰打ち"。
尾の刃で床に叩きつけられノビた。
これで問題なく勝利だ!
「よし……停止完了」
「ど、どうなの!? これで彼らを助けられる!?」
「理論上は……あっ!」
私達は無事壁を見つけハッキング。
また少し神の力を使って無事停止すると……
あたりの地面が振動しだす!
「な、なんだ!?」
「あたりの空間が不安定になってきてる……! みんな! とにかく脱出しよう!」
「あ! アイツラはどうしよう! 兵士たち!」
「多分大丈夫!」
「むう! 面妖な……!」
みんなで急いで駆けてゆく。
妨害も何もなければスムーズ。
揺れるのでそれ気をつけ電気が飛来するのをゼロエネミーで防ぎ。
そのまま無事に外へと駆け込めた。
「どうなって……あれ!?」
球体から私達は外へ吸い出される。
全員無事に出た……と思ったら。
球体が消えてしまった。
「彼らは!? 助けた人々は大丈夫なの!?」
グレンくんに詰め寄られるがどう説明したものか……うん。うん。
「うん。ちょっと説明するのは難しいけれど……あの世界は他者の大規模な能力で出来ているんだ。壮大な夢みたいなもので、中の物は世界が消えると全て消える。ただ例外があって、外から来たものは全て外へ弾かれるんだ。
私達が急いで出たのは、どこの外に出るかが不明だから。ただ、帝国の人たちが閉じ込められていた空間ごと私が指向性を持たせ世界崩壊と同時に、そのエネルギーで特定の場所に飛ばすように誘導したんだ。今頃解除された次元ごとここから1番近い都市に飛んでいるはず……」
「え? ん? ……ほーん」
「うわ、半分くらいしかわからなかったような……」
イタ吉はさっぱりという顔。
グレンくんもよくわかっていない。
しかし隊長さんは……強く食いついた。
「真か! くっ、ならば私は急いでそれを伝えねば……しかし……」
「大丈夫、伝えてきてください。こちらはこちらでなんとかしますし……もう隊長の疲弊も限度ですし」
「……むう」
隊長さんはこの中で1番弱く体力もないと言えたのに技量と心だけで食いついてきていた。
まさに戦場の鬼だ。
だが今彼の最大目標は達成された。
「それに……私達がどうこうするとは今更思わないでしょうし……では、飛ばします。いいですか?」
「……むう。どうか、頼んだ」
「ええ」
空魔法"ファストトラベル"で隊長さんの姿はかき消える。
彼の信頼を裏切らないようにしよう。




