八十八生目 発明
「ここかな……?」
私はアヅキとユウレンを外へ見送ってから示された場所へ歩いてきた。
たどり着いてすぐにここだと確信を持つ。
何せ他の建物に比べ数倍大きい。
しかも石壁の白い、まるでニンゲンの豪邸。
他のところが変わり種ばかりでなおかつ小さかったから目立つ。
門と外壁まであるし庭つき。
うーむ、お金持ってそう。
門の前まで行くとブザーボタンがあった
『これを勝手に入ってくる前に押せ』と書かれている。
そいやぁ、ブザーだなんてこの家くらいじゃないのか?
ポチリと押すと家の中からベル音が鳴る。
ラグが殆どなかった。
詳しくないけれど技術レベルが高そう。
中から動く気配。
少したつと中央開きの扉が少し開く。
中から顔を覗かせたのは白い……というより白髪の狐だった。
メガネをかけていかにもお年寄りといった雰囲気を漂わせている。
「誰だアンタ?」
「清掃の依頼を受けた者です」
「ふん……やっと来たか。いやまあいい、勝手に入ってくれ」
い、いきなり凄い辛辣な気配……
それだけ言うと顔を引っ込めてしまった。
勝手に入れと言われたので遠慮なく入らせてもらった。
狐が住んでいるというだけあって四足でどうにかなるように全てに工夫がされているのは面白い。
ちなみに2足でもスムーズに出入り可能になっているようだ。
中に入るとさっきの狐が廊下を曲がるのが見えた。
早いな!
ついてこいということなのかな。
中は外観通り広い。
廊下を曲がるとそこにはさっきの狐がいた。
尾が9つあるから九尾ってやつだっけ。
"観察"してみよう。
[??? ???????????]
えっ。
な、なんだ今の!?
観察が妨害された!?
「何ボケーっとしてるんじゃ!」
「ああ、ごめんなさい、それでお仕事の方はどこを?」
気づかれてはいない、何か自動でカウンターを食らったのか。
観察妨害なんて初めてだ。
この九尾、只者じゃない……!
「ふん、この部屋の中から始めて貰おう。道具はコレでな」
ニヤリ、と悪い笑顔。
あ、あれ、気づかれてる……?
と思ったら。
あっという間に全身に金属が取り付けられる。
九尾は半分以上白くなってしまった尾を楽しげに揺らしていた。
「このワシの開発道具、歩けば掃除くん12号じゃ!」
「えええええー!?」
話に聞いていたとおりだ!?
本当に開発者なのか!
それにしてもこれは……機械なのか?
魔力も感じるけれど、魔力はどちらかといえば電気変換され……あれ。
「それは歩いて近くへ行けば伸びた多数の腕がガンガン掃除していってくれる、ワシの発明品じゃ!
なお動力はお前さんから吸う」
「ぎゃあああああ!?」
やっぱりかー!!
行動力を私から直接奪ってやがる!!
断りもなしになんてものつけてるんだ!!
「なあに前号までは問題だったあっという間に干からびるほど吸う効率の悪さは改善済みじゃ、安心せい」
「安心出来ない単語が!?」
良いからさっさとやれ! と部屋の中に叩きこまれた。
くっ、私が"幸楽"による自動回復と"行動力節制"がありレベルもそこそこあってよかった……!
吸い尽くされる前に終わらせよう!
部屋の中は灯りがつくと埃が舞っていた。
私の鼻腔が拒否反応を示す。
うええ。
蛍光灯のように見えるけれど、そういう光る石でもあるのかな。
それにしても……
「汚い……」
「なんの為に依頼したと思っとるんじゃ、さあデータをと……じゃない、掃除をしろ!」
「データ取らせろって言いかけませんでした!?」
試作機じゃん!
明らかに私実験台じゃん!
思ったよりヤバイぞこの九尾じいさん!
仕方なくあるき出すと機械が勝手に目の前の床を掃いて磨き出した。
落ちていてる本に近づくと拾い上げてキレイにしている。
ええと、この本は……
「腕の数には限りがある! 同時に持てる数が限られるからな!
それと物の配置を戻す際は念じろ! 下手くそ!」
「今初めて使うのに!?」
ええい、念じるんだったな!
この本をそこの本棚に……ああ左に寄せて!
倒さないで!
あとはこの良くわからない機材を……
うえ、油まみれのものも!
意外と二足歩行の魔物も使うのが多いみたいだなぁ。
自称発明品なだけあって謎の機材の多いこと多いこと。
ただ逆にわかるものは凄い気がするな。
「これって、無線機ですか?」
「うん? どこでも会話くん5号のことか? それはなワシが金属板を巻き付けていたらな……」
色々と説明してくれたが最後は『まあ話す相手がおらんでお蔵入りじゃ』とシメてた。
苦笑いしたらめちゃくちゃ怒られた。
どうすれば正解なのだ。
他にも……
「あれ? これって発電機?」
「なんじゃあ? バリバリパワーつくるくん32号か、それはとんでもない力じゃが爆発するぞ!」
「捨ててくださいよ!?」
『危なくて棄てれるか!』とのことだった。
まあ確かに爆発物は捨てたらダメか……
詳しく話を聞いたらやはり発電機だった。
別の部屋に移動しても九尾はついてきてあれこれ指示しつつ開発したものの話を聞かせてくれたがやっぱり……
このじいさん、ちょくちょくオーパーツ作ってない?
この街良くてもファンタジー近世から中世だぞ?
「これって点滴の……」
「管で血い吸いくんか? それで対象に管を差し込むと吊るしてある袋に全ての血を奪う予定だったんじゃが……うまくいっとらん」
「思っていた使い方と違うよ!?」
吸うのではなく薬液を送り込むのに使ったら? と言ったらなんだこいつみたいな顔された。
金属がアルミ風だったりプラスチックに近いもので管が出来ていたりとこれに至っては西暦2000年クラス。
量産は出来てないし使い方が明後日の方向だから埃かぶっていたけれど。
確かにずっとこういう感じで掃除していれば大抵の魔物じゃあ理解できないし、興味のない事をずっと聞かされる感じでつらいだろう。
けれど私なら……前世がもうちょい科学の進んだ世界のニンゲンならわかる。
このおじいさん……
「凄いですね、科学をしているんですね」
「『カガク』!? お前さん……さっきから思っていたが……」
そう言って九尾は細い目が力強く開かれる。
「この街のモノじゃないな……!?」
ズコーッ! って思いっきり転びかけた!
何かとんでもないこと見抜かれたのかと思ったよ!
「最初から首にぶら下げてるじゃあないですか! 街の外の者ですよ!!」
「んあ? なんじゃ、目が見えにくいじじいになんか読めとか鬼かお前は!!」
「逆ギレされた!?」
そんな事をわいのわいの言いながらいくつもある部屋を片っ端からかたづけていく。
ひ、広い!
思ったよりもさらにこの屋敷広いな!
「老眼なんじゃあないですか? その眼鏡は老眼鏡じゃあ?」
「ローガン? ふむ、翻訳機が反応しない言語を先程から……」
「ああ、目の加老現象ですよ」
私が老眼について説明したら驚くと同時に納得していた。
そして悪い笑みを浮かべる。
「なるほど……ならば既存のものをちょちょいとイジればできそうじゃのう。
この『遠くまで見えるくん33号』も良かったのじゃがのう」
「近視でもあるんですか?」
「今度はなんじゃそれは」
互いに意見を交換していく。
遠くまで見えるくんなるメガネは近視メガネではなくスキルの千里眼というものから発想をえたらしい。
種族が生まれ持つ見える限界範囲すら越えて遠くまで見えるとか。
なにそれ欲しい。
「私は種族的にあまり遠くのものと動いていないものに弱くて……」
「なんじゃなさけない、そういう時こそ発明して打破せよ!
ま、ローガンに悩まされて最近は設計図すらつくれなかったワシが言っても、説得力が薄いんじゃがのう」
はははと笑ったらめちゃくちゃ怒られた。
理不尽を感じる。