九百二十一生目 陽動
勇者の剣がナイフだった。
「ええっ、どうして!? 作るのが間に合わなかったの!?」
「ち、違う、違うんだよ! 俺もびっくりしたから聞いたら、まず体格的や動きに合っているサイズはコレということ……それにまだ秘密があった。それは、実践でね」
「う、うん」
グレンくんが必死に弁明してくれたが小さいナイフなのにかわりはなく。
確かにグレンくんは長物よりこちらのほうが合っていそうだけれど……
なんなのだろう秘密って。
それよりも……もうひとりの絶対連れて行く必要があるメンツ。
「む……勇者がまだこんなに子供だとは……我々大人が払うツケか……」
複雑そうな表情をしているのはいつぞやの双剣隊長さん。
彼は実力者だが特筆するほどではなくしかも部隊を率いているはずだが……
私達の監視でもあるが左遷でもありそう……
「俺、ですか? いや! 勇者だからってのもありますが、こうみえて結構大人ですから、任せてください!」
「エモノが振れて戦えるんだろ? じゃあ立派なオトナだな!」
私の選抜メンバーのイタ吉。
イタ吉は裏でもしっかり鍛え上げているらしく実力の上げ幅が大きい。
もしかしたらもう1段階踏み込めるところまで来ているかもしれない。
「それに私達もいる。後ろは任せな!」
「退屈にはならなさそうだかさな! ガハハ!」
「ダン、僕たちがしっかりしないと、全員死ぬから気を引き締めてくださいね」
「オウ!」
オウカにダンにゴウ。
普段は勇者グレンくんを鍛えつつ旅しているニンゲンたちだ。
彼らは私達とは別働隊で私達が派手に暴れ彼らは常に後方を確保し撤退と安全それにひっそりと探索する。
グレンくんが1番信頼出来る相手だからこそ任せられる。
さあそろそろ行――
「ちょっと待った!」
……え?
集合地のテントの出入り口から誰かが光を背に立つ。
「「うん?」」
「その戦い、俺とマイワイフもやらせてもらうぜ!」
「って王子!? 何をやられているのです!?」
うわっ! なんだかとても懐かしくて思い出すのに時間かかった。
隊長さんの驚き声で気づく。
「そのビーストソウルというピンクカラーの宝石剣、第4王子のダンダラさん……!」
「お! オレのこともなかなか有名になってきたみたいじゃないか!」
そういえば私は今ネオハリーだから相手からしたらわからないか……!
危ない危ない。
……ん? 私からしたら?
「って、そうか、オレとワイフに直接会ったことあるのが、ふたりいれば話くらい聞いてるか。剣折姫は元気か?」
「ん? あ、俺? そいや前会ったな! その剣覚えてるぜ」
しまった! イタ吉は2度目!
別に悪いわけではないが私イコールローズだとバレるとややこしくなる!
そしてイタ吉はたいていそのことを忘れる!
「で、剣折姫って?」
「ほら、アンタと一緒にいた、あの女の子だよ」
「ああ! それなら……なあそうだよな、ロむごぉ!?」
「ええ、彼女はまた別件で動いているらしいですよ!」
イバラで高速足払いでイタ吉の片足にダメージ。
さすってこちらをにらみつけていた。
私はアイコンタクト。
ほんのわずかな時間。
イタ吉はあっとした顔を見せる。
こやつ……
不審には思われたが怪しまれてはいない。
「うん? ふーむ、それは残念だったな……あの実力なら活躍間違いなしなんだが」
「そ、そうなんですか〜、それで、もしかして本当に……?」
「もちろん参加させてもらう!」
「だったらこっちの部隊だね! ちょうど人手が足りなかったんだ!」
オウカが助け舟を出してくれた!
ダンダラも素直に従う。
「わかったぜ! オレが来たからには絶対民たちを守る、そして……帝王……オヤジを救う!」
「おう! そのいきだな!」
「なら決まりだ! さあ突入前準備さ!」
オウカの号令で全員補助魔法やスキルを使いだす。
戦闘前だし準備は万端に。
さあ……空魔法"ファストトラベル"だ!
城内に景色が切り替わる。
"ファストトラベル"の仕様上みんな手を繋いで飛んでこれた。
仲間はずれはいなかったらしい。
「……うわっ、ホコリっぽいな……」
「おそらく、普段清掃する者たちも、今は囚われているのかと」
みんな小声でワープ先の倉庫に文句を言う。
私も思ったけれどここが1番便利だったんだ!
さて……それじゃあ。
「よし、俺たちが陽動して大暴れしよう!」
「「おー!」」
戦いの始まりだ!
グレンくんが先導し扉に張り付き……
うなずく。
そして蹴破るように扉を明けた!
グレンくんに続いてイタ吉に隊長そして私が飛び出す。
左右に続く廊下の向こうでアンデッドたち。
こちらを振り返り……というところでイタ吉がそのスケルトンの背後に寄る。
そのまま尾の刃で切り裂いた!




