八十七生目 鉄板
ギルドというところに辿り着いた。
意外と小動物たちがたくさん出入りしていて盛況だ。
隣には酒場がある。
ココで稼いだお金をそのまま……というズブズブの流れが目に見えるようだ。
「小さい……」
「我々は中には入れなさそうですね」
ユウレンとアヅキはどちらも2足歩行で縦に160cmほどと200cm越え。
私のように四足で高さ数十センチ程度じゃなければとてもじゃないが入れなさそうだ。
「外で待ってて、見てくる」
「では我々は近くで情報を集めてきます」
別行動ということで私は建物に入った。
中にいる小動物たちはいかにも腕っ節がつよそうな逞しさがある。
カウンターの向こうにいる虫が受付かな。
『あれが噂の……』とか『何をしに?』とか聴こえてくる。
目立つ気がなくともどうしても目立ってしまう。
うう、とりあえず受付へ行こう。
「こんにちは! 噂はかねがね! 今日は何のようでこちらへ?」
「実は……」
慣れてはきたけれど虫がちゃんと話し、街の一員として働いているのは凄い。
魔物だとは言え森にいた彼等はこんなに思考をはっきりとしていなかったはずだ。
魔法の力か何かかな。
「……なるほど、では是非、利用登録をしてみてはいかがでしょうか?
情報募集をすれば資金は必要になりますがみなさんが情報を集めてくださいますし、逆にそのような依頼をこなしてくだされれば賃金が出ますよ!」
なるほど、確かにそうしたほうが良いかな……
どちらにせよお金ほしいし。
「じゃあ、是非お願いします」
「はい、わかりました。では文字は読めますか?」
「はい、覚えましたから」
「おぼえ……あれ、昨日こられたのですよね?」
まあスキルのおかげなんですけどね。
順調に手続きを終えギルドを利用する許可証を貰った。
ついでに大きすぎて入れないふたりの分ももらう。
これで晴れて私達もこの街の仕組みの一部に関われる。
「早速お金が無いので何かやりたいのですが」
「でしたらあちらの掲示板をご覧ください! 危険が伴う場合は難易度も書かれていますし今日中に終われるものばかりです」
いくつかあるうちの掲示板の1つを指されたので早速確認。
どれどれ、[屋根を直してほしい][とある道具が欲しい][部屋の掃除を頼みたい]……
[難易度1(低い)特定の魔獣の肉が欲しい][難易度3(やや低い)森に行って素材を探して欲しい][難易度8(かなり高い)空から襲ってくるアイツを倒して!]……
意外とたくさんある。
戦闘系は私は無理だし、逆にアヅキたちは日常系はまず家に入れなかったりする。
さてさて、どうするかな。
一旦外へ行きアヅキたちと合流。
事情を説明した。
「そうね、無一文よりもお金がある方が素直に情報が手に入りやすいかもね」
「雑音も多く混ざるでしょうが、少なくとも手がかりは得やすくなるかと」
「それにしても依頼の種類ね……ローズはもちろん非戦闘系にということなのだろうけれど」
私が見てきた依頼をわいわいと話し合う。
その結果、私が[部屋の掃除を頼みたい]にアヅキたちは[難易度8 空から襲ってくるアイツを倒して!]となった。
ちなみに私の依頼はいわゆる手ぶらでもオーケーだった。道具の貸出があるそうだ。
アヅキたちの依頼は複数受けていて今日が締め切りだったものだ。
わかっている情報からすれば『まあ大丈夫でしょ』というのはユウレンの談。
ちなみに私のものに比べ段違いで報酬が高いのも魅力的。
仕方ないのだ、私はとてもじゃないが戦える身体じゃないし……
そして依頼を受けにカウンターへ。
「すいません、このふたつください! 受けるのは別々です」
「はあい! あら……」
一瞬言い淀む。
しかし虫の表情はよくわからない……
「危険な依頼が含まれていますがよろしいのですか?」
「ええ、仲間は強いですから」
「良いお仲間をお持ちなんですね!」
ふむ、やっぱり難易度8(かなり高い)をいきなり受けるのは危惧されたかな。
受理されて手続きを終えて外へ……
「ちょっと待ちな!」
出ようとすると、ガタイの良いオッサンたちに絡まれた。
小動物じゃなく私サイズの魔物だ。
しかも3匹。
「ええと……?」
「依頼、見せてみなア」
そう言うと勝手に紙を奪った。
くっ、抵抗したかったがまだ身体がそこまで反応しない……
にしてもこんなチンピラまがいに絡まれるとは。
「ああ! やっぱりか!」
「ああ、間違いねエ」
「うーん……」
3匹顔を覗かせ何やら言っているが……
そして私の方に紙を返してきた……片方だけ。
「お嬢チャン、そっちは良い。たがこっちは止めておきナ!」
そう言ってチンピラが返さなかった方を指す。
それは部屋の掃除の依頼だった。
……え、そっち?
「この依頼は、『ヤバイ』ぜ」
「素直に言って、これはやめとけ」
「どういうこと……?」
なんともガラの悪い態度のオスたちだが私に紙を返しつつ話してくれた。
「そこの依頼は偏屈ジジイの家でナ、このギルドじゃ有名なクソ依頼ダ」
「ひどいめに、あう」
「意味の分からない道具が大量にあるし、意味のわからない話を延々聞かされるうえ、めちゃくちゃかんしゃく起こして来るんだよなあ」
「自称発明家のジジイだが自分の話を誰かに聞かせたくて、いつも依頼を出してる。
毎度初心者が食い物にされてんのヨ」
しかも安いだろ? と彼等は笑った。
カウンターの虫を見る。
さっと複眼をそらされた。
さっきわざわざ止めたのって……
「じ、受注のキャンセル時は手続き料をいただきますが……」
「うっ」
「良いぜお嬢チャン、そんくらいならオレが持つからヨ……」
いや、でもそれはなあ。
さすがに見知らぬ通しで貸しをつくるのは……
それに。
「いいんです、自分で見て確かめますから」
「良いのか? まあ、警告はしたからせいぜい注意するんだナ」
そういって彼等は道をあけてくれた。
うう……嫌な予感がする。
外に出るとアヅキたちが心配してくれていた。
「主、絡まれていたようですが大丈夫でしたか?」
「平気、ただの親切なひとたちだったから」
「こっちとしてはアンタが戦わないかヒヤヒヤしていたのよ」
意外と私、好戦的に見られている……?
まあ"私"は確かにそうか。
ただ私は違うからね!
その後私達は歩いて仕事の場所へと向かった。
私は町の地図を確認しつつ住所に向かった。
さっきの話を聞く限りだと住所では知らなくても、いざ地図を見たらこの街に住む者ならどこかわかってしまうという感じなのかな。
向かう先は入ってきたのと反対側の門か。
いくつか壁がつくられていて少しずつ拡張されているのがわかる。
私はその一番外側の門まで見送りすることにした。
「私達は現地へ向かうからローズも終わったらギルド付近に集合よ」
「では行ってきます」
外側の門が開く。
ニンゲンが通れる程度に少しだけ。
なんだか凄い熱気が漏れてきたが一体外はどうなっているのか。
尾を振って見送ったあと、もう一度地図を確認。
うん、この近くのはずだ。
·小話
彼等のひとりごと。
アヅキ「このペースで間に合うのか……!? 主よ、どうか持ちこたえください!」
ユウレン「この街……私の知れた事と推測を照らし合わせて合っていたら彼等は……ふふふ、大きい秘密があるのかしら」