九百十一生目 瓦解
ドラーグと連絡を終えたあとあの光景が脳裏に浮かぶ。
アンデッドたちを叩き潰しどこか恐ろしげな笑顔を見せる修道服の子……
螺旋軍のエースダルウク。
若いが螺旋軍の誰よりも強いのはドラーグを通して見れた。
あの後もアンデッドたちをほぼ物理的にちぎっては投げちぎっては投げを繰り返していたようだ。
その姿にどこか恐ろしさを感じつつもドラーグは褒めることにしたらしい。
とりあえず彼らは彼らに任せておこう。
ドラーグにまかせて悪くなることはない。
悪いことがおきたら……こっちがなんとかすればいいだけだ。
私はこの後の激戦にそなえるべく心の準備もととのえる。
なんだか長い間カエリラスとは因縁がある気がしてきている。
彼らは私が生きる上でも……多くのものが生きる上でも危険だ。
その上に魔王という魔物である以上避けて通れない相手を復活させようとしている。
勇者グレンくんの存在が魔王の避けて通れない復活の近さを表している……
魔王が復活したら何が悪いかと言えばもう魔王が復活したさいの危険度を正確に発せられる者はほとんどいないのだ。
ニンゲンは特に寿命で。
歴史の中に埋もれた過去の話であり激しい闘争の末生き抜いたとしか一般的な理解はない。
私が図書館で調べた限りではとにかく徹底的にニンゲンを滅ぼすことに余念がなかったようだが……
蒼竜は負けた話はしたがらないしそもそもあまりにも昔のことすぎることでニンゲンたちは……いやきっと私達魔物も魔王への想定がかなり低いのだろう。
そりゃあ当時より遥かに技術発達して魔王はたとえ来たとしても復活したばかりのもの。
現代の能力で圧殺可能かもしれない……が。
どうしても蒼竜含む5大竜が敗北したことが気になる。
ニンゲンの世界での記述は5大竜の敗北は詳細にはない。
うたわれるものでも謀られたとされている。
けれどもあの蒼竜が謀られた程度で負けるとは思えない。
本体は陸地山脈と化しているほどで何か策を弄した程度で倒せないし。
魔王は想定以上に危険な存在だと思っていてもきっと足りない……
そして私が見る夢。
何もかも滅びた地の夢。
あんな惨状を引き起こせるとしたら魔王で……
私に対して魂ごと攻撃するその夢を延々と見せているのもその魔王ならば。
私はこの戦いで想像以上に円の中心にいる……
私は多少ながらも力を身に着け少なくともその力をみんなのためにそして自分が生きるために使いたい。
みんなのためという私のために魔王の完全復活を阻止せねば。
不思議な存在勇者とともに。
勇者は『そういうものだ』と言ってしまえばそれで世界の常識に組み込まれてしまうが……
魔王と勇者という対比がわざわざあるのはなぜなのか……
私だから不自然に感じる部分だが何かあるのか。
まだわからないことは多いが……
そうこう考えていたら勇者グレンくんが"以心伝心"での念話だ。
『もしもし?』
『あ、ローズさん! できたんだってさついに、俺たちの剣が!』
『あ、ありがとう、すぐ行く!』
やった! ついに勇者の剣と私のゼロエネミーが!
……うん!?
ドラーグからまた連絡!?
『もしもし?』
『た、大変です! 見て聞いてください!』
『う、うん……うん!?』
ドラーグが慌てている。
急いで視覚聴覚を借りると映し出されたのは遠くから帝都方面を見ている映像。
そしてその上空に大きく幻覚が見えた。
それはニンゲンのバストアップ映像。
ホログラムのような半透明の姿。
映し出された虚像。
あの顔は……
『ウロスさんの一番弟子!?』
『本当にカムラさんそっくりなんですね……』
「――と、無駄なあがきを楽しんでもらっているようだね、恐れ入った」
エコーがかかった声が聴こえる……
あの幻覚から聴こえるということは一番弟子が話しているのだろう。
声も聞き覚えがある。
見た目はカムラさんを少し老けた感じなのに声は非常に心をざらつかせる。
『まったく、大規模な攻撃を仕掛けてきたと思ったら、随分と効果的な入れ知恵をされたようではないか。それの力は私がよく知っている』
それもそうだろう。一番弟子だったんだし。
『だからこそ、こういうことも出来る』
その声と共に指を鳴らす音。
同時に帝都山脈の内側から次々とアンデッド空軍が飛び立つ。
そのアンデッドたちは邪気のないアンデッドたちに近づき……
真っ黒な光で爆発した!
今のは!?
『た、大変です! アンデッドたちの消した邪気が……復活しました!』
『ぐっ! ついに打ってきた……対策!』
ドラーグが叫ぶとおり現場から急激に悲鳴と怒声が上がりだした。
まだお祓い炎石の数は少ないからみんなに配布できていない!
急いでお祓い炎石のチャージが済んでいる者たちが前線に向かっているが……
一度精神汚染ダメージを受けたらお祓い炎石ではどうしようもないのだ。
これは瓦解する……!




