八十六生目 滞在
ひたすら部屋の中で待たされ数時間。
さすがに暇を持て余していたので私はぐっすり寝ていた。
何かあったらアヅキかユウレンに起こされるだろうし。
そして周りが騒がしくなって自然と起きた。
どうやら結果が出たらしい。
扉の下に備えられて小さな扉が開く。
小動物用の扉だ。
わらわらと鎧を着込んだ小動物たちが出てきたあと、制服を着込んだむしがふたり。
ええと……メスのクワガタの魔物かな。
真っ赤だから目立つ。
『彼等が例の?』
『はい。外部からの訪問者など何十年ぶりか……』
やっぱり閉じた街だったんだな。
外への道はこっそりあるけれど基本はあの門番大トカゲが防いでいると。
門番大トカゲはまた元の場所に移動したのか今はここにいない。
「どちらかが町長か? 私達はどうなるんだ?」
『我々は派遣された者です。異例の問題で町長他議員たちが緊急議論をした結果、我々が検査を行います』
そのままテキパキとクワガタが指示を出して行き私達は別の部屋へとわけられた。
私は事情を話してダチョウ型の骸骨と一緒。
置物が何かだと思っていたらしく普通に動くのをみて派遣されたクワガタたちはびっくりしていた。
とは言ってもユウレンが、あれはユウレンの指示通りにしか動かない意思のないものだと説明して事なきを得た。
そしてそれぞれ別室での取り調べが始まった。
私は相変わらずカゴのなか。
そこでクワガタと向き合う。
ダチョウ型骨にカゴを地面に置いてもらいクワガタは台に乗ってやっと正面になれた。
『それではよろしくお願いします。まずはお名前から改めてお聞かせください』
「はい、私はホエハリ、あとローズオーラってニックネームも名乗ってます」
『なるほど、確かに個体名があるだなんて森のかたでは変わっていますね。これは誰かに?』
お、個体名概念がちゃんとあるんだ。
さすが街だ。
その後もそんな感じで話が進んでいく。
だいたいは門の前で散々聞かれたことだけれど時折彼等が魔法やスキルを使うのが見られた。
書類と照らし合わせ私の言葉を聞きスキルを使う。
おそらく嘘をついていないかを調べるためかな。
数十分質疑応答を繰り返している間に私とクワガタは仲良くなっていた。
私の言葉は向こうによく通じるし相手の言葉をこちらはちゃんと理解出来る。
私のスキルで翻訳機を通さず話せるようになるとかなり話がはずんだ。
「……いやー、驚きました! 森のかたがこんなに文化的だとは驚きました!」
「よく変わっているとは言われます」
「特に法的概念がしっかりしているようで、これなら問題なさそうですね!」
あー、まあ森では殺す食べる奪うが自然の摂理だものね。
街でそれやられたら困る。
「お疲れ様でした、質疑応答は以上になります! 多分大丈夫ですのでもうしばらくお待ちくださいね!」
そう言ってクワガタは書類をまとめ部屋から出ていった。
ふう……何とかなりそうだ。
それにしても、本当に街なんだなあって実感した。
ニンゲンが運営していると言われても違和感がない。
それから数十分後……
私達は部屋から解放された。
ユウレンは至って余裕だったという表情。
アヅキはぐったりしている。
まあアヅキは生粋の森出身だし、みっちり街でのルールをしごかれたのかな……
クワガタのふたりから首からぶら下げるように紐がつけられた平たい石。
何か書いてある。
町中の看板などにスキル観察を使ってこの街の文字は習得済みだ。
[特例滞在許可証]
後は細々と特例だということが書かれている。
私達は指示通りにこれを首からぶら下げた。
『それとおふた方にはこれをどうぞ』
そう言ってクワガタはアヅキとユウレンに翻訳機を手渡した。
普通の首アクセサリーに見えるがしっかり言葉を訳すらしい。
……あれ、私には? 必要ないって?
街の基礎的な地理を教えてもらい私達はやっと建物の外へと出してもらえた。
ってもうすっかり暗くなっている!
「うーん……! やっと翼が伸ばせる!」
「さすがに疲れたわね。休むためには一度街をでなければいけなのよね」
この街には私達のようなサイズの生き物が休む施設がない。
この滞在許可証があればしばらくの間は私達は出入りできるそうだ。
だから出ても大丈夫だ。
そして私達は外へと歩いていく。
帰りは小動物たちの目が好奇心の方が強くなっていた。
なんとか仲良くなりたいなぁ。
街を出て迷宮の階段を登って森へ出る。
こちらでは昼になっている。
その先に大トカゲも待っていた。
事情を説明して今後も通してもらえるようになった。
「よかったなー! もうアンタらもオレの友達だ!」
「いやよ、私は」
「そうだな」
「ひどい!?」
翻訳機の力で私を通さずに会話出来るようになったからスムーズだし楽だ。
そして群れへと戻り……
また街へ帰ってきた。
「おおー! 本当にこんな所に門が!」
なぜかイタ吉もついてきた。
イタ吉は滞在許可書がないのでまずは許可をもらいに別行動。
イタ吉の大きさなら他の小動物たちとサイズはあまり変わらない。
私達の時よりずっと馴染んでいた。
私もやっと身体が動かせるようになった。
昨日は本当に酷かったからね。
精神面もすっかり弱っていた気がする。
本当にアヅキに頼りっぱなしで……
あああ、あれやこれやみんなアヅキに頼ってた!!
恥ずかしいぐらいに!!
心の中で転げ回る。
まあ、まあいいや!
ちなみに現実ではまだ転げ回る元気はない。
街は朝になるころだった。
既に市場は活気づいていて私達の周りにはたくさんの小動物たち。
『一体どこからきたの?』
『凄い大きいなぁ』
『ほい邪魔だよー』
『ぜひうちの商品見ていってくれ!』
質問、勧誘、興味、色々とある。
あ、今どきますね。
私のサイズですら大きい扱いの世界はまさに不思議の国に迷い込んだようだ。
早速探索!
アヅキたちとともに街の様子を見て回ることにした。
そして情報収集だ。
内容は、"進化"について知っている相手だ。
私の過度な負担の原因のひとつだった進化。
一時的に姿を変え大幅に身体強化するそれを知っている相手がこの街にいるはず。
というわけでお店でウインドウショッピングしつつ話を聞いて回ることにした。
「いらっしゃい! 新鮮なリンゴはどうだい!」
「あ、お金かぁ……どうしよう」
すっかり抜け落ちていた貨幣概念。 森の暮らしは長かったからね。
「森から来たんだっけ? そりゃあお金なんて持ってないか。
仕方ない、じゃあギルドで仕事を斡旋してもらったら?」
「ギルド?」
店員さんによるといわゆるなんでもお仕事を斡旋してくれるところがあるのだとか。
あれだ、短期バイト斡旋所だ。
ニンゲンたちの冒険者ギルドと違うのはこっちは別に世界を冒険することは目的じゃない点か。
「ま、何もなしっていうのもな、試食用だがこれをやるよ」
「良いんですか! ありがとう!」
「なあに! その代わりお金が入ったらぜひ買いに来てよ!」
商売上手だ。
試食用の形が崩れたリンゴを半分貰った。
アヅキとユウレンが別の所で話を聞いてたが自分と同じぐらいで出てきた。
「やっぱりニンゲン界の硬貨は使えないのね」
「なぜ私をみんなそんな怖がるのだろう……」
ユウレンは金色の硬貨を懐にしまっていた。
アヅキは……目が鋭いからね。
結局話はみなギルドいってみたらということ。
情報も自然と集まりやすい場所らしい。
リンゴを三等分して食べながらその話をしていた。
位置は確認済みだ。
さて……少しは近づけているのなら良いけど。