九百生目 隊長
ニンゲンたちの部隊がごく一部仲間になった。
それでも万はいる。
アノニマルース軍の戦闘部隊なんて最大数でも万はいかない。
その代わり質は高いつもりだけれど……こういう時に量のすごさを実感する。
物量は軍としての戦いで圧倒的に有利をもたらす。
ただ進んで踏みつけていけば勝てるからだ。
アンデッドたちは自身の命などもともとあってないようなもので気にしない。
むしろ積極的に生者を狩る。
大軍運用としてはこれほどまでに便利なものはない……
さらに当然のようにアンデッドたちには規律があるらしい。
さきほどから見ていたが1部隊単位で固まって移動したり何らかの作戦のために移動優先したりもしていた。
指揮系統がどこかにある……
アノニマルースでも指揮ができるアンデッドはいる。
賢い個体がちゃんといるのだろう。
敵は烏合の衆ではない。
そしてそんなことなどジャグナーたちアノニマルース軍はとっくに理解済み。
油断せずに進軍していた。
なお開いてあるゲートからアンデッドが逆流しないよう常に見張られているため限度はある。
アノニマルース陸軍はアノニマルース空軍と違ってあんまりお祓い炎石を持っていない。
合計数が600ちょい程度だから先発隊ふくむ空軍持ちが多いのだ。
空軍が邪気を消したところに突っ込んで斬り伏せてとにかく青壁付近の安全を確保するために動いていた。
ドラーグと共に駆けるのは先程の隊長。
踊るように双剣を操り低く入って胴を切りつけたかと思いきやそのままもう片側で首を飛ばす。
返す刀で見ずに背後へ剣を振り交差させて突くと背後にいたゾンビの頭を貫いていた。
手際があまりに見事だ。
ドラーグとコロロは必死に殴って吹き飛ばしているのであんまり気にする余裕はなさそうだが。
「ふむ、さすがに邪気が無ければ単なるアンデッド……それにこちらには、蒼竜神の遣いもいる。この戦、負けることは許されぬな」
「……ん? え? 蒼竜神の……? いや、僕はただのドラゴンで……」
「何、そういうことではない。魔物たちが……そして何より竜、つまりドラーグ殿が仲間をしていてくれるこの状況。それこそが、蒼竜神の気配り、そして遣いというもの。神とは直接手を差し伸べるものではない、盤面を見下ろすプレイヤーのように、誰かと誰かを繋げる見えざる手なのだ。ハッ!」
ぐるりと回転して見事な一閃がスケルトンの頭蓋を吹き飛ばした。
ふうむ蒼竜教の考え……ということかな。
そういえば蒼竜は自身が直接物事を解決することを嫌うタチがあったな。
ドラーグはよく分かっていなさそうだ。
そもそも蒼竜を蒼竜と認識して話したことはないだろうし。
「うーん、そういうものなんですかね?」
「……パパは、パパ」
「そう、そういうことで良い!」
再び剣戟や爪撃が舞い相手の肉や骨が散る。
だが油断はならない。
アンデッドたちは攻撃を当てても怯むことが少ない。
ドラーグがちゃんとふっ飛ばしているのは反撃を警戒してだし隊長も倒したと思ったアンデッドが背後から来て再度迎撃なんてこともやっている。
どうしても近場の相手からは殴られたりはしているものの今の所うまく防いで致命打は避けているようだ。
コロロが喰らうとマズイけどコロロの指示が適確でしっかり弾き飛ばしていた。
「はあ、はあ、き、キリがない!」
「……パパ、あそこ押されてる」
「なんだあのアンデッドは……邪気が集うところでは、あそこまで凶悪そうなアンデッドも生まれるのか!」
ドラーグが言われて見た先。
ニンゲンやアノニマルースの兵たちが抑え込もうとして……
地面に武器を叩きつけた衝撃で吹き飛んでいた。
武器を持つスケルトンの姿は豪華に飾られていた。
宝石が飾られたおぞましい王冠を被り擦り切れながらもまだ威厳を感じさせる赤いマント。
そして多数の骨を束ねて作り出した巨大な槌。
5mはゆうに超えているその姿は骨だけなのにむしろ威勢すら感じた。
ここからだと"観察"は無理だけれど……
名付けるならスケルトンキングだろうか?
その槌の天を地につけ不遜な態度をとり体重を預ける。
槌の全長はありえないほどに大きく持ち手はスケルトンキングの身長を越えていた。
あんなの良く振れるな……
「……大きいのは――」
「僕が相手だ!」
ドラーグが翼を広げスケルトンキングへと向かう。
「む! 私も助太刀致す!」
隊長も双剣を後ろに流して走り後に続いた。
スケルトンキングの前まで辿り着こうと思ったら敵の前地面から大量のスケルトンたちがわらわらと出現しだした。
スケルトンキングを守るような陣形だ。
その間にもスケルトンキングは大槌をゆったり構えだす。
「ゆくぞ! 死者の王よ!」
「ぼ、僕の方が大きいから大丈夫!」
 




