八百九十九生目 白滅
ドラーグがコロロを抱きかかえ何やら溜めた力を解き放とうとしていた。
青い壁結界付近なこともあり大量のアンデッドたちが破壊しようとしていたところだ。
それらの意識が近くにいるドラーグへ向く。
ドラーグはコロロを抱えつつも低くひくく姿勢を変える。
尾でバランスをとっているらしくブレない。
そうしてドラーグが光を漂わせる。
外ではなく内側から膨れ上がる力。
光が徐々に強くチャージされる音を鳴らし緊張が高まる。
そして……
「……ごー!」
「これでっ!!」
そしてドラーグの周囲の光すらもドラーグの中へと吸い込まれる。
さながらブラックホール……
「っーー!!」
そして吠える。
声としての形にならない音。
同時に放たれるはドラーグの広い全面を焼き尽くすような閃光。
アンデッドが放つ闇魔法を飲み込み。
ゾンビたちを飲み込み。
空に浮かぶアンデッドたちも全て光の向こうへ。
ドラゴンブレスが直線を焼くのならこれはそんな規模ではない。
光はそんなに長くはなくすぐに消える。
だが……ドラーグの前空間が消し飛んでいた。
範囲が広い攻撃なんてものじゃない。
前や横や縦を網羅する力。
竜の咆哮……!
「ふ、ふへぇ……」
「パパ、おつかれ」
「す、すげぇ……!」「やったやったぞ!」「やりすぎでは?」
ドラーグはまたへたりこむ。
周りが喜びつつも若干引く気持ちはわかる。
凄まじい爆弾を放り投げでもしたのかという破壊のあと。
「自分で……使っておいてなんだけれど……
怖い……!」
「……だいじょうぶ、パパかっこいいよ」
コロロがポンポンと顎をたたく。
ドラーグはコロロを離した。
コロロは荷物からまた回復薬を取り出してゆく。
それにしても確かにとんでもない力だった。
うかつに使えない。
なお今のでここの青壁は完全破壊されたらしい。
敵も……そして味方すらも。
凄まじい力だ……
「お、おおー!! 今こそ好機!! 乗り込むのだ!!」
「お……」
「あ……」
「「お、オオオーーッ!!」」
ニンゲンたちも思いっきり引いていたが先発隊と話していたことをなんとか思い出せたらしい。
武器を引き抜き掲げる。
そして青い壁を埋めドラーグの開いた土地を確保するようになだれこむ。
これでひとまずは安全。
ドラーグも休むために座り込んだ。
「キミがこの軍を率いる者か? 魔物たちがこのような行動をとっているとは意外だったが……先程は見事だった」
ひとつの部隊隊長らしき男が両手に剣を持ってドラーグに近づいていた。
双剣とは珍しい。
しかも先程のことをみて比較的落ち着いた様子で場馴れしているのだろう。
「あ、いえ、僕は兵じゃないんです。今日は協力しにきただけで……あ! でもアノニマルースではありますよ! あ、アノニマルースというのは魔物たちの――」
「ハハ、大丈夫、そのあたりの情報は先程、鳥殿に聞いておる。魔物と話すというのは不思議な感覚だ……しかも竜と。それなのに、貴殿から感じる雰囲気はまるで、我が民の童子のようだ」
ドラーグを見て……しかもさっきの攻撃後にそこまで言えるとは。
ヘルメットアーマーの向こう側の人物はなんとなく温和さを感じさせる。
普段は王族やってますとか言わないよね?
「あはは……」
「パパ……」
「ふむ、もしやと思ったがまだ少女なのに竜を乗りこなしているのか。なんとも、奇妙な縁があると見受けた。助けられて貰っていて言うことではないが、君達はあまりに戦地に似合わないな……」
「僕もそう思います……」
「……むう」
コロロはドラーグの影に隠れてチラチラと覗いている。
こういう風に他者に対して防御反応が取れるようになったのは進歩だ。
前は認識をしなかったし。
確かに少年少女の組み合わせは戦地ではあまりに似合わない。
見た目はドラーグかなり違うけれど。
「でも、僕だってみなさんを、できることなら救いたいんですよ! ね、クワァコロロ」
「うん。コロロ、パパのためにも、がんばる」
「そうか……なら、無理にでも君たちと組んだこと、絶対に無駄にはできないな」
自信満々にこたえるふたり。
……うん? 無理にでも?
まさか……
『もしかして彼……独断?』
「あ……ここを開けていいってしたの、独断なんですか?」
「まあ命令は違反しているが……なんとかなる。目の前のことに比べれば些事である」
「あ、そうなんですか……」
ええ……
凄まじい判断力だ。
つまりここの青壁を開けたのはここの部隊独立判断であり全体の意志からはまだまだ遠い……と。
まあそれも邪気持ちアンデッドがかなりいるから仕方ない。




