八百九十七生目 包丁
先発隊は合わせても100いかない。
鳥の魔物軍がそこまでいないしね。
なのでかわりにメインの陸軍が大きい。
もちろん帝国奪還軍や螺旋軍と比べれば小さすぎる規模。
そのかわり装備もキャラもかなり凝っている。
なにより今は御祓い炎石がある!
それをドラーグが開けた空間に魔法で開けた空間の穴を通ってなだれこんできた!
「ひい、ふう……」
「パパ、おつかれ」
コロロがドラーグを軽くたたきねぎらう。
ちなみにドラーグに対してコロロが全力パンチしても傷ひとつ与えられない。
そもそも痛くない。
ドラーグからコロロが降りると素足で歩む。
空間の穴から駆けてきた魔物のひとりから荷物を受け取ってコロロがドラーグの元へと戻る。
荷物の中から瓶を取り出して開封。
ドラーグが下げた頭に中身をふりかけていく。
「ふぅー、生き返るー……」
「ん、こっちも」
「ああ〜、力が戻ってくるー……」
振りかけた液体たちは体力を癒やすものと行動力を治すものだ。
ドラーグのドラゴンブレスの効率は良くないからこういう風に癒やすのが大事。
一応余裕はあるように立ち回っているはずだが使う力は膨大だからしかたない。
「……まだ、アレのために力、ためなきゃ」
「うん、そうだね……! よし、とりあえず周りのアンデッドたちを倒しに行こう!」
「……うん!」
ドラーグは体調復活して大きく伸び。
そしてコロロが背に跳び乗って……
「……ごー」
「やるぞー!!」
ドラーグの咆哮があたりに響く。
同時に軍が周りに散っていく。
戦争参加の開始だ。
流石に螺旋軍もこっちばかりに構うわけにはいかないのかアンデッド相手に集中している。
アンデッド軍の恐ろしさは邪気もだがなにより底しれぬ軍数がおそろしい。
帝都山脈の向こう側からいくらでもおかわりがくるのだ。
さらにちょくちょく現れる強敵は螺旋軍すら単体で押す。
螺旋軍たちはやがて取り囲んで倒すもののそれまでの犠牲も大きい。
肉切り包丁を担いだ太ったゾンビや細身で飛び回り通りすがりに切り裂くアンデッドもいてそれらが危険なタイプらしい。
ドラーグの暴れっぷりにアンデッドたちはさすがにドラーグたちアノニマルース軍に引き付けられている。
そのスキに先発隊たちは青い壁の壊れかけの場所に向かう。
もちろんまだ使っていない御祓い炎石を使いにいくのもだが……彼らには任務がある。
それはともかく視点はドラーグ。
「……暗闇化して」
「ようし……」
コロロの指示でドラーグの身体が深い黒に変化していく。
コロロ自身や鞍なんかもその黒に飲まれるのがこの力のポイント。
完全な黒になればそこには輪郭すらうまく認識できない視界の穴が完成する。
しかしドラーグ100%でやるこれは単なる色変えではない。
もっと高度だ。
その証拠に目などまともにないアンデッドたちがドラーグにむかっていたはずが困惑をしだす。
ドラーグが視えないのだ。
生命感知すら誤魔化す漆黒。
そこになにもないのが異常だからいるのがわかるというだけで。
存在を全て穴として隠してまう。
これの利点は輪郭の掴めなさともうひとつ。
「やあっ! たあっ!!」
「……いい感じ」
距離感だ。
立体的な情報を何も得られないそれはその方角にあるのはわかってもどこまで遠くかはわからない。
だからアンデッドたちも困惑する。
そしていつの間にか詰め寄られ腕を振るわれ吹き飛ばされていた。
ここにもテクニックが使われている。
腕が光をまとうのは当たる直前だ。
攻撃として成立するのに光をまとうのは必須レベルだ。
しかしエフェクトとはまるで予告のようなもの。
どれだけ隠れていても輝いてしまう。
なので"同調化"によってコロロが最適なタイミングで切り替えの思考を。
そしてドラーグがそれまでにひっそりパワーをためるの繰り返しでゾンビたちがひと通り吹き飛んでいた。
目の前で輝かれた時は対処が出来ないからだ。
「パパ、爪でゴー」
「ようし!」
ドラーグ相手に肉切り包丁を担いだゾンビや他のアンデッドたちがわらわらやってくる。
ドラーグは手の爪に長く黒い光をまとう。
後ろ脚を強く蹴り込み低空を滑空。
大きく開いた両腕で風を掴むように大きく切り裂く。
全身前方に光をまとって……
強烈な突進!
左右のアンデッドたちが面白いように斬り裂かれ吹き飛んでゆく。
向かう先にいた肉切り包丁のアンデッドが突進にひるまず分厚く剣のような大きさの包丁を振り回す。
ドラーグはそれに対して爪の振りを合わせ爪と包丁がぶつかり合う!




