八十五生目 迷街
案内してもらうことになった大トカゲに先導され森の奥へと進む。
厳重に魔法で隠蔽された奥に何があるのかと思ったら……
『さあ、まずはここを降りてもらうぞー』
ごく自然とそれはあった。
盛り上がった土に時間経過で草たちが生えている。
そしてその中央には穴。
地下へと続いてく階段がそこにあった。
あきらかな人工物だ。
「……なるほどね」
「こんなところに下への道があったのか」
ユウレンは何かを察したらしく考え込みアヅキは感心している。
私は……気づいた。
読んだノンフィクション小説に載っていた迷宮への入り口がこうなのだと。
「これ、迷宮への道?」
『そうっすよー、迷宮の中に町なんてなかなかないでしょー?』
「そうなの? ユウレン」
私は森の外には詳しくないから素直に聞く。
ユウレンはうなずいた。
「少なくとも私の知っている範囲では無いわね」
「ふうむ、とすると罠の可能性も……」
私がそう言ったら大トカゲが慌てて手を振った。
『んなわけないよー! 騙すとか難しいし……』
「……嘘はついてなさそう」
心音やにおいに嘘の時の気配はない。
それにしても理由がかなしい。
まあ確かに聞いてもないのに敵に技を教えちゃう性格的に無理そう。
一応チェックはしつつ大トカゲを前にして降りていく。
何かあったときの盾だ。
こんな強い門番を置く先にいる街に住む『小さきもの』に攻撃されたら危ないからね。
彼等も顔見知りがいたら攻撃はしないだろう。
階段自体は大トカゲでも通れる用にか広く作られていた。
私以外のみんなは一歩一歩降りていく。
私は相変わらずカゴのなかで揺られているけれどね。
やがて景色が開けると強い陽射しが降り注いだ。
……聞いていたとおりだ!
迷宮の中には別世界が広がっている。
だから地下でも空に太陽や月がある。
そもそも森は『夜』だった。
しかし目の前に広がる光景は『昼』。
私の前世知識はまるで役に立たないらしい。
「これは……」
「門ね」
立派な門が私達をこれ以上進ませまいと閉じていた。
大トカゲよりも大きい。
ここまであきらかな人工物、この先が街だろう。
『おーい、誰かいるのかーい!?』
大トカゲが叫んだ。
少し間をあけて門の上にある見張る所から誰かが覗き込んだ。
小動物……リスかな?
『うん? ガラハザードじゃないか、どうし……うん??』
あのリスも翻訳機を持っているらしく、機械を通したような声質。
そして私達の方をちらりと見て……
ガバりともう一度見た。
『お前、どういうことだ!? なぜ森の奴らを!? それにニンゲンだと!?』
『お、落ち着けって! 順に話すから!』
『バカ! 落ち着いてられるか! どうしたんだ!!』
リスはあきらかに興奮して……いや、むしろ怯えて根掘り葉掘り質問してきた。
スキル観察を使い言語理解と組み合わさってスピード学習。
リスの言葉も覚えたらあわせて勝手に使っていたスキル高速思考のレベルが5に上がった。
リスの言葉で話すとめちゃくちゃビビられたが……まあそれ以外はなんとかなった。
質問攻めに全員がぐったりすることになったが。
『……うーん、まあ、事情はわかっただが通すわけにはいかない』
「そんな!」
アヅキが詰め寄ろうとするがリスが慌てて言葉を続ける。
確かにアヅキなら飛んで見張りのところまでいけちゃうものね。
『慌てるな! ……こっちも曖昧な聞いただけの理由で街を危険に晒すわけにはいかないのだ。
だから、今責任者を呼んでくる』
このリス、見かけはただのリスがちょっと変わった程度なのにめちゃくちゃ賢い。
責任者あたりの発言も文化のにおいがすごくする。
しばらくするとハツカネズミが見張りの所から顔を出した。
"観察"……あ、違う、ハツカネズミっぽい魔物だ。
『なるほど、なるほど?』
『情報は書類のとおりです、どうしましょう……』
リスも顔を覗かせた。
ハツカネズミが器用に書類を持っている。
というか書類って凄いな、本格的に文明だ。
『確かに判断しかねるな……』
『やはり、返しましょうか』
『だかなぁ……』
ハツカネズミは苦渋の声を上げている。
あともうひと押しか。
「お願いします、私はまだ生きていたいんです!」
『……!? 今のはワシの……』
「まあ、そういう能力があるので」
ハツカネズミは驚いたのち、大きくため息をついた。
といっても彼等の言語を学んでいないと息が早すぎてわからないだろうけど。
そしてハツカネズミは決定をくだした。
門が開く。
しかし私達の周りには多数の小動物たち。
一番大きいのでもイタチサイズの綿の塊のような魔物だ。
高速言語学習の副作用で頭痛がひどくならない程度に使っていく。
『いいか、身柄は拘束させてもらう!』
『余計な動きをすれば制圧する!』
『特殊な事例のため町長の確認待ちだ!』
『確認が取れ次第今後の方針が決まる!』
彼等の説明を聞くと重要なところはこんなところだった。
みんな翻訳機つけているね。
良いね、アレ。
金属門が完全に開くとそこには……
街があった。
といってもいわゆるレンガつくりだったりコンクリづくりの家が立ち並んでいるわけじゃない。
木材や岩などの金属を加工し布を多く使ってまるで露天市が発展してそのまま住処にしているようだ。
それもそのはずか、住んでいるのは人じゃない。
小動物たちでしかも魔物ばかり。
種類が雑多だがみなサイズが私より小さい。
虫の魔物たちもたくさんいる。
一番大きいのが見えても私のサイズくらいか。
もちろんその身体に合わせて全体的に小さい。
彼等が彼等の中で住みやすいように最適化された結果の雑多感。
それが私からの印象だった。
「確かに小さいわね」
「踏んでしまいそうだな……」
ふたりとも立っているせいか小ささが顕著に見えているようだ。
まあアヅキよりも大きい大トカゲが平然と歩いているから大丈夫だろう。
街の魔物達はこちらを怪訝そうな目つきで見つめているからそれが何とかなれば良いのだけれど。
それにしても、かなり広い。
家が密集している所もあれば開けて農地のようなところもある。
道は広めにとられていて移動に苦労はしない。
そしてそれがいくつもの隆起を伴ってる地面に沿って展開されている。
どこまであるかもわからないが少なくとも見渡せる範囲は全て街なのだろう。
少なくとも森の中のような野に住む感じは一切見られない。
そんな風にしばらく歩いていると一際目立つ建物が見えてきた。
「あの建物は……」
『目的地の衛兵所だ。そこで許可が出るまで待ってもらう』
なるほど、元々そういう目的でもある建物なのか、小さい方とやたら大きい方の2種類ある。
さっきの門も含め彼等から見たら巨大生物たちに合わせて守るための施設があるのだろう。
私達はつれられるがまま大きい方の施設に入った。
中は至って普通の木製建造物。
だが石やレンガでの加工も多く見られて耐火対策はされている。
それと謎の魔術系記述も多く見られた。
「様々な防御系魔法が常時建物を外と内の二重にはられているみたいね。
特に面白いのは……内側にいるものは極端に能力制限を受けるようにしてある点かしら」
ユウレンがそう解説してくれた。
今の私だとどちらにせよまるで弱っているからよくわからないが、アヅキは何度もグーパーしていたからやはり体感的に何かあるらしい。
ただ、普通の建物という時点で凄い。
しっかりとした文明が感じられる。
迷宮の中に街を作るなんて誰が考え出したんだろう!
こんな風に見張られていたり私自身が動き回れたら街の隅々まで調べ尽くすのに。
ニンゲンではない者たちが作った街。
魔物の中には賢いものたちもいるとは聴いていたが、ここまでとは!
オジサンが進化のヒントを貰った相手はあの門番の大トカゲ。
そして大トカゲの友達から教えてもらったと言っていたから、おそらくこの街に住むものたち。
もうそれだけでこの街には確かに私の寿命をどうにかできるヒントがあると思える。
ただ、少し埃っぽい。
使わないと思ってあまり掃除していないな……?
そして小部屋にみんなで座って数時間たった。