八百九十五生目 五百
"以心伝心"でドラーグにつなげたら目の前でオウカが腕組み怒っていた。
どうやら怒りの対象はドラーグではなさそうだが。
今念話を通しているのはドラーグだけ。
『ああ、オウカさんはその……』
「今、ローズ様と念話で共有化しているんですけれど……その……わっ」
ドラーグが申し訳無さそうにもう一度説明するように促す……前に。
オウカが詰め寄ってきた。
「ローズ! 見てる! 倒れて大変だったんだってな、まあ寝てなって! それよりもだよ、見た!? 螺旋軍のやつら!?」
『えっ、螺旋軍……?』
これはさらに"以心伝心"の念話部分だけオウカに拡張したほうがよさそうだ。
ちょっと難しいけれどうまく調整して……っと。
『よし、つなげた――』
『ローズ! あいつら……螺旋軍にスキにさせちゃいけないよ!』
『えっ、螺旋軍に何が……? むしろみんなを守って戦っていて、その影響でかろうじて持ちこたえていたけれど……』
そうしたら指を突きつけられた。
……視界共有しているドラーグに向かって。
『うわっ!? なんで僕にぃ!?』
『そこだよ! やつら、おそらくはわざとだ! やつら、どっかから情報を仕入れて対アンデッドの、しかも邪気対策済みで揃えてきやがったんだ! 私は何度も螺旋軍といざこざがあったから知っている。アイツらは対人や対獣ではまるっきり装備や兵種が違う! みぃんな派手な鎧と螺旋の紋章に気をとられて気づかないけどな!』
『えぇ……!? でも情報共有しないのになんのメリットが!?』
一瞬頭をよぎらないでもなかった可能性が改めて示唆された。
なんというか……事実じゃないと良いんだけれど。
『まあ、良く捉えればだよ、帝国奪還軍は話を聞かなかったのかもしれない』
『……自分から招き入れたのに?』
『……そう。だから悪く捉える。やつら、戦争の利権を独り占めするつもりだ! しかも、内容はおそらく、「改宗するならこのまま帝都を奪還してみせよう、そうでないなら帝都は貰い受ける」とか、そういう実質1択を迫る。アイツラはそれを英雄伝として語るから、探してみるとホント腹が立つ! 力の使い方が気に入らない、世界が認める宗教でもね!』
『う、うん、とにかく落ち着こう?』
なんというかオウカはなんども螺旋軍に煮え湯を飲まされて好感度がとにかく低い。
だから鵜呑みにはできないが……
好感度が低いゆえによく知っていて私側に否定できる材料がない。
そもそもよくしらない軍に対して擁護に走るのも変な話だ。
とりあえず頭の片隅に――
『――帰り際、螺旋軍に攻撃されなかった?』
『え? ああ、確かに遊撃隊は攻撃されたけれど、あれは空戦の中に入り込んだ魔物だから、向こうからしたら追い払うんじゃあ……』
『明らかに何らかの理由でアンデッドたちの能力低下をしてくれた魔物たちの帰り際に攻撃ねえ……ふーん……』
あれっ。オウカと念話が切れてしまった。
そしてオウカはドラーグの前からふらりといなくなってしまった。
なんだか不穏な言葉だけ残して消えないでほしい……
場所は移動し帝都付近上空。
多くの先発魔物部隊の後方付近にドラーグもいた。
私自身は相変わらず視界と聴覚共有したまま塔の上。
新たに作られた御祓い炎石は500個ほど。
アノニマルース軍としてもアンデッド総数からしてもまるで頼りないもののそれだけ量産できるだけですさまじい。
まだそんなに日にちたってないのに……
おそらく今頃ユウレンはくたばるかのように寝ているはず。
夜になったらまた起きるだろう。
それはそれとして。
例の黒雲が見えだした。
先発隊が次々と降下しだす。
それにしてもこの雲……やはり自然気象としてはおかしい。
暗雲というよりも黒雲。
中心から渦巻きあたりを黒く染めている。
なのに輝かないのだ。
普通はあるはずの雷。
そして雨。
どちらもない。
墨のように黒い雲はまるで別世界へといざなうかのようだった。
そうこう思っているうちにドラーグも降下開始。
あっという間に雲間を抜け地上を見下ろせた。
……なかなか戦況は厳しそうだ。
螺旋軍は善戦して領地を拡大している。
しかしそれ以外の地域はむしろダメ。
例の青い結界壁が壊れそうな場所が出てきている。
帝都奪還軍は休息によって建て直した者たちもそこそこ出てきたようだけれど根本的な邪気対策が出来ていない。
近寄ればまた精神汚染される。
対策をしかねていた。
「コロロ、大丈夫?」
「……色々もらったから、平気」
コロロももちろんドラーグの上にいる。
しかし高高度飛行をただのニンゲンの身体では耐えきれない。
そのため今日のコロロは着込んでいる。
風の加護を含む私とかいつもの服屋とかで頑張って作った飛行装備一式だ。
空を飛ぶさいの気圧や空気抵抗それに酸素不足などなど。
コロロは何度も訓練をした。




