八百九十三生目 不死
ドラーグが地上に向けて大きな箱をかかげる。
「……ひどいですね、戦場……」
コレはプロトタイプの白黒写し絵の箱で九尾博士が手掛けたもの。
私も少しながらあれこれと聞かれる技術話を前世知識はあんまり理解もせずに提出したりも。
私前世知識は時間をかければひねり出せるが記憶はないせいで中身をよく理解できないことが多いんだよなあ……
それはともかくとしてその知識を元にしてさらに九尾博士が自身に落とし込め理解し発展させたプロトタイプがこれ。
何がすごいかと言えば従来品にくらべフィルムに焼き付ける速度が遥かに増した。
体感上スイッチ押せば撮れる。
実際に今もドラーグが器用に戦場を写していた。
高速で飛行しブレが大きいのにもかかわらずだ。
そういう部分もかなり抑えられる仕組みらしい。
ついでにこういう遠景を自然光のみでもはっきりくっきり写せる。
とにかく大きくて私なんかまともに持てないがプロトタイプとしてはすごく性能が良い。
この記録を元に多くの魔物が作戦で動く。
"以心伝心"は便利だが仲のそれほど良くない間柄とか多くの魔物に常に見せられるものとしては不適切。
こういう時はやはり写真がいる。
うっかりフィルムがおじゃんになってないといいけれど。
『ううん……これは来世を祈るのもたいへ……ん? あれって……』
「どうしました?」
『ほら、あの螺旋軍……ピカピカな鎧の方を見てくれる?』
視線は私が動かせない。
あくまでドラーグが見てくれないと。
「えっ? あー……ああ! す、すごい、戦っている!」
ドラーグが追加でシャッターをきっていく。
結界をこえてくるアンデッドに強烈な太矢を撃ち込み……
青結界を一部といて殴り込みをかけている集団。
昨日のうちに各地にその鎧持ちは散っていたらしく帝都奪還軍たちを救っていた。
螺旋軍だ……!
主要部隊そのものは結界のわざと切っているらしいところから殴り込みアンデッドたちを蹴散らしていた。
やはり彼らはアンデッドが平気だったのか!
それで救援と主力でわけて……
螺旋軍は強く前線で乱戦気味になっているのにアンデッドたちに対して優位に見える。
ただ……根本的には押し切れていない。
アンデッドは疲労知らず。
対して今いくら有利とはいえたった一角で乱戦し続けている螺旋軍。
徐々に攻め込めているがそれはアンデッド全員を相手せずに済んでいるからだ。
さらにまだまだ戦闘ははじまったばかり。
まさに活躍は英雄的だが……数が足りなさすぎる。
(うーん……敵、100万はいるな。残っている兵士は200万、うち戦闘部隊がざっくり半分だとして100万。で、そいつらの大半は今戦えねえ。追加で螺旋軍が10万で戦闘部隊はざっくり半分の5万。いくらアンデッドたちの大半が能力の低いゾンビで、上級アンデッドっぽいのも見かけるうえ、ゾンビたちは疲労しないし身体を砕かれても動く……)
あ! ドライ数えてくれたんだ。ありがとう。
(そらよく見るだろ、これからカチコミに行く相手なんだからさ)
まあ……そうなるか。
それにしてもそうだ。
軍事魔法やエース級があるとは言えこれは驚異的だ。
帝国奪還軍で生き残った兵たちも大半は戦意が消えているのもみえる。
おそらくは地道に悪い状態異常である恐怖や混乱なんかを治しているだろうけれど明らかに手と時間が足りなさすぎる。
遊撃隊が次々と上空から下へと飛んでゆく。
激しい戦地を飛び抜けて邪魔な飛行アンデッドを蹴り飛ばしたり。
そのままさらに下へ。
しばらく眺めていてドラーグが射影機を構える。
そして……
地上のいくつかで強く煌めいた!
『発動した!』
「おお! 撮らなきゃ! ああ邪気が消されていく!?」
光1つ1つははるか天空から見れば小さい。
けれど次々と輝くそれらは確かにアンデッドたちを多数飲み込み……
壁際に迫っていたアンデッドたちの邪気が一部無くなっているのに気づいた。
乱戦している螺旋軍の元にも隊長が光を放つ。
互いに驚いている様子だが螺旋軍には何も影響はない。
それどころか螺旋軍と敵対していたゾンビやらスケルトンやらの邪気が消え困惑したのかいきなり動きが鈍る。
かなり効果てきめんのようだ。
その様子にいち早く気づいた者から次々とゾンビの頭をメイスやらハンマーやらで叩き潰す。
よしよし。どう思われているかまではわからないがこれで少しはよくなりそう。
遊撃隊は周りの追撃をなんとか避けつつ空へとのぼる。
なにせ敵なのか味方なのか向こうからしたらわからないからたまに空中戦を繰り広げているニンゲンから攻撃されているのを見る。
避けに徹しているからあたらないようだが。
ドラーグも御祓い炎石の効果をしっかりと撮り続けているし今回の成果はなかなかのようだ。