八百九十生目 問題
慌てて偵察隊は帰還。
その偵察隊からユウレンや各地に情報がもたらされ……
絶対安静で動けない私はしばらく待ち……
ユウレンがやってきた。
ホルヴィロスもユウレンの表情を見て止めることはしなかったらしい。
その顔に普段はない焦りの汗があった。
「ユウレン!」
「良い、立たなくて。寝ながらでいいから聞いて。話は少しは聞いたでしょうけれど……ローズの想像よりは、ずっと悪いわよ」
「……あれ? ウロスさんは?」
私が立とうとしたのをユウレンは手の合図でやめさせる。
箱座りでもしておこう……
それにしてもいつもならこういうときユウレンの師匠ことウロスさんが大暴れするかのようにやってくるはずなんだかれど……
「いない、どこにいったのかもわからないのよ。まあいつものことだから、あまり気にしないほうが良いわよ」
「そうなんだ……」
こういう時純粋に手が減るのは困った。
気まぐれなのは知っていたが……
「早速本題よ。ハア……邪霊型のアンデッドを出してくるだなんてね」
「うん、前少しは習ったけれど……遠隔から見るだけでなんだか気が滅入った」
「それもそうよ。普通接する機会だなんてないし、技術を伝えることすら禁じられているほどの存在よ。近くで見られることすらも精神または魂への攻撃となるおぞましい存在……師匠たち正当死霊術師たちがその技術ごと葬り去ったモノ……とは言っても、世界は広いから、きっと遠い国から見つけ出したのね……」
ユウレンがブツブツと早口で情報を紡いでいく。
こちらのことを気にする暇もないほどに深刻らしい。
「しかし、あのカムラさんのもととなった顔のニンゲン……一番弟子がいるから、できないってことはないんじゃあ?」
「まさか! むしろ逆よ。ウロスの弟子たるもの、むしろ師匠に関わった者たちはみな、強く邪霊型製作に関わることを放棄させられるのよ。製法は教えないし、もっとも忌避すべきものとして教育を受ける……ローズにも教えていないでしょう?」
「そうだね……じゃあ、余計に不思議なのかあ」
ウロスさんの弟子……彼はおそらくカエラリラスの中でもトップクラスの実力者。
一度だけあったがあの時は軽く扱われたが……
今度ぶつかることとなれば本気で向かってくるだろう。
そんな彼が死霊術師としての邪法に手を染めて……
カエリラスで魔王を復活させようとしている。
真意はともかく止めなくてはならない。
現場ではすでにニンゲンたちが阿鼻叫喚。
あちらもどうにかできると良いけれど……
「ユウレン、すでに現場にいるニンゲンたちはどうにか助けられないかな?」
「……難しいでしょうね。色々と落ち着いた後に、治療することは可能よ。問題は今、それをするってことは、戦場で多くの人が狂っている状況では不可能に近いわね」
ユウレンがそう言うということはやはり難しいか……
なんとか自力で後方まで下がってほしいが……あの惨状では引く許可すらまともに出せないのでは。
しかもうっかりアンデッドたちがあの程度より外に出てしまったらと考えたらより……
できることは今のうちに出来得る限り早く手を打ち打開することだ。
「それじゃあ、早速ジャグナーと念話つなごう」
「そ、そうね。そのほうが良い」
かなり動揺が見られる……
まあきっと"以心伝心"で念話をつないでも向こう側も似た感じだろうなあ。
……ふう。よし!
『ジャグナー! 今、ユウレンと一緒につないでいる!』
『ローズか! それにユウレン! 良かった、オバケの類は俺に聞かれても分からなかったところだ!』
どうやらちょうど向こうも困っていたらしい。
報告を受けたのだろう。
『それじゃあ手短に説明するわね。まず前提として――』
ユウレンがさきほどの3種の説明をする。
そしてその中の邪霊型が来たということも。
その危険性も念話のイメージも足して話し……
『……というわけ。それでここからが本題よ』
『そいつの対策、だな?』
『ええ。治療はともかく事前の対抗策なら練れるわよ。ただし大軍勢だなんて相手想定していないから、ある程度は個々人に頼る部分もあるけれど』
ユウレンはイメージとして不思議なきらめきを持つ炎が閉じ込められた石を出してきた。
これは……?
『ほー、キレイな石だな。戦場には似つかわしくないが……』
『そうね。戦場にはね。けれどこれは、邪霊と対峙するさいの、死霊術師としての防衛策よ。ウロス式邪霊御祓い炎石……身につけたものを守り、力を放てば邪霊に対してその邪気を縛るとっておきの品よ』
『ほほぉー?』
『それはすごい! どうすればこれを!?』
『それは……カムラ!』
『はい、およびででしょうか? おや、みなさまお揃いで。どうもどうも』
念話にカムラさんが加わった。




