八百八十九生目 暗黒
帝都上空にいる偵察鳥魔物の視界や聴覚を共有してもらっている。
開戦直前なため警戒してもらっていた。
エース級の戦いに巻き込まれたら上空も危ない。
高く飛んでいてもうっかり空を飛ばれでもしたら十分巻き込まれるのだ。
ただ見たり聞いたりしているだけでは誰がそのエース級なのかはわからないな……
帝都側に至ってはいまだ黒幕がおりたまま。
『わかった、補助強化しつつ距離を取る。伝令もしておく』
グインと視界が傾く。
おっとっとっと。
身体が勝手にバランスをとりたがるが私の身体ではないので混乱してしまう。
ただ私の身体は地面の上にある。
安心感と混乱感は……そう。
アトラクションっぽい。
そうこうしている間にも偵察隊はニンゲン軍から離れていく。
うっかり地上から狙い撃ちされないかとヒヤヒヤしたが大丈夫だったらしい。
わりとエース級のニンゲンならば察知の良さも含めてやりかねない。
そのまま少しの間時が過ぎ……
一気に場の熱が膨れ上がった!
『始まった!』
『黒い結界が……剥がされる!』
結界のあちこちから雷光が走っている。
どうやら結界を壊すための魔法兵器らしい。
通常の範疇では突こうが斬ろうがビクともしないだろうが……
さすがにもう追加エネルギーもないところに軍事用結界剥がし。
それも四方八方からやられては嫌でも黒幕は消えていく。
その黒幕の中身は……
黒。
『ダメだ! 視界を降ろさず素早く離れて!』
「っ! 撤退! 撤退! "魂の守り"をローズから借りろ!」
現場で偵察班の叫びがこだまする。
ギリギリ間に合った!
だが……下は間に合わない。
黒。
表す帝都の姿は……話に聞くそれとはまるで違った。
というよりも地上で通常あんな場所など無い。
今回覆われていた範囲は帝都自体を指す範囲と帝都にあふれかえる人口のためくり返される帝都周辺平野だ。
建築物はあるが平野だ。
それなのに今見える景色はまるで剣のような山々が連なる。
あまりにも黒くまるで地獄からやってかたかのような山脈が覆っていた。
結界内だけが不自然にだ。
ちなみにガイド本にはあんな山もないし白をベースに赤の高級感や青の蒼竜教独特の大事にするカラーリングで多くが構成された平野の都市とされていた。
ひとつもあっていない。
山脈。黒。そして高い山の上にある城。
しかもところどこら帝都らしきものが取り込まれ黒く染め上げられている。
その上に黒く禍々しい西洋城が建っている……
いや西洋でもあんな黒く恐ろしい城だなんてないと思うけれど。
もっとダメなのか私が視界を借りているだけなのにすぐに危機感を感じた理由。
おぞましい寒さだ。
魂を冷えた手でなぶられるような寒さ。
正体は敵の用意した兵からのものだった。
当然奪還軍たちは敵が迎え撃つことは予想して準備してある。
どんな敵がこようとも叩き伏せるための盤石な構成。
最大戦力を効率よく一度にぶつける配置。
……それを逆手に取られた。
邪気をまといしものども。
本来アンデッドの魔物は種類がある。
ユウレンなんかのつくる邪気を吸い込むことで活動しつづけるクリーンなゴーレム型。
邪気にあてられたりして自然に生まれさまよう自然型。
そして……私も聞いて習っただけだったが。
秘匿された死霊術師たちの闇の技術。
邪気を放ち周囲を呪い見て理解した相手たちを総じて苦しめる邪霊型。
その邪霊型が……あの結界の向こう側に大群をなしていた。
私はプロではないから断定は出来ないが下の悲鳴でわかる。
黒に染まる邪気と怨念が見るもの理解するものたちをそれだけで精神に攻撃を与える。
そして魂までも傷つけられ狂う。
まだ剣を交えたわけではない。
交える前……その何千何万もの邪霊アンデッド軍を見ただけで起こるのだ。
ぐるりと四方八方生を憎むものたちが帝国奪還軍と顔合わせ。
こんなもの……軍が恐怖に飲まれたら……!
『あんな大規模な邪霊型の軍隊……習ったけど、作れるだなんて……!』
『……我らは死霊術師の元で治療を! 帰還する!』
『うん! プロの話を聞かないと……対策もうてない』
全部を見れたわけではない。
それでも先程まで活気の熱に満ちていた現場は。
凍りつくような恐怖と狂気によってまともな戦闘すら起こっていなかった。
あるものは武器を投げ捨て。
あるものはその場で固まり。
あるものはメチャクチャに武器を振り回し放つ。
そうでなくとも悲鳴を上げ。
指揮系統が大きく乱れ。
狂って突撃する者がいるのに恐れて砲撃が撃ち込まれる。
もうむちゃくちゃだ……
立て直しは可能なのだろうか。
先程見えた限りでは螺旋軍だけが動じてなかったようにも見える……




