八百八十四生目 当然
グルシムに再び会いに来た。
「ククク……分からんか。貴様が意を示し、信仰をわずかに変えた。そして代表して届けたコトが、阻止」
「もしかして、少しだけ改善が……?」
「かわりなどわずかでしかない。変わりはしない、世界などそんな急にはな。だが……時は動き出した」
言ってしまえばまるで初めに戻ってしまったかのような状態。
それでもグルシムは。
これまでの中で一番明るい顔をしていた。
「グルシム、キミが死に絶えるような提案は飲めないけれど……それでも、私にできることなら、ぜひ言ってほしい」
「我が子の言葉を聞かねばな、王であるならば。それに……いや、今はよそう」
「……?」
笑顔……とは言えないが。
あのおぞましさの塊だったグルシムがどこか晴れやかな印象すら受けた。
とりあえず迷宮を助けるための自害は避けてくれてよかった……
また何を言っているのかがよくわからないけれど。
「そうか……我が子は……世界は、もうここまで立派になっていた……か」
「グルシム……ああそうだった!」
今更だがこの迷宮にきた理由を思い出した!
もはや3例目だからさすがに準備はしてきたぞ!
「どうした? 傷がうずくか?」
「いや、そうじゃなくて、実は……私のそもそもの目的は、この迷宮にとある砂を探しに来ていて――」
これをしないと帰れない。
ということで崖の白砂について特徴も含め話した。
そしてそこからもしかすると鳥の王が関連するかもしれないことも。
「――ということで、勇者の剣の材料に使うんです、なにか知りませんかね?」
「理解した。だがそれは……知らんな、俺の灰ではない」
「う……そうなんですか」
確かに鳥の王の灰からできる砂は明らかに浄化されている。
怨念と高魔力が必要で必要分が逆なのだ。
「急ぐな。推察はできる、知らないがな。俺の死体……あれは、まだ変化しきってなどいない。怨念ならこもっているだろう、身が溶けるほどの」
「あ、そうなんですか! よかった、持ってきていて」
いつもどおりなら必要だからね。
崖の白砂……なんとかなりそうだ。
死体を持ってきたことを伝えたら明らかにグルシムがなにか言いたげなめせんをよこして……口をつぐんだ。
こっちがイヤな慣れ方をしているのを見抜かれたかな……
「……まあいい。わかるのか? 灰にする方法、砂にする方法」
「あー、えっと、燃やして、すりつぶすんですか?」
「ハァ……口をつぐめ、無知な時はな」
思いっきりためいきをつかれた。
たださすがにわかってきた。
これ煽っているわけでも挑発しているわけでもない。
とてつもなく会話が下手なんだな……!
「ええと、それではやり方は……?」
「………………」
「……えっと?」
「…………言い方がわからん。わかる、が」
しまった。
ここにきてまたグルシムの話下手が……
わりと完全変化一歩手前では調子良かったのに。
「……まあ良い。何とかする、そこはあとでな」
「あっ、はい」
ええと……具体的にはどうしたらいいんだろう。
微妙な空気が流れ……
うん!? "以心伝心"を借りての念話……!
『もしもし? ドラーグ?』
『い゛ま゛じだあ゛あ゛あ゛!!』
うわっ!? 念話で音割れみたいな概念が起きた!?
感情がむちゃくちゃ強くて耳がやられそう。
実際には耳ではなく頭に直接来ているんだけれど。
『な、何!? いたの!? コロロ!』
『ば、はいっ!! ハーピーたちに食べられるすんでで、無傷とはいかないけれど、無事助かりました!』
『わかった、すぐ行く!』
よかった……コロロ無事だったか。
「念話か? 行けば良い、早くな」
「あ、うん。仲間、無事でした。その……ありがとう」
「……?」
また疑問を持ったような声をもらす。
今度のは……なぜお礼を言われたか……なのかな。
推測しながらの会話は難しい。
「ああ、ほら、結局グルシムは仲間もたすけて安全な場所までワープしてくれたんでしょ? だからだよ」
「フン……当然のことだ、王として」
「それでも、ありがとう」
グルシムはどこかに顔をそむけた。
王として当然かあ……
なんとも強い言葉だ。
「それじゃあ、できることがあるのなら、また会いましょう!」
「ああ……」
空魔法"サモネッド"!
ドラーグの元へワープしたらドラーグが動かない大棘の上にて"ヒーリング"でコロロを癒やしていた。
バトンタッチして詳細な傷やダメージを調べていく。
みんなも呼んだからじきに集まるはずだ。
わりとコロロは擦り傷やら汚れが多い。
まさに転がりながらでも生き抜こうとした証。
ひとつ彼女が生きる意思を見せた証だ。




