八百八十三生目 抜去
U字カーブでグルシムと並んだ!
「やあああーーッ!」
「ガァァー!!」
一番振り切れそうな所でギリギリためていた力を開放!
向きだけ合わせてゴールの方へと加速!
グルシムが力んだ瞬間に……抜ける!
「……ッハ……!」
「……ぐぅ!?」
U字カーブ終わって短い直線。
限界……! "時眼"解除! 仕込み!
そしてためていた魔法を放つ!
「グルシムーッ!!」
地魔法"スパイクロック"!
地面から光をまとった尖った岩たちが浮き……
次々とグルシムへと襲いかかる!
「っ! 甘いっ!!」
グルシムは岩を回転して避け……
翼ではたきおとし。
だが次々と岩たちは襲いかかる!
「まだ!」
グルシムが頭についている口を覆い隠すくちばしで岩を弾いて……
弾こうとして動きが一瞬緩む。
「なっ!?」
スキにドカドカ岩をぶつけまくる!
今グルシムが怯んだ理由は明白。
私が先回りした時に仕込みを行ったからだ。
"毒沼に咲く花"で触れると麻痺効果を持つ花粉をばらまいたのだ。
効いたのはおそらくわずか。
それでもそのわずかはこの高速勝負で命取りだった。
鳥の王へと完全に変質しかけていたグルシムは影になれなかった。
だから今岩を大量に喰らい続けている!
「この程度ではっ!」
「だと思った!」
「なっ……!?」
グルシムが岩たちをそれでも力で押し返そうとしてくる。
だがすでに速度が互いに緩んだ今。
ドライも私も攻撃に集中できる!
全身から針を出して……
大きく身体を振り回すようにグルシムへと"針操作"で投げつける!
「やあああぁッ!! グルシム!! これでぇッ!!」
「ぐっがっざっごっ!?」
踊るように。撃つ。
ハチのように。刺す。
ひたすら連続で連続で連続で針を投げてける。
ひとつでは通じない。
だからここで全力全開で針を岩をぶつけ続ける!
グルシムに先行して攻撃を当てた!
岩をぶつけ固め!
針を山程投げつける!!
「ローズ、オーラァ……! 貴様ァ……!」
「これでぇッ! 止めるッ!!」
1つや2つでは効きにくいのならば。
100や1000ぶつけてやる!
これが全力最後の攻撃たちだ!
岩が翼に突撃して食い込み頭に針が次々刺さりこんでいく。
針は頭に何度も何度も撃ち込み。
足先や身体も見えるところ全てに針を放つ!
大して深くは入らない。
だが全身穴だらけになって生命力が耐えられるかといえば別!
放つ放つ放つ!
そして……放つ! 岩ぶつける!
岩たちを次々合わせ固め融合!
全身に凄まじい圧力をかけて……このまま潰す!
「……光!?」
岩のスキマから光が漏れ出した……?
そして強くカッとかがやき……
爆発!!
なんだ!?
これは魔法じゃない!
岩が崩れ去ったところに立ち尽くす影。
グルシム……その姿は針も抜けたがもはや無惨。
今の光はどうやらグルシムが変化するエネルギーが私の攻撃と衝突しグルシム自身が耐えきれなくなって爆発したらしい。
黒く煙を上げたその姿は固まったまま……倒れた。
この先の奥地面の下に潜る道は暗黒に包まれていた。
暗闇ではなく黒。
直感的に行かないほうが良いと思ってやめた。
痛む傷を癒やして……
空魔法"ファストトラベル"で外へ出た。
しんがい上空。
そしてまたふたたびしんがいの底へと潜る。
あの呪いは消えていた。
遥か下におりていくことはかわらない。
正直心も身体も疲れ切っている。
けれど今私がいかなくちゃいけない。
グルシムが待っているのだから。
ずっとずっとくだって。
ついには底へとたどり着く。
この地に降り立たないように浮き上がりながら。
真っ暗なそこから出てくる姿。
淡い姿。
グルシムだ。
なぜだろうか。
その姿は前のときと違っておぞましい邪気を感じなくなっていた。
「グルシム……」
「……なぜだ。また来たのか」
あの時とまた同じ言葉。
それでも意味がまるで違った。
今回のものはこれ以上何をする必要があるのだとそう言っているように聞こえた。
「グルシム、私はあなたを振り回してしまった。結果的に何もあなたは得られていないのに……ごめん、ごめんなさい」
「んなっ……!? チッ、知らんな。何を勘違いしている」
「えっ……?」
グルシムが面を食らったかのような目をしている。
前までの閉ざされた心の感覚はだいぶ緩まっていた。
「わからないのか? 消えている、怨嗟の声が。ローズオーラ、貴様は止めた、儀式をやり遂げたと共に」
「ええと……つまり?」
確かに呪い……あの呪詛をまくような声たちは消えている。
けれどそれはグルシムを倒したから副次的なことなのでは……




