八百八十一生目 覚悟
ドラーグにコロロの居場所らへんを伝えたらすでに近くだった。
さすがドラーグの豪運。
私が連絡しなくても見つけていたかも知れない。
映像は分神すら外に出さずただ孤独に潰していく畏れる化物の光景で消える。
グルシムが伝えたいことはほとんど終わったということか。
グルシムの姿は今や身体のあちこちが鳥のものへと置き換わっている。
頭蓋骨すら融和しまるで鳥の被り物をしたような頭に牙を隠している。
腕は背中にあった翼と融和し華麗に羽ばたいていてみせていた。
「グルシム、キミは姿を取り戻してどうするの? もはや競う意味はないような……」
もはやコースは炎と氷が同じ場所で踊っていたり温泉が噴き出したり色が黒いスケルトンが頭投げてきたりしている。
ドライにより傷覚悟で最速移動を繰り返しいつの間にやらグルシムは目の前まで迫っていた。
迫るカーブはエッジを効かせもはや壁を蹴って曲がる。
おかげで生命力も削れているがアインスの補助で"ヒーリング"も回しているからなんとかトントン。
これ戦闘後すごく痛いぞ……!
「俺は望まれた! ならば、この崖の楔を砕き尽くしようと、戻らねばならない」「戻る? 砕き尽くす?」
なんだろう……とてつもなく嫌な予感がする。
「そうだ! 俺は望んだ、この卵を抱き続けることをーーそして残った一片の骨が俺である。
だが、王を民が望むなら俺は君臨せねばならない。ならば、大顎をもつものを砕くのが道理、さすれば俺は約束の虹を果たせるだろう」
少し……考えよう。
結構珍しく長く話してくれた。
卵を抱く……望んだ……つまり……卵は世界。
大顎……砕く……虹……大顎に関しては前も出てきたなあ。
雰囲気からすると自分……グルシム自体かな。
虹はよくわからないが約束とある。
つまり王が民に再度君臨することを望んだこと…かな。
虹は鳥の王の光かな……?
「でも、グルシムとしてのきみを砕いたら………」
「俺は消える、もはやグルシムという神は現われることはない」
「な……! なんでそんなことをしてまで!」
グルシムとは今までの話でわかったことがある。
つまりグルシムとは反転しているみたいだが鳥の王である。
鳥の王とグルシムのふたつではない。
つまりグルシムが消えるということは……
鳥の王は今度こそ消える。
この世界の概念そのものと馴染み……おそらくは迷宮世界を彼の思う形で救うことで。
言うなれば鳥の王で魂ごと自殺して滅ぶつもりだ!
「決まっている。我が子らを守る。包み込んで暖めよう、腐った楔は新たな楔となる。世界を孵すのだ」
「グルシム、もう世界は自力で回っている。そこまでのことはしなくて良いんじゃ――」
「駄目だ!」
強い否定。ど……どういうことだ?
「けれど、過去の信者たちは鳥の王が助かることを望んでいた……記されていたんだ。そして彼らはもういない。今、もうグルシムが加えて苦しむ必要はないんだよ」
もう次の世代へつないだんだ。
信者たちが望んだことは……鳥の王の救済なんだ。君臨でも……ましてや自滅でもない。
だがグルシムはその頭をこちらに向ける。
鋭い目付きは獣のものか鳥のものか。
「違う! 世界を守り抜く、それこそが俺の軸だ。俺の身などどうでも良い」
「グルシム!」
恐ろしいほどの自己犠牲心。
美しいほど世界へ尽くす愛。
だからこそ誰かが止めなくてはならない。
「それは……だめだよ! 誰かが犠牲になるか、自分が犠牲になるか、そういうものではダメなんだ! それは、ただ他者に尽くせる自分に酔っているだけだ!」
「っ……!! チッ、何が……わかって……ああ、クソッ」
グルシムはどちらかというと自身に苛立っていた。
少し驚いたあとにいきなり言葉がしどろもどろになった。
痛いところを突かれたからというよりものらりくらりとかわせない言葉ではうまく返せないのか……
グルシムを止められるとしたらチャンスは少ない。
実は先程から変化がある時は意識的に障害物をグルシムは避けているように見えた。
やはり分裂は絶対に出来て避けられるわけではないのだ。
「グルシム、私が……ここでキミを止める。止めて、世界と共に生きてもらう。ただ耐えるような生き方じゃなく、みんなの横に、また並べる日々を送ってもらう!
ただ、キミだけでも助かってほしかっただけなんだ……あの壁文からはそう読み取れた。鳥の王の君臨は望まれてないし、きみはグルシムだから消えるな、消えさせない!」
「何を……!? 敗北せし王の罪は、消えることはない……だが……やってみるが良い、貴様がそうしたいのは勝手だ。公平に機会を与える。王たる姿勢としてな。姿を取り戻すときに……崩れられぬのは、気づいているのだろう? 止めてみせろ、俺が世界を守るのを。貴様、名は?」
グルシムはこれを罰と捉えているのか……!




