八百八十生目 誤解
「グルシム、キミが……キミは、鳥の王……!」
「そうだと言っている」
いや言っていたか!?
わかりづらすぎる……!
そもそも真偽があまりにもはっきりしていなかったからなあ……
グルシムの身体は黄泉をどんどん深く潜り込んで行くほど鳥の王へと戻っていく。
死んだはずのものが死の国へ行くことは正常であり……つまりは生前の姿を取り戻すためか……?
うわマグマが飛散して降ってきた! マグマの雨!
「くう、黄泉、キツイ……!」
「ここがか? 黄泉? 何を言っている。ただの道中にすぎん」
「えっ」
まさかここまだ黄泉ですらない?
ということはこのまま下った先が黄泉で……
黄泉にたどり着くことで鳥の王として復活する?
映像はまだ続く。
再び意識を取り戻した時らしい。
鳥の王がグルシムとして目覚め……世界が暗闇に包まれその姿が変わり果てていた。
映像の中でもグルシムはひどくうろたえていた。
そして分神を作り出し迷宮の中へと放つ。
向かう先は……流れる光の先。
おそらくこれは神が感じれる信仰の道標。
そのグルシムの想いが映像を通して伝わってくる。
それを追ってついた先は……
鳥の王は知らない魔物たち……ペリトンたちだった。
「走り回った。聞きただすために」
おそらくは今の状況を質問したかったのだろう。
崖たちが潰しあったりする世界。
そこに住まう知らない者たち。
わからない自身の姿。
だけれども映像では。
グルシムを見た誰もが恐れおののき場合によっては攻撃をしかけられた。
グルシムは反撃しようとすれば簡単に出来ただろう。
しかしやらなかった……
「神としての力は、変わっていた。だが、腐ったとしても、俺は……俺でいたかった」
珍しくグルシムははっきりと分かりやすく言い切った。
それはグルシムの軸なのだろう。
神としての力が変わったということは神としてのあり方すら違うということ。
それなのに鳥の王としての軸を変えないという矛盾じみたものをきっとグルシムはやった。
やれてしまったのだ。
「その、神の力って?」
「底は俺の領域となった。あるものをわかる。落ちて来るもの、全てな。俺に信じられたの、死の力。領域では、みな苦しんで俺の力で殺される」
「そ、それは……」
えげつない。
光も届かない暗黒の底は本来そういう生態系が築かれる。
しかしグルシムは……おそらく察するにコントロール不可能な範囲であの重くなる呪いを振りまく。
落ちて魂に重りをつけつづけそのまま体ごと潰し殺す。
それは望んだものではなく望まれた畏れであったために。
グルシムの言葉のつむぎが苦手だとわかるとわりと推察しやすくなるな……
映像もそれを肯定するかのようにグルシムが感じて……見て……知った……落下の死が流れていく……
「死の管理だ。求められたものは。死を守り、我が子を守る……やることを、やった」
映像が流れていく。
おそらくは膨大な時間をかけてしんがい以外に白いモヤをたちこめさせて……
それで落ちるものの意識を奪った。
さらに落ちてきたものに対して崖を制御して……
潰した。
丹念に。すりつぶすように。
やがて砂になるまで。
そしてさらなる下まで風が運んで落とし……
やがて底は砂に埋まっていく。
あの砂ひとつひとつが死で。
そしてそこは死を司るものが見ているのならば。
あの砂は……しんがいの底は墓だったのか。
それも知らずに私が踏んでいたから初めの頃どかそうとしていたのか……
グルシムは底に落ちたものは全て感知していて。
そして全て自身の手でトドメを刺す。
いくら神でも……そして相手の苦心を取り除いても。
グルシムは……鳥の王は誰にも理解されず理解すら求めず。
まもりたい『我が子たち』を手にかけて。
グルシムは……信仰が飲まれた神なのか。
神話が別の神話に飲まれるということは前世の知識でもよくある。
だがこの世界ではそれが起こるとこんなことが起こってしまう。
良いことなのか悪いことなのか……
それすらもまぜこぜになった結果がこれなのだ。
「グルシム、キミは鳥の王でありながら、この迷宮の新世代が伝える地の底の化物、死を司る神として変質することで、再生したんだね」
「かもな。だがもはやどちらでもいい。時は過ぎ去った」
「じゃあ……私の仲間が飛ばされた先は……」
「言っただろう。歌がうまい者たちの元へ帰れと」
いや……それバラバラに言われたししかも別のことと混ざったし……
歌がうまいというとハーピー……?
もしかしてハーピーたちの浮岩……!
『ドラーグ! もしかしたらコロロはハーピーたちが棲む浮岩にいるかも!』
『そうなんですか!? 今丁度来ているんです! 調べます!!』
ドラーグに"以心伝心"の念話で通話完了!




