八百七十九生目 願望
グルシムがエネルギーを送り込み私が首から下げる灯りが本来の力を発揮する。
なんとなくわかっていたがこの灯りしのものは私をこの黄泉の汚染から守ってくれる。
だが光自体は違う力を持つらしい。
空中に映像がスクリーンのように投影される。
こんなことができるだなんて……!
流れ出す内容は……
「こ、これは、鳥の王!?」
「言葉は難しい」
当然今でもガンガンコースは妨害してきてスケルトンやゴーストやアンデッドたちがこれでもかとコース外からと攻めてくる。
だがそれらはドライやアインスに任せられる。
特にドライは夢中になって攻めた走りをしてくれる。
しかし私が夢中にならなくちゃいけないのは映像だ。
役割をわけて私は私の仕事をしなくちゃ。
映像に浮かんだのは鳥の王。
今までも神殿の絵で見たりはしたからパッと見でわかった。
こんな神々しい存在が早々いてたまるか。
それは白く輝く羽根を全身に持つ美しい鳥。
飾り羽たちはその威厳を知らしめている。
巨大で輝かしいのに嫌味がなく柔和さすら感じるのはただよう気品のためか。
壁画にかかれていたような不可思議な紋様が飾り羽たちを着飾っている。
そう。まるで今のグルシムと真逆な姿のように。
これがこの迷宮の神……鳥の王。
だがその姿は暗雲に包まれる。
場所が変わり背景が何もかも燃えている。
だが……そこは私の知る崖の迷宮とはかなり違う。
そもそも底がチラチラと見えている。
さらに鳥の王が住んでいると思われる鳥の巣。
巨大で捧げものらしき豪華絢爛なもの。
だかそれすらも炎に飲まれようとしていた。
そして映るのは赤い影。
「玉座から追放された。敗戦の王として。みなを……我が子らを守れぬ存在として」
主観視点としての鳥の王が赤い影ともつれ合って落ちていく。
輝く羽根が散り相手の燃える身体がよりくすんでいく。
赤い影がこんな風に燃えていてその煙で姿形がつかめなかっただなんて……そんなことを知っているのはまさにこの場で戦った者のみ。
そしてこれを念じて伝えている存在は前で駆けるように飛ぶ者……
「グルシム……」
「それで、記憶では、こうだ」
激しい乱戦のあとに赤い影の焔が膨れ上がる。
何か気づいたのか急いで主観の鳥の王が光をまとってまさに神速で突撃をかます。
そのまま王の巣へと運び込み……
強烈な光と共に映像が暗転した。
言われなくてもわかった。
この時大爆発かなにかに飲まれ決着がついたのだ。
全て破壊され鳥の王すら不可逆の傷を負ったという。
「この映像を、グルシム、キミが見せられるということは……」
「貴様に見せよう、少しだけ残る記憶。その端」
映像は遥かなる地の底。
そこから天を見上げている。
さっきまで鳥の王の巣があった場所……
鳥の王の巣がある崖は高くて深い谷底とは無縁だった。
鳥の王が必死に威力を抑え込んで……それでもできてしまった。
これこそがこの地形の元だったのか。
もししんがいができるほどの威力が迷宮に広く放たれていたら。
果たして崖の迷宮は存在を維持できていただろうか……
だがともかくとして鳥の王は生き残る。
いや正確には肉体が滅んだのだろう。
残されたのは神の不死性による魂。
それすらもボロボロなのが映像から伝わる。
世界は崩れだした。
谷底は崩壊し鳥の王が存在し世界を繋ぎ止める底辺が新たに作り出される。
鳥の王の輝きは次々と失われかわりに世界は崩壊がゆるまる。
「願った。まず世界を繋ぎ止めると」
崖たちが蠢きあちこち衝突しあって崩れだす。
鳥の王は動かない翼を消し飛ばして崖たちを再生させる。
「願った。そして世界……卵の殻が崩れぬようにと」
折れた足が消し飛んでゆき沈み落ちたはずの岩たちが再び浮かんでゆく。
更に崖の動きをだんだんと制御しているのか壊さない崖のイメージが映像として流れる。
鳥の王が当時思い描いたイメージを。
「願った。我が子らの安住の地はなくさぬようにと」
そうして身体すらも消し飛んでゆく。
世界は……そうか。
このイメージ……
鳥の王にとって世界とは自身の卵なのか。
それを破損してしまった今文字通り身を削って奇跡を起こそうとしている。
例えどのような形であれ世界が……卵とその中身を再修復しているんだ。
それが鳥の王が薄れゆく意識の中で強く思い描く。
われた卵を繋ぎ止めるようにするイメージ。
その修復に自身の身体を使い……これ以上壊れないように身体で縛って自身の骨で楔をうち固定しているイメージ。
それが映像として流れている……
……楔!
「腐った楔って、じゃあやはり、まさか……!」
「願った。何があろうとも、せめてもの安念を」
そして映像は暗転する……
「そして、願わくは、我が身滅びようと、見守れるようにと」




