八百七十六生目 開始
しんがいのグルシムに再び会いに来た。
「グルシム、キミが私の仲間をどこかに転送させたのはわかっているんだ。グルシムが言わないのなら、鳥の王から直接聞く!」
「狂言か? 貴様に与えるものは、全て与えた」
「うそじゃない、だから……『よみがえりのぎしき』をする」
「……何!?」
グルシムは今までにないほど強く反応したように見える。
みえなかった気持ちが一瞬見えた。
動揺だ。
「一応言っておくけれど、ハッタリじゃないよ」
私は光神術"ライト"でまばゆい光を生み出す。
それを事前に用意して首から下げていた不思議な道具に入れる。
中からの光は虹色に変換され影の世界に色がもたらされた。
これこそが探しもの。
古来からの代物で鳥の王を称える光を生み出すランプ。
球形で火をつける機能は壊れているものの肝心なのはこれが鳥の王の儀式に使われていたということ。
「なんだと……!? それをどこで!」
「昔のニンゲンたちが、大事にしまってあったものなんだ」
私も詳しいことはわからない。
ただこれをニンゲン側が使い鳥の王に捧げることが始まり。
そう記されていた。
「クク……フフフ……」
「うん……?」
また明らかに強い感情を見せる。
笑っている……
「クク、クハハハ……!」
ただの笑いのはずなのに背筋におぞけが走る。
周りの熱を全て奪い去るような冷酷な笑み。
「な……何? 鳥の王が力を取り戻せば、グルシム、キミは鳥の王の力を被れなくなり、鳥の王信仰と影信仰がちゃんと分かれて、弱体化するはず……その状態なら、ちゃんと場所を話してくれると……」
「フフフ……良いのか? 俺が真の力を、取り戻しても」
「えっ!?」
グルシムが力を……?
……まさか!
「グルシム、鳥の王の力を奪う気なの!?」
「それが俺の力だ、愚か者め。鳥の王はすでに破れ、骸のみである。腐った楔は天地を繋ぐ骨である。理解せぬのなら、見せてやろう……
終焉の幽世よ、己が声に応えよ。己は命を喰らう大顎をもつもの、終焉の地を駆ける生けるが骸、玉座より追放されししんがいの神!」
何だ!?
グルシムが低く唱えだしている!?
彼の見つめる先の砂地に黒い光を伴う影がうずまきだす。
「グルシムの名のもとに、この地を規定する 。ここは、彼の地。ならば生者と死者を隔絶する扉はここにある。口をあけろ、栄光の虹へと続くヒラサカの扉よ──黄泉……接続!!」
グルシムが自ら行動を!?
鳥の王に訴えかけるこの器具で鳥の王の力を引き出して行うはずが……!
グルシムの吠え声と共に先程の影は形を伴いだしやがて不気味なほど静かに黒いものがあらわれる。
それは影のような……穴のような。
やがてはっきりとした形に定まると……
それは坂。
長い長い坂だ。
どこまでも深く行くように見える不思議な空間。
こ……これが黄泉への道!?
「そこで待っていろ。力を取り戻す時をな」
「あっ! グルシム!」
まずいグルシムが黄泉に飛び込んだ!
記されていた『よみがえりのぎしき』からもう色々ズレている!
グルシムに主導権を握られると本当に力を奪われる可能性がある。
私も風魔法を借りつつ補助をかけて速度を増して……突撃だ!
坂に潜り込んですぐに感じたのは寒気。
単に寒いわけではない。
魂を撫でるような不気味な寒さ。
幸い寒冷対策はしなくて済むか……
暗いとは言え意外に遠くまで見通せる。
しんがいより明るいのは意外。
首の灯りも輝いてサポートしてくれる。
この虹色の灯りの元は私の"ライト"なのに意外なほどにあたたかい。
心を守ってくれるているような……
グルシムは……いた!
空間が広がりだしたから見失わないか不安だったがまだ正面方向にいる。
どんどんと坂というよりはまるで山洞の下る空間へとかわってゆき……
「……うわあ」
……世界に光がもたらされる。
どこまでも遠くの景色に溶岩が流れあちこちで湯気がたっている。
温泉のようだ。
そしてその景色たちを縫うようにどこまでもどこまでも下る道がつながっている。
道の外に出られないかと思ったが不思議な壁に覆われていて抜けれない……
結界みたいなものかな。
そこまで高くも飛べないが飛行するには十分。
この接続された異世界……黄泉? は気になるが。
今はグルシムより先を行かないと!
「待てー!」
「待てと言っただろう。なぜ追ってきた?」
「グルシムの思うようにはさせない!」
道自体はずっと続いていく1本道。
だが何度も折り返し高速で飛ぶ以上気をつけるほかない。
衝突していたらグルシムに追いつけなくなる。
カーブの中央を飛び抜けていくグルシムに対して私は出来得る限りインを攻める。
外側からインに入り身体と進行向きをきっちり変えつつ……
直線に戻る直前に加速エネルギーをためこみ……
……加速!
グンと景色が流れる。
意外にうまくいった!




