八百七十一生目 擦合
ペリュトンたちと解釈合わせ。
文面を読み取ってすり合わせグルシムの正体と突破方法をつかもうとする。
「あれ? ペリュトンさんの創世前の話と私の創世前の話、似ているようで中身がわずかに違いましたね」
「ここは一段ぼくが長く作業していた差が出たかな? ローズの解釈が間違いなわけじゃあないけれど、おそらく現在に囚われ過ぎなんだと思う。これはもっと文面通りに読んで良いところだと思うよ」
文面通り読む……?
しかしそれだと世界の説明に矛盾が……
……いやまさか。
それでいいのか?
「まさか……世界は谷で……底には川が流れて……?」
「まさにそうだとぼくは思うよ。文面に注目することも大事だけれど、絵はちゃんと考慮した? 彼らは床に立っていた。そして水は流れていたんだ。落ちていたんじゃない」
「なんだって……!? そ、そういえばそうだ!」
「それなら自分も見た。絵というものの概念を理解するのには苦労させられたが……それに水が流れているって、まるでわからない。落ちるはずだろ?」
この迷宮の水は必ずといっていいほど落ちる。
崖から沿って軽く水が溢れていたり浮岩に池のようになっていたりはするが。
川が流れている絵がある異常性に……だからこそ気づかなかった。
水は流れるもので落下しつづけるものではないと知らなければ長い川なんて描くのは困難なんだ。
ペリトンたちはそれをしらないからこそあの絵に強烈な違和感を抱いた。
私はほとんどスルー……思い込みとはこわい。
「あー、なんかそう言われるとどんどんみおとしがある気がしてきた……!」
「だからこそすり合わせだよ。ぼくだってさっきローズと一緒に必死に解釈足したんだし……」
「だが、これで我々の説の補強が出来た!」
「あー……ペリトンさんたちの神は、地の底に住まう神……けれどはるか古代には、ココは谷の迷宮で普通に底があった……だからペリトンさんたちの神がここに住んでいるのは変、と」
「仮説だけれどね。そもそもこの神殿たちに鳥の王やハーピーなんかと敵対する存在として、われらの神が描かれていないというのは、不自然なんだ」
「そう、明らかに我々や我々の神との対立は描かれていて、ここから追い出した、みたいな描写はどこにもなかったよね。あれほど鳥の王に関して詳しく書いてあるのに」
そういえばそうだ……
明らかに名エピソードとして書かれそうなのに。
実際にあったのは月から降ってきた強敵を撃退した話である。
こちらはこちらで意味がわからないがこの話があるのに地の底の神と敵対した話が一切ない。
なんなら神殿にはペリュトンの絵はおそらくない。
そう……いないとしかおもえないのだどちらとも。
「まあ、我々としては今までの少数派の仮説にすぎなかったんだ。だけれども、今回神さまは否定。これはほぼ確定じゃないかなって」
「まさかのところで仮説が補強されたよね。今回神殿の文を読み直して改めて確信って感じかな!」
「……あれ、じゃあグルシムって誰なんだろう……」
謎がやたら深まる。
だからこそここでなんとか解き明かしたい。
ペリュトンがコンコンと蹄で床を叩いた。
「さあ! 続きだよ! どんどん解釈合わせていこう!」
だいぶんと内容をすり合わせられた。
ただ……だからこそこの内容は一体……
「ううーん、ぼくがよめてないところ多くて、色々教えてくれて助かったよ!
一体どこで学んだか知らないけれど、ローズもこの後、こっちで研究してみないかい?」
「ええまた、機会がありましたら……では、ざっくり合わせて行きましょう。まだこの世界に正しく底があり、崖の迷宮ではなく、谷の迷宮であったころ……」
「谷の迷宮には翼のない魔物たちもいて、それでも穴倉なんかで暮らしていたと。そしてそのころから、まだ何者でもない、この迷宮で暮らす者のひとりだった……後の鳥の王、と」
「けれどその将来の鳥の王は自らの力を振るってたびたびいきものたちを救ったんだ。神様としての力はこの頃から振るえたみたいだね。そうして見守る巨大な鳥は、鳥の王と呼ばれ親しまれるようになったんだ。そして鳥の王と生き物たちは、いつもすぐ隣り合っていて、常に接していたみたいだね!」
ここまでは……まだ良いとして。
「ええと……そうして祭壇なんかもつくって信仰すればより鳥の王が神力を増して、鳥の王はお返しによりみんなを助けて……」
「そう、やがて翼のないものたちにも翼をさずける奇跡をみせた。それは……ニンゲンの背にも」
「ハーピー……ではなかったのか?」
「ハーピーはハーピーでよくみると別のところにいたりするんだよね……鳥の王の近くで鳥の王と共に歌う魔物の一体で、直立する鳥みたいなやつが、おそらくそうだよ」
そ……そういうデフォルメーション……
逆に言えば背に翼が生えたニンゲンは鳥の王により授けられた存在。
いて……しかも神殿や祭壇を作り出したのだ。
ニンゲンが。




