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八百六十四生目 灰色

 鳥の王の巣らしき場所にたどり着いたと思ったら底から不気味な呪歌が聞こえた。

 明らかに関わってはいけないものが発しているメッセージでありその存在は冒涜的。

 いることさえ本来は良しとされないものだということがよくわかる。

 心が呪われる……!


「まあ、俺には聞こえなかったからよくわからねーがよ、ここで少し休んだら、下に行ってコロロを助けるのは間違いないんだろう?」

「う、うん、そうですよね! クワァコロロを助けなきゃ!」


 けれどドラーグはなんとかやる気を取り戻した。

 コロロのことがとても大事らしい。

 私も同じ意見だ。


「……ちょっと、私が先行してみる。みんなはその後で来て」

「わかりました。先行お願いします!」


 さすがに例の神がいるかもしれないだの冒涜的な呪歌を放つ存在がいるだの鳥の王がいないだのと悪い条件が重なりすぎている。

 私は(くう)魔法"ストレージ"で亜空間から溶液の入った瓶を取り出す。

 周囲に振りまけば(エフェクト)が煌めき疲労感が薄まっていく……


 これは新しい回復剤のひとつで範囲内のみんなの体力を癒やすというものだ。

 生命力にはなんら関与しないが体力は治って元気になる。

 ごまかすためのものが半分と本当に根源的に癒やすものが半分。


 今気分が良くなったのはごまかすための成分。

 これには入ってないがカフェインなんかは良く効くもののひとつと言われているね。

 だがしっかりこのあとから力が湧くから大丈夫だ。


 商会と手を組んでからどんどん新製品が出来だす……

 むこうも色々と考えてくれているようだ。

 ありがたい。


 また亜空間に瓶をしまって。

 空中が得意な魔物ならばフリー落下を楽しむのだろうが私はそういう余裕はない。

 空中に飛び込みアインスに制御任せて自力落下だ。


(ここさいきんでばんおおくて、つかれた〜!)


 私も疲れた……けれど心強く持たないとなあ。

 私はまさに闇へ吸い込まれるように底へと落ちて行った……


 呪歌がだんだんと大きくなり自然にイヤな顔になる…………


 ……ん!?


「な、何!?」


 せ、"自己無敵"の精神暗転が働いている!

 "怨魂食い"で食べられないかと思ったがあまりにも多く強すぎるそれ。

 明らかに今入ってはいけない空間に入った!

 全身が鳥肌立つような感覚が危険さを訴えている!


「みんな! きちゃいけない! ここは呪われている(・・・・・・)!」

「なんだとー!?」

「ぼ、僕は少しは耐性があるから……」


 この味は凄まじい……

 あまりに煮詰められた度が過ぎた死者の想いの集合体。

 こんなものまともにくらったらあっという間に縛られる!

 

 ドラーグが焦ったのかこの闇の中に顔を突っ込んでくる。

 中から見た外からくるものはまるで無理やり突き抜けたかのようだ。

 だがその首の様子がすぐ苦しみに変わる。


「うう!? な、何、身体が、重い……!?」

「ダン! 上からドラーグを引っ張って! 私は押す……!」

「なんだ!? わからんがわかった!」


 ドラーグの身体を上へ押し上げようと手を添えて加速!

 重いという話を聴いていたから力をこめて……


「せーの!」


 あれっ。


「うわッ」「わわっ」「うおっ」


 スポーンと抜けるかのようにあっさりと押し出せた。

 向こうも意外だったらしく変な声があがった。

 やはり現実的な物理法則に訴えかけない本人の感覚に作用する呪いということか……


 周囲に大量の呪詛の声が流れている。

 蔑むような笑い声に怒るような唸り声……

 幸い防げているおかげか雑音としてそこまで気にならない。


「あ、あれ? さっきまでの怨念みたいな歌、聞こえなくなっていませんか?」

「え!? ……本当だ!」


 さっきまでの響き渡るおぞましい歌そのものは聞こえなくなっている……

 なぜだろうか。

 相手にこちらを気づかれたから……?


 そもそもそんなまともな相手なのか?


「私がコロロのもとに行く! みんなはなにがあっても良いようにさっきの待機してて!」

「わかった! 頼んだぜ!」

「クワァコロロを……頼みます、ローズ様!」

「うん!」


 こうなったらさらにこの闇の中へ降りていくだけだ!

 光の遮られるこの先へ……






 不思議と底の方に行くと暗くは無かった。

 だが明るくもない。

 あるのは灰色の風景。


 まるで光をなしに闇の中を見ているような独特な風景。

 色がないわけではないがすべて色あせたようなフィルターがかかって見える。

 明らかに異質な世界。

 一定以上の距離は闇に包まれまだ底は見えない。


 退廃的な美しさはあるが同時にずっといつづけると滅入るような気の重さもある。

 いつの間にか呪いのさえずりは雑音となって気にならなくなり同時に不気味なほどの静寂がある。

 音がないのではなく意図的に静まり返っているような……


 言うならば死んでいる空間だ。


「ここは……」


 ――そこから遥か時がたったあと。

 やがて自分の音だけが鳴り響く空間に降り立った。

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