八百六十三生目 滑崖
夜闇をひたすら駆け抜けていく。
崖の様子は……見れば見るほどに不気味だ。
どの面もひたすらにツルツルぬるぬるとした光が覆っている。
ためしに触ってみたがまるで摩擦抵抗がない。
今まであったトゲ型の足場もなくなり地形的に山なりな場所も消える。
ただまったいら。
そしてそのまま奈落につながる。
「休憩しながら飛ぶってことは無理ってことか……やっぱり」
「ふつうに来るのなら、往復のことを考えなくちゃいけない……ペリュトンさんたちは途中で引き返したんだろうね」
「僕たちは、突っ切るのみです!」
「おう! いこうぜ!」
何もいない……
植物すら飛んでいない……
本当に本当の不毛の地。
一体何があったらこんな地形が生まれるんだ。
ちょっと脳裏で解析を試みているが単純に強力すぎてまだよくわからない……
こんなものがあるだなんて。
ガラス質といったほうが近いだろうか。
その性質を持った光が崖を覆う。
「不気味だなあ……」
「そうですね……話に聞いていた鳥の王のふるまいと、ここはまるで違いますね。巣に近づいているはずなのに」
「親しみやすそうな感じとは真逆、何者も寄せ付けねえって感じがイヤに感じるぜ……!」
まさに別の存在のほうを強く感じさせる。
底に住まう死の神。
これから出会うかもしれないペリトンたちの神……!
想いと共に加速していく。
先の見えないツルツル崖の迷路を飛び続ける。
次に着地するのは……鳥の王の巣だ。
な……長い!
もう2時間も飛んでいるんだけど!?
しかも光魔法"ディテクション"などを駆使して出来得る限り正解のルートばかり通っているはずなのに!
しかも無風。
何が困るかと言うと……風に乗れないのだ。
実は鳥のなかには大陸から大陸へ休まず飛ぶものもいるが……あれは風に乗り続けているから出来る芸当だ。
今私達は自力のみで飛行し続けるハメになっていく。
滑空が一切できない。
「うう……うう……よわねをはかない、はかない……」
「いや流石に俺を乗っけてここまで来てる時点で明らかに辛いだろ」
「出来る限り魔法で補強はするからね」
私もさすがにキツイな。
そろそろどうにか鳥の王の巣につかないか……?
この先地形がひろがっているな……
道は……4回ほど曲がればいけるかな?
「みんな、まだよくわからないけれど、ちょっと大きな地形を見つけた」
「おお! もしや!」
「鳥の王の巣ですか!? 行きましょう!」
「うん、でもまだ降りられるかわからないから、気をつけて!」
とにかくまずは進む。
グルグルと道なき道を飛び続け……
角は4回曲がって……っと。
到着……うわ。
「な……なんだこりゃ!?」
「行き止まり……それに大穴ですか!?」
「ええ……どうなっているんだろう、これ」
近づけばそこは今までとは違ってやっとまともな崖が現れた。
だがやはりというかまさかというかそこには崖が覆う行き止まりで鳥の王の巣などなかった。
崖の光は変質し一部は着陸可能なようだ。
ここは近づいただけで異質なのがわかる。
大きく広がる空間に高い壁に囲まれて1つの草も生えない。
あのぬめった光がないところもだ。
この異質な感覚を表すとしたら……
「まるで、死んだ世界みたいですね……」
「……うん」
ドラーグがつぶやいた。
空を飛び疲れたため安全そうな位置に着陸する。
針の翼がちょっと痛んできてなんとか助かった。
身体は空気にぶつかり過ぎたし心は落ちないか心配しすぎてむしろ麻痺してきた。
「ふうぅ〜……」
「つ、疲れた……!」
「おつかれさん! だがこっからどうすりゃいいんだか」
「ダン、ずっと騎乗して大変だったはずなのに、すごく元気だね……」
「鍛えているからな!」
鍛えるが万能説になってきている……
だがともかくここからどうするかというのは悩みどころだが……下はどうなっているんだろう。
……うん?
「声が、聴こえる」
「ん? そうなのか?」
「あー……たしかに、かすかに。この下からですかね?」
みんなで覗いてみる。
崖の底は……暗い。
今までは白みがかかっていて底が見えなかったがここは違う。
闇が広がっている。
天からの光をまるで受け付けていない。
見るだけでこちらを引きずり込み離そうとしない底なし。
明らかに普通ではない……が。
さらに不思議なのは底から確かに声らしきものが聴こえる。
だがそれは不気味な音程をともなっている。
まるで誰かを呪い歌うかのような。
生命への冒涜を投げつけてくるような。
聴いているだけで正気が失われそうだ……
「だ、大丈夫……?」
「え、ええ、なんとか……何なんですかあれーっ!」
「俺にはよう聞こえんが、聞かなさそうが良さそうだな……」
耳が良いことを後悔したくなる。




