八百五十五生目 空腹
ガラガゴートの棲家に案内された。
そこは隠された小さめの浮き岩。
それでもヤギ魔物たちが所狭しと10匹ほど暮らしている。
「だ、だれえ?」
「俺の相手だ。気にするな」
弱々しそうな小さい仔ヤギだ。
でもガラガゴートみたいな恐怖が一切なくてとてもかわいらしい。
"観察"!
[メェキッド 魔物だがほとんど戦う力を持たない。あまいかおりをだして相手を油断させ、唯一すさまじい跳ねる力で相手から逃げ切る]
「わぁ〜、いいにおい」
「おお、おお! そこの君、どうだい今日は夜ふかししてみないかい!?」
「え、えぇ……」
「五体バラバラにされたくなければすぐ離れろ」
アヅキがすさまじい早さでメェキッドに近づき何やら口説き始めた。
なるほどオスかな……
「少し話がこじれるから向こうへ行こうかー!」
アヅキがダンに引きずられて向こうに追いやられて……
とりあえず殺気はおさまった。
「なんだなんだ、こいつら、姉さんこいつら殺さないのか?」
「……場合による」
さっきのメェキッドとは別にオラついた様子の強気なヤギ。
ツノもあるしごくごくよくいるヤギっぽいが……"観察"!
[カラカラム メェキッドのトランス体。たくましい心により甘さを捨てた。ただし中身は伴っておらず、秘められた力が解放される日までひたすら鍛え続ける]
鼻息を荒くしているもののガラガゴートに抑え込まれ素直に下がっている。
たしかにガラガゴートの雰囲気からしたらまるで力を感じないな……
強さが極端だ。
大きさもガラガゴートがかなり大きいのに他はそうでもない。
やはりガラガゴートが異常なのだろう……
「それにしても、とっても牧歌的で……平和だから、ご飯に困っているとは思えませんね」
「ドラゴンにはそう見えるだろう。だが我々としては別だ」
たしかにこの小さい浮き岩の草はほとんど禿げている。
ガラガゴートたちが食べ尽くしたのだろう。
「おかぁさん、ミルクほしい〜」
「……あとでな」
「はーい」
本当にメスだったんだ……
にしても今の……
勘ぐり深すぎるかな?
「どうした。何か言いたげだな」
「いや……この食事の少なさや、それとミルク断ったのを見て……もしかしてあんまり出が……なのかなって」
「……こい」
「うわっ!?」
また風だけ残して消えた!
いや確か今影があちらに……いた!
向こう側の崖にガラガゴートが張り付いている。
ここでの聞き込みはみんなに任せるとして私は向かおう。
近づけば瞬時に遠くへ跳んで行くのを繰り返し。
さすがに慣れてきたがやはりそれでも速い。
そんな風に案内され完全に他のヤギたちが見えない位置に。
「ここでいい」
とばなかった……よかった。
「それで……私をここまでつれてきて、一体何を?」
「ここなら、家族が話を聞くことはない……家族にはあまり知られたくない」
近くの岩柱にとび移りその上にガラガゴートが乗る。
ヤギ独特な地面と平行線な瞳孔が私を見抜く。
「さっきの、ミルクの話ですか?」
「……ああ。徐々に出が悪くなっている。まだメェキッドたちが育たなければならないのに、だ。俺の空腹を紛らわす程度にこういう所に草はあるが、俺の身体を維持するのが限度らしい」
見るからにカロリー使いそうな身体だもんなあ……
それにしてもやはりそうだったのか。
それじゃあ……
「じゃあ、他のところにある大岩にうつれば……」
「出来ないことはない……が、腹を満たしてしまうことは、この数では不可能だ。我々は腹を満たしたい……ここのところ飢えてばかりだ。俺は、この力を振るえば大半のものが手に入るとわかっている。だが、こちらに害意があるならともかく、害意のない相手を散らすのは好かん」
「ガラガゴート……」
気性がすごく荒いからもっとおぞましいかんじかと思った。
だが気をはる必要のないここではその内側を少し見せてくれた。
荒さや強さを向ける相手をきっちり定めた鋭い刃だった。
「あの鳥は、そこのところを理解するのか……結局お前達は、我々が求めるほどに……腹が膨れるほどの食事を、渡せるのか、そこが疑問だ。渡せないのなら……」
「た、多分大丈夫だから!」
また威圧感が!
いちいち怖い!
「……戻るか、とりあえず」
「う、うん」
その後アヅキたちとふたたび合流した。
アヅキは私に深く礼をして……
「では行ってまいります」
「うん、よろしく」
「お前達、寄り集まれ。アノニマルースに居座るかどうかはお前たちで決めろ」
「ふん……では貴様の料理、とやら、楽しみにしているぞ」
空魔法"ファストトラベル"自身非適用拡張!
アヅキとくっついていたヤギたちが一斉にワープしていった。
アノニマルースで彼らはもてなされるはずだ。
「じゃあ、僕たちは僕たちで行きましょう!」
「「うん!」」




