八百四十九生目 彫刻
いにしえの神からの盟約はザルだった。
対ニンゲンに特化した魔物ことペリトンをどこかの誰かの神が盟約でつくりだしニンゲンを攻撃。
しかしやがて撃退され崖の迷宮奥深くに追いやられ……
それでもハーピーを狩って生き続けていた。
ハーピーも同じニンゲンの顔だから……
そんな理屈まかりとおるのかと思ったら普通に通ってしまった。
「まあ……だいたいの事情はわかりました。ありがとうございます、わざわざ」
「ええ、久々に語れて満足です。我らは一生に一度に1匹のニンゲンの顔を持つものを狩り、そして生涯という概念を得て、ゆったりと過ごすのです。こういうこともないと、なかなか刺激がありませんでしてな、ボケたくはないので」
ほがらかに笑い牡鹿のツノを揺らすペリュトン。
うーんむしろ生涯の狩りが1度のみなら他の生物より圧倒的にリーズナブルだ……
彼らだけ非難するのは違うか。
ニンゲンたちも自分たちが狩られるから反撃しただけで。
これはハーピーたちの反撃にまかせるものであって私がバランスを変えてはいけない。
ペリトンたちも生きることをしたいだけ……か。
「そうだ、その古代の盟約をした神様とは?」
「我らの神に関しては……場所を、移動しましょう」
ペリュトンが立ち上がるとその大きさが際立つ。
おとなしくついていこう。
「わー、かわいい!」
「新しい取引先の子かな、新しい甘いもの食べる?」
「ペリュトンたちにいびられてないかな? 昔話につきあわされたり」
「聴こえとるぞ〜」
「「ハハハハハ!」」
ちょっとの距離を歩くだけでペリトンたちにものすごい声をかけられるし親切心がすごい。
本当にニンゲンの顔を持つ相手にのみしか力を振るわないんだな……
あとさっきから聞くに産業や他種族取引が存在するのすごいな……
ただ文化が発展する基盤はなんとなくわかる。
話していても見た目の牡鹿と鳥を混ぜたようなものと違ってかなり賢くおとなしい。
さらに1体のハーピーを狩るだけで生涯の狩りを終えあとはのんびり生活。
根本的に時間もあれば生きるのに不自由しないのだ。
おそらく対ニンゲンをしていた時はその余裕はなかっただろうけれどね。
「さあついた。やあ、今日もつくっているかい」
「おお、旦那! お連れさんも! どうぞ見てってくださいよ」
おっ。新たなペリュトンだ。
彼は自身の蹄に何かをくっつけて作業している。
作業内容は……石を削っている? ということはひづめのは彫刻器?
「こんにちは、ケンハリマって言います。ローズと呼んでください」
「よろしくローズ、ちゃんかな? 今私はこうやって、像を……あー、石を削って、形をととのえて、姿かたちをつくっているのさ。売り物もあるよ」
「像を? 器用なんですねえ!」
「おや? 結構詳しい系? うれしいねえ! 私の作品、見ていってよ!」
作品として紹介された先はこの廃墟にふさわしくないほどに美しくかたどられた空間。
天からさす光が像たちを照らし出す。
それは様々な魔物たちをかたどった大小様々な美しきものたち。
像はどれもこれも静止の姿ではなく今にも動き回りそうな躍動感。
歩む途中のペリュトン。
跳ねて翼を広げるうさぎ。
鼻ちょうちんを尾にくくりつけて飛び立つネズミ。
みなこの迷宮で見たものたちだ。
光が強く影を浮き出している。
「なるほど……もしかして、影が目立つように彫刻を? だから光の当たるこの場所に……」
「そう! 影があってこそ魂やどり、命芽吹く。すぐに見抜くだなんて、才能あるねえ!」
「ああ、いえ、私の弟が芸術関係に強くて……」
「そりゃあ良い弟さんだ!」
「さあさ、目的のモノは、奥にあるよ」
そうだった。神の話をしているところだった。
ペリュトンに案内され歩む先にはさらに多くの石像たちが立ち並ぶ。
ハーピーや鳥たちも作られ並んでいた。
そして1番奥にあるものは……
「これが、神の姿だよ」
それは骨出来たおぞましき獣。
肉なく皮膜が張り付いてるようにも見える。
さらに背から翼が生えて砕けていた。
あまりに不気味で一瞬怯んでしまった。
まるでペリュトンの死を芸術的に描いたかのようだった。
「うわッ……」
「ほっほっほっ、どうだい、驚いたろう、この像を様々な魔物を見せて反応を見るのが好きでの、言葉わからずとも伝わるものがあるらしい」
「もー! 私の最高作をゲテモノ扱いしないでよ!」
「なあに、そもそもこの像、元々あったものを、勝手にいじったんだろうが」
「インスピレーションの参考にしただけですー! 技術模倣も自己流になじませる行為ですー!」
これが彼らの神……!?
正直崇める要素がない気がするんだけれど!




