八十生目 味方
死ぬ宣言からの戦闘禁止命令。
困った、本当に困ったぞこりゃ。
「前々から思っていたけれどあなたよっぽどの異常個体だものね。
そのぐらいの反動はあるのかもね」
「えぇ……」
余命1月とかシャレにならない。
変な汗をかく。
「……そうだ、私にもわからないものがあったのよ」
そう言って彼女は見ていた紙を一部見せてくれた。
ええと?
「ここね、外部から一瞬だけ敵意のない接触があったのよ。
魂の世界を使ってメッセージ飛ばすだなんて同業者かと思ったのだけれど。
どうも読めないのよね……」
あの殺意の塊以外にもあったのか。
送られてきたのはどれどれ……
あれ、これって。
「見えたのをそのまま書き写したのは良いのだけれど、あの光教の奴らの文字には似ているけれど……」
「"小さき者の町へ行け そこに求めるものアリ"」
「ん?」
これ……英語じゃん。
簡単な文法で簡潔に書かれている。
とは言ってもこの世界の文字じゃあないからなぁ。
私以外に読めないメッセージか……
「だから、ここに書かれているのは『小さき者の村へ行け そこに求めるものアリ』だよ」
「読めるの?
もしかしてアンタの前世の文字?」
「うん、前の世界の文字だね」
すると彼女は顔を手でおおってブツブツと呟き出した。
『本当にシャレにならない』とか聴こえてくるが、うんまあ聞き流そう。
これ以上深刻な事態を背負いたくない。
「でも、意味がちっともわからない。どういうこと?」
「さあ? 誰か心当たりあるやつがいないか、当たってみたほうが良いのかもね。
ただまあそもそも真偽性が怪しいものだけれど」
そう、それはもう確かに。
そもそも私が求めるものがなんなのか正確にわかって書かれているのかも。
差出人不明の私にしか読めない手紙といった所か……
けど、藁にもすがりたい。
「ああ、でもその送ってきた時に解析かけたけれど騙そうという意思は感じられなかったわよ」
「味方の可能性が高いと?」
「そうかもねえ、それかそうすると送り主の利益に繋がるかといった所ね」
うーん、ますます縋りたい。
「それにしても、そんな風にまでしてあなたの前世から味方をしてくれる相手もいるのかもしれないのね。
つくづく仲間づくりがとんでもなくうまいのね、前世でも、今でも」
「そうかな?」
あんまりそういう気は無かったんだけれど。
すると彼女は大きいため息をついた。
やれやれ自覚ないのかといった感じをありありと出している。
「そりゃそうよ、あなた前世人間ならある程度わかるでしょ?
他種族がこうも手を取り合っている状態、はっきり言って異常よ」
「捕食するさいに心理的に平気になるためにされている遺伝子的な仕組み……」
それそのものは考えたことがある。
前世の世界だけなのかなって思ったけれど。
「イデンシというのはよく知らないけれど、命の根幹のことならそうよ」
そうか、それってこの世界でも普通にあるのか。
「ならしとかペット化とか家畜化とかなんでも良いけれど、本来共生可能な種族はそれぞれにかなり狭くなっている。
イタ吉、たぬ吉、アヅキ、そしてホエハリ。
これらは全て他種族とは共生不可のはずよ。
魔獣使いでも無理ね」
みんなじゃん!
ええ、でもなあ。
「言葉が通じたからじゃない?」
「言葉が通じた程度で何とか出来るのなら私は同じ人間たちに追い出されてココにいないのよ」
「すいませんでした」
ぐうの音も出なかった。
ええ、でもなあじゃあなんでなんだ。
「私……つまり人間も本来ならホエハリにここまで感情を持てないかもねえ。
100歩譲ってあなたが特別だとして、その兄弟たちはなぜあそこまで親しくしてくれるのかしら?
他のホエハリたちもそう」
「それは……うーん?」
言われれば変……なのかな?
こう言われると不安になる。
「まるであなたに関わった者はその制限が取り払われて自由に接せるような……そんな感じよね。
あなた私にも何かしたかしら?」
「なにか……うーん、攻撃とそれに……治したくらい?」
それに群れの仲間には何かスキルを使ったりしていない相手もいる。
そうなると……どうなんだ?
「まあ、わからなければ良いのよそれは。
とりあえずこのメッセージの意味を突き止めなくちゃね」
その後はアヅキを起こして事情を伝えた。
色々と混乱しているようだったがアヅキもメッセージの意味は分からないという。
なので色々とみんなに聞いて回った。
けれどみんなは知らないそうだ。
ちなみにメッセージの中身だけで寿命については伏せている。