八百四十二生目 落胆
ハーピーの子どもが卵から生まれた。
ピィピィと元気に親を求める。
もちろんもう歩ける。よちよちとだが。
なかなか珍しいものも見られて満足したしひととおり生まれてオスのほうのハーピーがひと息ついてたから話を聞こう。
ドラーグとコロロは大事を取ってもっと手前側で聞き込みをしてもらっている。
「あの、ところで先程言いかけたことなんですが、先程襲ってきたペリトンについて詳しいことをお聞きしたいのですが」
「うん? あの獣か? ……アイツに関してはそこまで詳しく知っているわけではない。昔からたまにああやってペリトンがやってきては、我々の影を奪う。影を奪われたらなぜか死んでしまう……今回は1体だから良いが、集団で来る時もある。そうしたらとてもじゃないが守りきれなくてな……幸いなことに1体につき1つの影を奪うことで満足するらしいが、昔から被害は甚大だ」
「なるほど……ありがとうございます」
頭にちゃんとメモをしておいて……と。
このオスハーピー……声がかわいらしいのが気になるなあ。
口調は強めなのに。ちょっとおもしろくて良いけれど。
なんらかの理由でペリトンはハーピーの影を狩り満足して帰っていく。
霊の魔物は確かに物質的捕食そのものはいらないが代わりに特異だとしか思えない行動がある。
それで存在を維持したりするが……そもそも影を狩るってなんなのだと。
影は物質の光が当たったさいに発生する光線が妨げられた暗がり。
なんか切り取れるものではない。
さらに言えば途中からコロロを急に狙ったのも謎だ。
どちらかといえば心奪われたかのような動きだったし……
謎が多い。
彼らやハーピーの役に立つことが思いつかなくて残念だ。
「ピヨ!」
「ピヨピ!」
「わあ〜! かわいい〜!」
巣のすぐ近くで話していたからか足元にハーピーの子たちが寄ってきた。
この時はすごくヒヨコ寄りなんだなあ。
ここからハーピーみたいになっていくのが変化の面白さ。
「さあさ、助けてくれた生肉ちゃんたちに迷惑をかけないでね。ゆっ〜くり〜おや〜すみ〜、る〜る〜る〜〜」
「ピヨ……」
「ピィピィ……」
母親っぽくメスのハーピーが2羽その翼の腕で抱えて子守唄を聞かす。
みんながあっという間に静まり返った。
すぐに眠ってしまうのがコテンとした動きでキュートさの塊。
「そういえば妻にも話があったんだったな。少し待っていてくれ」
「ああ、はい」
そうそう本筋である峡国の話を聞かねば……
……ってあのふたりは一体何をしているんだ?
メスのハーピーからオスのハーピーへ受け取った2羽の子を抱え上げ端ギリギリへと向かう。
残されているハーピーの子が6羽だからほとんど残されたままだが。
「よしいくぞ……くっ」
「ええ、これもこの子たちのため」
そうして。
抱きかかえたハーピーの子たちを。
落とした。
「えっ!?」
今何を……!?
それに1羽眠りが甘かったのか。
強く悲鳴が上がった。
「ピィー!!」
「ッ!!」
「「アア〜! 我ら、祈り、安らかな、眠りを〜! ララ〜!」」
"時眼"自身に適用加速!
周囲のすべてが遅くなったかのように感じる。
ゼロ速度からの急加速!
歌う夫婦のあいだをすり抜けそのまま落下!
周囲にハーピーがいるのに無視している……!?
身体は思考とは関係なくグングンと速度を上げて行く。
この速度なら出遅れた分も取り戻せるはず。
あとは近づいて腕を伸ばせば……!
「まーーてーー! あーーぶーなーーいーー!」
引き伸ばされた言葉と共に目の前に割り込んで来たハーピーたち。
勢い余ってつっこみ複数羽のクッションに空中でクルクル巻き込んでいく。
ハーピーたちから抜け出して見た光景は時既に遅し。
ハーピーの子2羽は下の白みの向こうへ。悲鳴は消えていた。
……"時眼"解除。頭に痛みが走るがそれよりも。
高らかに……そしてどこか物悲しく歌い上げたハーピーたち……一体いきなり何をしたいんだ。
「危ないぞ生肉! 子の選別と捧げは基本だろう、何を熱くなっている!」
「えっ!? そんな……クッ」
「お前の種族がどうかは知らないがどちらにせよ、親御さんの気持ちも考えてみろ、ほら!」
「ッ……!」
浮遊大岩にいるオスのハーピーが膝から崩れ落ちる。
顔を覆って静かにないているところにメスのハーピーが後ろから抱きついた。
「う、うう……どうしてこんな……」
「仕方のないことなのよ……必ず生きている子たちを、育てあげましょう」
先程のハーピーたちにはひとまずお礼を良い夫婦のもとに帰る。
……とにかく何があったのかを聞かなくちゃ。
「ね、ねえ、一体何が……?」
「そうか……私達の種族と、あなたたちの種族ではやり方が違うのね。あれは私達の昔からの掟……必ずまもらねばならない、命なの」
 




