八百四十一生目 影狩
ハーピーを襲撃中の飛ぶオス鹿頭ペリトンの元に飛んできた。
近づいてすぐに分かったことがある。
霊の魔物というだけあってペリトンは影がまるでない。
いろんな生き物は陰陽が肉体に落ちて足元から影が伸びる。
ペリトンにはどちらもない。
まるでこの世界に貼り付けただけなような違和感。
ただまあ霊の魔物ならばわかる。
同じくキトリも細かな陰影はない。
ただし肉体が炎に近いためか伸びる影はメラメラと炎の影。
ただペリトンは実体があるみたいなのでより浮いている。
霊ということもあり精神的ダメージに強いのか同じく精神的ダメージから
傷害を引き起こすハーピーの攻撃歌がイマイチ効いていない。
歌っているハーピーにむしろ突進してゆき慌てて中断そのまま退避の繰り返し。
ハーピー側は囲んでいるのにまるで有利が取れてないようだ。
「待った、待った! 一体これは!?」
「危険だ生肉、下がるんだ、影を狩られるぞ!」
「ええと今度はこっちの言語で……キミは一体何をしにきたの!? 縄張り争い!?」
「む、同族!? ……ではないのに話せるのか!? まあいい、ハーピーたちの歌に巻き込まれる前に下がったほうが良い。俺はここでハーピーの影を手に入れるのだ!」
影を手に入れる……?
影を狩ると影そのものを自分のものにできるのか?
それで何の利点が……? まだわからないことが多い。
なぜかしらないが私は対象外らしい。
しかしこれは……どちらに味方すれば?
話を聞きたいのはハーピーだが……
そうこうしている間にハーピーたちが疲弊しだした。
そしてドラーグとコロロがやってきた。
近くにいたらしい。
「ローズさーん! これって一体なにごとですかー!?」
「……みんな、いやなおと」
「なんだかハーピーの影を狩りにペリトンという魔物がやってきて、それで揉めていて……」
「……ニンゲン?」
ドラーグとコロロに事情を説明しようとしていたらどこからつぶやくような噛みしめるような声。
いやこの言語は!
振り返ればそこにペリトンがいた。
ペリトンはハーピーに目もくれず真っ先にドラーグを……いやそのうえのコロロを見ている?
「……パパ、暗く」
「ま、まさかあれが先祖から伝わる……! 間違いない、この身に流れる魂の感覚、アレが本物の、ニンゲン! ニンゲン、ニンゲン!!」
「よ、よくわからないがチャンスだ! 叩き込め! ラ〜〜!!」
「「ララ〜〜!!」」
ハーピーたちが歌うがその向けられた位置から素早くペリトンが動く。
間一髪集中放火を抜け出したがペリトンはそこを気にしていない。
相手はコロロ……? その影……!?
「よくわからないけど、させない!」
両腕を突き出してドライによる"ズタ裂き"付与の連続トゲ飛ばし!
"針操作"で的確にペリトンに当てる!
ペリトンの翼や脚にヒット!
だが……止まらない!?
「その影寄越せー!!」
「パパ!」
「ていりゃー!」
だが完全に黒くなっていたとドラーグ。
しかもコロロ以外眼中になかったせいでペリトンはドラーグを見逃していてた。
大きなアッパーを喰らえばさすがに吹き飛ぶ!
大きく飛んで空中で体制を立て直す。
「くっ……不利か……ニンゲンを見つけたのに……くそっ、すぐに仲間を……っ!」
振りはらって自身から針を引き抜いて落とす。
血のような黒い物質が垂れて止まらないが致命的ではないな……
どちらかというと不意打ちアッパーのほうが痛かったらしい。
正気に戻ったらしく素早く崖向こうへと飛んで消えていった。
「あ、危なかった……コロロ、大丈夫?」
「……うん、パパ、かっこよかった……」
「そうかな? えへへ」
「おいそこの、何がなんだかわからないが影を取られず済んで良かったな。アイツには近づかれるなよ。昔から何度も仲間がやられている」
さっきの青色ハーピーが心配だったのか飛んできてくれた。
全員影はきちんとある。
「そうなんですか、彼は一体――」
「うん? この歌はカレが呼んでいる、すまないが先に帰らせてもらう!」
「あ、はい」
まだ慣れていないからどの歌が誰で何なのかまるでわからない……
言葉はわかっても信号のように使われるこっちは理解外なのが困る。
「見て! 次々出てくる!」
「おお……! 私達の子だ!」
「「ピィピィピィピィ!」」
呼んでいた理由は赤ちゃんハーピーが卵から出てきたからだった。
なんと珍しいことにハーピーが卵の殻を爪で壊して出てくるところをみられた。
手先も足先も少しは硬質化しているから卵を壊せるらしい。
ハーピーが抱きかかえられるほどにまだ小さなハーピーの子。
そういえばハーピーは未トランスなのか。
トランスしない個体かもしれないが。




