八百四十生目 雄鹿
しばらくそうこうしつつみんなで話しまわって比較的友好的なのはわかった。
こちらをメシだと思うのは困るから頑張ってやめてもらいつつ……
雑談から情報集めをする。
「――なんですか、ありがとうございました!」
「いえ、あんまり役にたてなくてごめんねえ。そうだ、そっちの事ならあの子なら詳しいかな……今卵をあっためている……ほらあの子」
「ああー、なるほど、わかりました、ありがとうございます!」
「では〜浮かび岩の祝福を〜る〜らら〜」
あちこちから美しい歌声は聞こえるが直接目の前で聞くのは特別。
私の身体の底から力が湧いてくる。
光が私を一瞬包んだし筋力強化が一時的にされたようだ。
私達は効率のためにわかれてあちこちの魔物と話しているため今は私ひとり。
とりあえずあの端付近の巣にいるハーピーへいかなきゃな……
建物が崩壊しているところに巣が収まっている。
巣に関しては明らかに鳥のそれだ。
ここまでの情報では建造物に関することは『あるから使っている』ぐらいしかわからなかった。
それとは別に緩いが信仰みたいなのも見受けられた。
信仰といっても毒沼のホルヴィロスみたいに熱い信徒というわけではない。
昔から言い伝えられていたから守るといった程度のものだ。
白砂を作り出すという輝かしき神に関しても訪ねたがさっぱりといった様子。
行動や思考が概念と一体化して信仰の対象そのものは見失うということはそこそこ起こることだ。
ハーピーたちも大昔は誰かを信仰していたのかもしれない。
いやむしろ……この世界全体の誰もが。
ハーピーたちは食事の前に特定の歌を歌ったり定期的に合唱祭をするようだ。
そもそも歌自体が攻防やコミュニケーション以外にこういう時そういう時に歌う歌というのが決まってて歌ったり。
さっき教えてもらったハーピーの元へ。
脚が鳥なので卵をしっかりあたためるように座っている。
色が茶色だからメスのハーピーかな。
「こんにちはー、あなたの友だちから紹介されてきたんですけれど」
「だ、誰!? ら〜〜!」
「おい! 近づくな生肉!」
暖めていたハーピーが歌うと突如上空からの襲撃!
危険を知らせる歌か!
後ろにバク転し落下足蹴りを回避。
カワセミのようなきれいな青色。
オスのハーピーで……この感じはつがいかな。
「いえ、危害を加える気はありません! さっきそこのハーピーから紹介されて、そこみたいに変わった壊れたものみたいなのに詳しいって聞いたから!」
「ああ……あいつか。アイツはおしゃべりだからなあ。だがやはり近づかせるわけにはいかない。そこから話してもらおう」
妥当な線だ。
素直に受け入れたほうが良さそう。
「わかりました。それではさっそく聞きたいのですが、その周りにあるような何かが作られて壊れたもののよう物って、他の場所にありましたか?」
「ええ、まあそれなら。昔の誰かが作った巣だと、私は聴いています。興味があって調べたりもしたので、場所……ん?」
「この歌は……!」
なんなんだろうか。
歌ならさっきからあちこちから聴こえてきているせいでどれの話かわからない。
「一体何が……?」
「そうか、キミ! 敵襲だ! うちの妻や卵に手を出すなよ!」
「敵!? ……あっ!」
そう言われて騒動の元を探す。
離れた向こう側だ。
この今いる端よりも空中を飛び向こう側……
"千里眼"で確認できたし間違いない。
ハーピーが集まったり慌てて逃げたりしている宙域に何かの魔物がいる。
頭は鹿のようだが美しく輝く翼を背に持ちそして頭のツノも美しい。
脚も蹄なので混合した生物のような魔物だ。
"観察"!
[ペリトンLv.25 比較:普通 異常化攻撃:影狩り 危険行動:なし]
[ペリトン 霊の魔物で生まれつき影を持たない。種族的に非常におだやかで他種と協力し群れで暮らす社会性もあるが影を狩られた生き物は倒れる]
そうこうしている間にオスハーピーは向こうへと飛んでいく。
おかしいな……説明文ではおとなしいはずなんたけれど。
見た目的にも草食だから肉を狩る意味はない。
雑食のハーピーがペリトンを襲うのならわかる。
しかしハーピーたちが影を取られないようにか一定距離を保って囲みつつ暴れるペリトンを抑えようと歌って遠隔攻撃しつつ防戦。
ペリトンはぐんぐんと移動してまわり逃げるハーピーを追いかけ回しているし周囲の囲いハーピーへ魔法を放ったりして攻撃的。
「あのひと大丈夫かな……」
「……ちょっと私も様子見てきます!」
「えっ?」
私も飛んで接近。
何をするにしても遠すぎる!
原因をちゃんと見なければ。
正直魔物たちの競り合いは常にある。
なにせ捕食や縄張り争いは生存権の獲得に重要だからだ。
ビュンと飛んで行けばさすがに陸上と速度がだいぶ違うからすぐに着く。




