八百三十九生目 歌鳥
ガラガゴートという恐ろしい魔物をやりすごした。
さらに私達は先へと進む。
石柱エリアを抜け崖の迷路をくぐりぬけ……
道が変わって遠回りさせられつつ……
意外に行き止まりが多いから周囲を察知してうまく回避し……
「……うん!? みんな、この先ちょっと変な地形がある!」
「ん? どんなだ?」
「すっごい開けていて……それなのに何か岩とか崖が浮かんでいて魔物たちがたくさんいる!」
「へぇー、ガラガゴートの住処じゃなきゃ良いが……」
確かにダンの言う通りではある……
道は把握しよう。
"千里眼"!
この崖の向こう。
それはこの迷宮内でとびっきりの異質。
だがここで暮らす者たちにとってはきっと楽園。
空に大岩や石たちが浮かび崖すらもいくつか浮いている。
常に安定していて穴あき崖には巣が大岩には植物が生い茂り魔物たちが陸地のように歩き回っていた。
群れが良くいて空もよく魔物や植物が飛んでいる。
明らかに生息数が他と違う。
ここが生き物にとってのユートピアだ。
浮いているから地震とは無関係できっと崖も動かない。
それに……もしかしてあれは……
私達自身もそろそろ崖の道を越える。
「この先だよ」
「どれどれ……うわっ!? なんで岩が浮いているんだ!?」
「わああぁ! 魔物たちがたくさん! 襲われないといいけど……」
「パパ……守って」
「チイチッ」
「ふうむ、先程のチーズ……ではなくヤギはいないか」
みんなそれぞれに驚いている様子。
アヅキは何か違う方向だが……
だが確かにここには彼らガルガゴートはいないらしい。
「……うん!? あれ、ほとんど崩壊しているが、もしや!」
「うん、やっぱりあれは……建物!」
草に覆われ屋根も柱も無くなっているが明らかな建物。
いくつもその跡がみられることからここに手が入っていたのは間違いない。
伝説の地。道なき峡国はここに確かにあったんだ!
「こりゃあ大発見だ!」
「さすが主、予測通りでしたね」
「アヅキもありがとう! さあ、ここからだ……!」
ここならワープ可能だろう。
それについに手がかりを見つけたからここから探索の手を広げよう。
どんどんと探索してわかったことはやはりこの地は地震も崖変動とも無縁。
まあそりゃあ浮いているものね。
ここだけは外界並に生態系豊か。
だからなのかいくつもの崩壊済み建築物があり当時誰かが暮らしていたことを思わせるのだが……
このつくり……ニンゲンが使うには不便なような。
いや材料が揃っていないからなんともいえないんだけれど。
なんだか引っかかる。
それとは別に今棲む魔物たちもいるわけだ。
遠目から見ると……その魔物はまるでニンゲンの女性。
だがよくみるとその腕は翼で羽毛に覆われているし脚はまさに鳥。
瞳はニンゲンのような白い結膜が見えずまさに鳥のような黒一色。
あれは……"観察"。
[ハーピー 美しい歌声は意図によって様々な効果をもたらす。敵対者には錯乱を起こし味方には癒やしを引き起こす。オスは羽根の鮮やかさで競い合う]
うんやっぱりよく前世でも描かれているハーピーという魔物だ。
みんな女性に見えるけれど言われてみれば地味な茶羽根と青や赤が入り交じるような派手めのハーピーがいる。
身体を軽くする関係と気囊の関係かな。
気囊は鳥の肺近くにある。
これにより空を舞えるそうだ。
空気を取り込み飛ぶ……とてもわかりやすい。
簡単に言うとこれが詰まっている関係で胸がみんなとても大きい。
いわゆる肋骨の関係で左右に別れて。
つまりはおっぱいなのだが。
ただR18な見た目にはなっていない。
鳥なのでいわゆる搾乳部位がないのだ。
もちろんオスも同型だ。
さらにポンチョのような簡単な服を羽織っているのは文明の残り香を感じる。
ただ飛ぶと羽毛のない胸やらへそみぞやら股が顕になって意味が薄くおそらく本来の役目を忘れられている。
ちなみに鳥類なのでへそ穴そのものはなく筋肉の配置関係でそうなって見えるだけらしい。
「こんにちはー、害意はないのですが、少しおうかがいしたいことがありまして」
「あら、しゃべるの? しゃべるお肉さんなの? でも私達今お腹いっぱいだから」
「そうそう、別に食べに来られなくてもいいのよ」
「食べられたくはないです……」
こっそり"ヒーリング""無敵"重ねがけしておこう……
言葉を交わすとわかるが見た目通りどおりどの個体だろうが女性の声。
なんだかヘンな気分。
とりあえずひととおり情報収集してみよう。
詳細なことがここでわかるといいのだが……