八百三十七生目 辺境
ダンやアヅキになぐさめられつつも日が暮れるころにはテントセット完了。
地震のゆれはちょくちょくくるがテントは壊れるほどではない。
この迷宮あたりまえのように崖が動くので魔物たちが一切動じていない……
空魔法"ファストトラベル"は覚えた景色に飛ぶ魔法だ。
印象強くかつその景色が変わっていない……さらにいえば現地から動いていないことが重要。
似たような崖群に動きまくる景色と相性が最悪。
同じ空魔法"ゲートポータル"なら……と思ったがこちらも相性が悪い。
空間を指定してつなげるのだがどうやら地震のたびに空間への魔力的作用が起こるらしい。
空間干渉されて魔力的変動があると位置情報にリセットがかかり消えてしまう。
ふつうの迷宮はこんなこと起こり得ないので気にしたこともなかった……
崖に囲まれている影響であっさりと日が落ちて夜を迎える。
アヅキがキトリを炎として使いみんなに料理を振る舞った。
材料に関してはアヅキだけを"ファストトラベル"でアノニマルースにとばしたあとに連絡を受けてから"サモンアーリー"で召喚する手順だ。
目の前でアツアツ料理がいただける良い機会。
「うまい、うまいなこれ!」
「……ぽっかぽか」
「アッチ! おいしい!」
「チチチッ」
「ヤキトリが『自分が絶妙な火加減でつくったから当然』だそうだ。俺の腕のおかげに決まっているだろう」
ダンやコロロそれにドラーグもできた料理一式にホクホク。
コロロのはアレルギー避けしてある。
私やアヅキも美味しく食べて……
休みの夜。
「それでは、申し訳ありませんが見張りお願いします。交代をしますので」
「大丈夫、それまでゆっくり休んでて」
アヅキたちが休眠。
私は見張りだ。
私の能力もそうだし"四無効"で眠りのコントロールが出来るようになったから今も楽。
まあ火を焚いて絶やさなければたいていの魔物はこないけれどね。
「――ってパパと、こうして組んでる」
「ほう。それは良いことだ。主とドラーグの温情に感謝するのだぞ」
しばらくすればテントの中から団らんの声が聴こえてくる。
明日の準備しつつ交流を深めるのはよくあることだ。
「――で。へぇ、みんな昔に色々あったんですねえ」
「お前はどうだ? ダン。ニンゲンの過去というのにも興味は少しだけある」
「おう、俺の話か! いいぜ!」
ダンか……
確かゴウと幼馴染で一時期はゴウと別々に冒険していたんだっけか。
話のはじまりはやはりそういう知っている話から。
アッサリ気味だったが村でゴウと育ちゴウと共に冒険者になった旨を話していた。
ここからだな。
「ほう、ではゴウと今まで組んで来たと?」
「いや、実はダメだったんだ。俺とゴウは冒険者としてやりたいことが真逆でな……
俺は退屈な田舎からやっと出れてどんどん知らないことと見たこと無い土地、そして強敵をバンバン打ち倒してそんで、みんなから認められるような栄光を得て、勇者みてえに尊敬されたりして、伝説を残してえ! ってな。だがゴウは堅実に辺境の問題を解決することを優先した。次第にあんまりあわなくなったが……変化が起きてな。
ゴウがおえらいさんの指示で市民に紛れて潜入しカエリラスを追うことになって、逆に俺はゴウのぶん辺境を助けに行ったんだ。最初はあんまり好きじゃなかったが、ゴウに頼まれちゃあな。
だが俺がそこで見た景色は想像と違った。
立場が守ってもらう側から、守る側になったからな」
「なるほど、立場が違うと見れるものはだいぶ違うからな……」
「ああ! まるで違ったぜ! 俺はそこで英傑のように扱われた。単なる雑魚を追い払っただけなのにな。けれどもあいつらにとってのすべてを守れたのは俺で、あいつらの世界はこうして救われた……なんだ、俺が憧れた姿はこんなところにあったんだなって、まあ思っちまったわけよ!」
「……それは、コロロのばあい、パパ」
「僕は……ローズ様だ!」
「それからは、ゴウと一緒に辺境の依頼をこなすようになって……ゴウも俺と同じような迷宮依頼をやってくれるようになったな。どうやらあっちも何か見つけたらしくてな! まあ、例えいきたくなくても俺の付き合い分は付き合わせるがな! ガハハハ!」
無理やり肩を組まれるゴウがまんざらでもなさそうな顔をするのが目に浮かぶ。
ダンとゴウは雰囲気もファイトスタイルも真逆でいかにもあわなさそうだしそこまで多くの言葉は交わさない。
けれど互いに背中を預けられるような仲なのは見ていてよくわかる。
ああいう関係も良いよなあ。
なんだかしみじみしてきた。
「良いペアなんですね!」
「私と主ほどではないがな……」
「チチビィッ」
「おまえ! 誰が不釣り合いだっ! ……ヤキトリめ。ふう、みな、そろそろ準備は終わったか? 灯を落とし主のために休むぞ」
「うっし! 明日に備えるか!」
「おやすみなさーい……」
夜はふけていく。




