八百三十六生目 落下
空飛ぶネズミチュウチューとすれ違っている。
本当に鼻風船出してそれを尾先につけて飛んでいる……
背中にある小さな翼が推進力かな。
速くはないが不自由はしなさそう。
ドラーグの大きさなんかにあっけにとられつつもむしろサイズ差がありすぎて麻痺したのか平然と集団が通っていく。
「ぼ、僕のことこわくないの……?」
「そりゃドラゴンさん、ドラゴンさんたちは弱いぼくらは見向きもしないでちゅ」
「強い相手をみんなやっつけてくれる!」
「うえの子も弱い子だから気にしないんでしょ」
「……むう」
何かコロロが言い返そうとしたがやめたようだ。
まあ引っかかる言い方だろうからねえ。
「あ、いや、この子は僕よりも強いよ、本当に」
「パパ……」
「あはは、それもそうかもねえ」
「変わった優しいドラゴンさんでちゅ」
ネズミたちとはそのまま通り過ぎていく。
ふぅ……
「なんともなかったな、じゃあ――」
「……ん? あいつらは何を……?」
ネズミたちがどんどんと別の場所からも合流していく。
崖の切れ目や巣穴の中から出て飛び集まり……
どんどんと数が増えて行き。
さきほど通ってきた大きなトゲだらけの崖まで行き……
「みんなで遠足ですかね?」
「いや、そんな穏やかな気配ではないな……」
みんながひとかたまりになるまでなんとなく眺めていた。
アヅキの言う通り何か目が離せない異様な気配がある。
それでもとりあえず先を急ごうとして……
全員の風船が一斉に割れ落ちた。
「「えっ!?」」「チチッ?」
あっけにとられている間に下の白みの向こうへ。
私の"見透す眼"も届かない先。
まさに吸い込まれるように消えていった。
さらにこのタイミングで地震!
私達は浮いているから平気だけれど……
「おい、見ろ!」
「ええっ!?」
「崖が……動いている……!」
単なる地震かと思ったらなんなんだあれは……
崖がどんどんと動きせばまっている。
穴開きの崖は止まっていてトゲ付きは動く。
「みんな、こっちも!」
「うおっ!?」
「……パパ、ゴー!」
「うん!」
近くの崖が動いていたのでまったく動いていない穴開きの方へ避難。
トゲ崖は割れたりくっついたりをし道や角度も変えてつなぎ直されていく。
さきほどのネズミたちがいたところは丹念にひっつきあいこすれあう。
まるでトゲで噛み砕いているかのように。
何をといえば……ネズミをだろう。
やがて崖が開いて道がかわり地震と共に変動がおさまった。
「ありゃ……落下で助かっても死んだな」
「下がどうなっているかはわからないですけれど……ううっ、あまり想像したくない」
「うん……」
「チチッ?」
「主たちが無事で何よりです」
「パパ……傷なし……」
前世で集団で飛び降りをする獣の話を思い出してしまった。
来世はドラゴンにでも……
ううーんいきなりどうしてこんなことに。
特に崖のすりつぶし。
牙がちょいちょい生えているみたいだなって思ったけれどまさかあんな直接……
……うん? 崖が動いた……? まさか!
光魔法"ディテクション"唱え直し最大広域瞬間計測。
"見透す眼"と"千里眼"フル活用。
わっ!
「うわあ!?」
「主、どうしました!?」
「道が……完全に変わっている!」
さっきくっついたり離れたりまがったりしているなとは思っていた。
けれど完全に前の道が跡形もなくなるだなんて……
せ……せっかくの地図が!
「なるほど……だから地図が作られなかったのかぁ……」
「地形が変わるとは……厄介ですね」
「チチッ」
「しゃーねぇ、道周り覚えるのは諦めて、とにかく目的の方向へ行き、峡国跡を見つけるぞ!」
ダンの方針にみんな了承。
不気味な迷宮に恐怖と後味の悪さを感じながらこの場を飛び去る。
下に落ちるともしやあのすりつぶしが行われる……?
それなのにネズミたちはなぜ落ちたのか。
やはり集団自殺……?
疑問はつきないがとにかく今はやることをやらないと。
その後も散々崖の位置が変わることでなかなか思うようには進めなかった。
時間もたったし帰りたいのだが……
「持ってて良かったキャンプ用品……」
私達は穴がある崖近くの大きなトゲ上でキャンプしていた。
実は帰れない理由がある。
帰ったらここに戻ってこられる保証がない。
「そうか、目立った見た目でも場所が変わるところだと、また来れないのか……アテが外れたが、そういうこともあるさ」
「主には食事の面は一切不自由させませんとも。私の腕とヤキトリの力におまかせください!」
「うん、みんなありがとう!」
なぐさめられてしまった。
気を取り直さないと。




