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七十九生目 宣告

 アヅキに生きてくださいと言われたあとに今度はイタ吉とたぬ吉のもとに来た。

 ふたりは実力が近い。

 だから昔に『ふたりで組手すれば良いんじゃない?』と言っておいた。


 まあなぜかイタ吉はその発想は無かったという顔をされるし。

 たぬ吉はそんなことするなんて嫌過ぎる!

 という顔をしていたが……


 見に来たら意外と真面目にやっていた。


「とうっ」

「うわっ!?」

「"三角蹴り"だ!」


 イタ吉が上空に飛び上がったあと巨大化させた爪で飛びかかる。

 あれ三角蹴りって名前だったんだ。

 遠くから見ていて気づいたが、軌道がおかしい。


 垂直に跳び上がった後にたぬ吉に向かって飛びかかっている。

 なるほどこういう動きは……武技の1つかな。

 たぬ吉もかわしきれずに当たってしまった。

 イタ吉のドヤ顔が決まる。


「……と思っていました」

「えっ!?」

「"草魔法"です!」


 しかしそこで最大限油断すると踏んでたぬ吉は罠をしかけていた。

 勢い良く突っ込んだのだ当然まっすぐ動く。

 ちょうど足元で草が結ばれていた。


 1歩を踏み出せず景気よく転んだ。

 そこでさらに近くの草がツタとなってイタ吉を包んでいく。

 イタ吉が何かする前に脱出不可能なくらい覆ってしまった。


「お疲れ様ー」


 もちろん言語を変えながら同じように言う。

 アヅキにも指示をだして近くに寄ってもらった。

 楽だー。


「あ、来ておられたのですね」

「ちくしょー! 勝てなくなってきた!

 なんでなんだ!」


 話を聞くと最初の頃の組手はイタ吉が基本的に圧勝していたらしい。

 だがいつの間にやら粘られるようになり今では負けてばかりだそうだ。

 そりゃあ、そりゃあね。


「おんなじ動きばかり繰り返すからじゃない?」

「はっ!? そ、そうかー!!

 最大威力の攻撃を叩き込めば、勝てるわけじゃないのか!?」

「え、そりゃそうでしょ、今更?」


 うん?

 なんかおかしいな。

 というわけで話を聞いてみると。


「死角からズドン! で狩ってきたからな!」

「あー……そりゃそうかあ」


 私はよくよく混同するがそもそも狩ることと戦うことはイコールではない。

 狩りとは最大限こちらの浪費を抑えて戦いを避けて仕留める事。

 戦いとは何らかの理由で殴り合うことだ。


「ボクも狩れる相手だけ狩れば良いんじゃあないかなって思ってはいるんですが……」

「でもたぬ吉は何度も組手することで何となく戦いがなんとか分かったんじゃない?」

「はい。戦いって狩られる側が学んで狩る側すらも抑えてしまうんですね。

 今までは考えた事もありませんでした。

 襲われたら隠れるか逃げるだったので」


 草の拘束を解くとイタ吉は大きく伸びをする。

 早速次をやるつもりらしいのでどちらも回復しておいた。


「ようし、オレも『マナんで』をするぞ!」

「ボクもちょっと強くなることに興味がわいてきました!

 だから、負けませんよ!」


 そういって再び組手に入る。

 そうかあ、忘れがちだけれどそもそも野生生物は積極的に鍛えたりしないよね。

 熊がペンチプレスで鍛えたのではなく普通に育つだけで強くなるように。


 父母やジャックペアが特別強いだけでホエハリの群れも強さをそこまで重視していない。

 と言うか自然の生き物なんて狩りさえできれば後は体力温存のほうが大事なのだ。

 確実に狩れる方法を選んで確実に狩る。

 後は体力の無駄遣い。


 行動力という概念が特にそれを促進させている。

 ここらへん微妙な認識差があるなぁ。

 何せ私小さい頃から鍛えていたし……





「来たわね」


 今度はレヴァナント(ユウレン)の元へとやってきた。

 昨日の続きだ。

 ハックは送り届けてしまったので珍しくハックと一緒じゃない。


 その代わり良くわからない呪術道具とハックの土器に埋もれながら書類とにらめっこしている。

 雰囲気が普段のゆるゆると違って死霊使い(プロ)だ。


「来たけれど、昨日よりもまだ何かあるの?」

「あるわね、基本的にきっちりデータ取るにはやっぱり一晩必要だもの」


 さらに私が寝落ちした少しの時間の間に専門外ながら追加診察したのだとか。

 お仕事はやいなー。


「まあ、結論から言っちゃう。

 あなたこのままだと死ぬよ?」

「え」


 え?

 過去形だけじゃなく未来も?

 ほ、ほんやくほんやく。


「今彼女はなんと? ……はい、え?

 あ、え?

 か、ああああ!! ああああぁろろ……」


 ぎゃあ!?

 私を抱えたまま後ろに倒れおった!!

 アヅキ!? ダメだ気絶してやがる!


 さっきの『生きてください』というくだりから『死ぬよ』のコンボが決まってしまった。

 シャレにならない死の宣告。


「あら? そのアヅキ? だっけ、大丈夫なのかしら」

「私含めてあまり大丈夫じゃないですね」

「仕方ないわね……」


 アヅキが倒れてしまったので適切な処置を施して木陰に置く。

 私はユウレンにひょいと抱えられた後に目の前に置かれた。

 ぬいぐるみほど私は軽くないはずなんだけれど……


「ま、死ぬことは良いのよどうでも」

「先生?」


 よくないよ! 私死にたかないよ!


「だって私死霊使い(しごたんとう)だもの」

「たちが悪い」


 さらに彼女の解説が続いていく。


「まあちゃんとした理由もあって、死んだ後に魂も何もかもグチャグチャにされ、一片も残さないように滅却されそうなのが問題ね」

「ああ、昨日の私を狙ってきた……」


 現実感は無いが魂の世界で私を狙い殺そうとしてきた何者か。

 こっちの世界では人にすらあまり関わっていないし前世絡みだろうと結論づけられているけれど……


「そう、だから無事に冥界に行きたいのならまだ死ぬのは止めておきなさい」


 次元が凄いことになっている話だ……

 死後のアフターケア話を産まれて数ヶ月でされるとは思わなかった。


「それで……なんで私がこのままだと死ぬと?」


 話を戻す。

 私にとってはまずは生きている事が大事だ。


「そうね……魂の状態が危ないのは前言ったとおりで、他に心身の命を構成しているのは精神と肉体。

 この3つが三角形として成り立っているのが生命体よ。

 そしてあなたはこの3つがダメダメね……」


 え、そんな自覚は一切ないのだけれど。

 まさかの全滅!

 ユウレンは私が話についてこれているかを確認して続ける。


「まず肉体、一体どういう酷使したらこうなるのかしら?

 幼い頃から何回も何回も死にかけてそのうえずっと鍛え続け無理やりヒーリングでもかけつづけたのかしら。」

「うっ」

「全身という布が破ける度にあて布を雑に縫いつけ続けて、もはやどこがあて布じゃないか分からないほどね」


 めちゃくちゃ心当たりがある……

 だ、ダメだったのか。


「ヒーリングじゃあダメなんですか?」

「ダメってことは無いけれど緊急用ね。

 きちんとした医師や聖系統の魔法がほしいかしら。

 少なくとも小さい子には反動が怖いから良く見せないとね」


 確かにスポーツ障害みたいならよく起こっていたが……

 もしかして私の身体、分解しかかっている?


「度重なって姿と力が変わる術も使っているみたいで負担が相当ね。

 そして精神も、詳しくは見られないからなんとも言えないのだけれど、グチャグチャね。

 多重人格でも起こっているのかしら」

「ぐうっ」


 し、進化の事かー!

 そうだ、オジサンももっと大きくならないと使えないんじゃとか言ってたなぁ。

 あれはオジサンが開発したのはおとなになって安定してからだったからというのもあるけど。

 おそらく精神面で多面性を得られるのはもっとおとなになって安定してからというのもあるのだろう。


 こどもが使った際のサンプルデータを偶然にも私がとってきてしまった。


 


「統合的に見て専門外の私でもわかるわね。

 こりゃあもうそろそろ死ぬやつのデータだって」


 いやいやいや。

 えーっ。

 今のために将来削っていたって事?


「先生どうにかならないんですか!?」


 ひええやだよう死にたかないよう。

 というかそうならないように生き残るためにそうせざるを得なかったんだよ!

 未来の寿命バリバリと使うか今殺されるかの2択だったんだよ!

 無自覚だったけど!


「うーん……まずは戦闘、鍛錬、姿を変える術系は使用禁止ね」

「えっ」

「え、じゃない。当然よ」


 事実上安静に過ごさなければならない宣言。

 慌ただしく何度も死にかけて結果的にこうなるとは……


「それに出来る限り早く医者に見せることね。

 ホエハリを観る医師なんて聞いたこともないけれど。

 それで少なくとも1月程度は持つんじゃないかしら」

「ううっ」


 ガーンと頭の中で響き渡る。

 現実感すらないが言葉がずしりと内臓に重くのしかかった。

 1月しか生きられない……?

 ど、どうしよう、どうしよう!?

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[一言] 「そうね……魂の状態が危ないのは前言ったとおりで、他に心身の命を構成しているのは精神と肉体。この3つが三角形として成り立っているのが生命体よ」 魂と精神って、別物なの?
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