八百三十二生目 崖道
インカがなんでここ修行者の屋敷に来れたのかはなんとなくわかってきたが……
肝心のインカは何をやっているのだろう。
私とリウさんは稽古状の方に移動をする。
「インカの修行風景、見せてもらえるんですか?」
「え! ええ、もちろんですとも!」
なんだろう今の謎の間。
焦りのにおいがする。
居住空間から稽古場の方へ。
本当に1つに絞られていないらしく剣技やら空手やら拳法やら銃術やらさまざまな武のためのものが設置されている。
そのさらに奥に案内される。
なんだか中の部屋がさわがしい。
「で、ではどうぞ中へ」
「あ、はい」
横戸をそっと開く。
中を覗いてみると……
そこには喧騒の正体があった。
「うおおおおの!? 死ぬうううう!?」
「大丈夫だっ! それで死んだやつはいないっ!」
「これ別の魔物に試したことないよね!?」
「嘘は言っていないナー」
床に頑強そうな敷物をひいてありその上をインカが必死に走っている。
豪快そうなニンゲンがそこに大量の銃弾をばらまき細身のニンゲンがたくさんの実体ある分身でインカに殴りかかっている。
銃弾は……豆か何かなのか実弾ではなさそうだがめちゃくちゃ速度出ているなあ。
横戸を閉じた。
「じゃあ行きましょうか!」
「え、良いんですか、色々と」
「なんか、もうなんか、置いといた方がよさそうなので! 元気そうでなによりでした!」
「そ……そうですか」
がんばれインカ兄さん遠くから応援しているよ。
というわけで迷宮入口階段まで来た。
完全に部屋の中。
壁にそって作られた部屋はわざわざこの迷宮入口のために用意されているように見える。
祀られているような封印されているような。
どことなく不思議な部屋だ。
札とかもたくさんあるし……
「この先が、崖の迷宮です」
「わかりました……利用させてもらいます」
「また何かありましたらお呼びください。インカくんをしごき……もとい指導していない者があたりますから」
「あ、ありがとうございます……」
苦笑いするしか無い。
「そうだ。けして崖の下には向かわないでくださいね。そこから帰ったものはいませんから」
「あ、はい……わかりました」
彼と別れ私は私で階段をくだっていった……
「うわっ、本当にいきなりだなあ」
階段を降りて外に出ればそこは絶壁。
はるか下もはるか上も果たしてどこまで続くかわからない。
崖がトゲだらけでそのうちの大きなものが今の足元。
正面遠くも崖だ。
一体どこまで続くのだろう……
ちなみに地面の方は白んでよく見えない。
崖にそって多数の草花が生えているのがこの迷宮が生きている証。
はるか昔栄えた峡国の跡地に今私は立っているのだ。
高所特有の風が吹き抜ける……
空魔法"サモンアーリー"を使い事前に決めていたメンバーを呼ぶ。
「主よ、お呼びに馳せ参じました」
カラス山伏のアヅキ。
最近トランスしたことで天性の強さに磨きがかかった。
錫杖らしきものは今日も持っている。
「チチッ」
「ちゃんとお前もあいさつするのだぞヤキトリ」
ヤキトリことキトリも一緒にきている。
黒い鳥の概念みたいなものでゴースト魔物だ。
アヅキが従魔にしている。
「う、うわっ! 狭い!」
「……飛んで」
「飛ぶ!」
ドラーグの100%体とコロロもセットで来た。
相変わらずコロロは靴を履いていないがあまり好みではないのだろうか。
「なんだ? 今日は賑やかじゃねぇーか!」
豪快に笑い飛ばすダン。
彼は飛べはしないが意外なことができる。
「ダン、用意は大丈夫?」
「もちろんだとも! ほらよ!」
ダンがジャンプすると空中に立つ。
さらに翻って逆立ちしても空中にいる。
靴や手袋に光が走っているのが見える。
これこそダンの身につけている物の不思議な力。
空中でも地面かのようにふるまえるのだ。
これで崖の迷宮であるここもバッチリ。
「ふむ、その力、主のために役立てよ」
「パパ、大きい時も好き」
「ありがとう! それにしても……どこまで続いてるんだろう……この崖……」
「行けばわかる! だろ?」
「そうだね……地図も無いし」
リウさんが言うには一度は地図を用意したらしい。
ただ次に来た時に投げ捨ててしまったとか。
理由は行けばわかると聞いたが……
「……ん?」
ガタガタと地面が揺れだす。
浮いているドラーグとコロロから見ても揺れは伝わるだろう。
そこまで危険を感じるほどではなくやがて収まる。
「……揺れましたねー。大丈夫でしたか?」
「うん。私は大丈夫」
「みな、なんともなさそうだな。では主、行きましょう」
よし。私も"進化"しておこう。




