八百三十一生目 師匠
崖の迷宮に白砂があるのがわかった。
ただこれまでの経緯的にこれはニンゲンではなく魔物が崇拝していた神がいる国が大昔あったのかもしれない。
そしてこの話の大事なところは美しき白の金砂というものが出ることだ。
色は白く黄金のように輝き国の民が死ぬと神が引き受けてその砂へと変わるとされる。
その砂は迷宮とひとつとなりまた命がめぐる……という話が盛り込まれていた。
複数の文献で出てくる白砂の存在は無視できない。
この場所というのがまた厄介。
実は全然場所がわからなかった。
見つかったのは……偶然インカが見つけた。
修行をしているのは知っていたがその修行でたまに行く場所の光景が伝わっていた景色と一致したのだ。
そこは修行僧たちにより厳重に管理された奥のためにある。
私はつかわせてもらうために直接彼らに会いにいくことにした……
場所は帝国領内の霧と白い岩肌の山脈が入り乱れる仙人でも住んでいそうな土地。
まともに道がなくたどり着くのにもひと苦労する。
こういう時の『エアハリー』への"進化"。
門の前まで飛んでゆきくるくると回転しつつ着地。
……アインスに手伝ってもらってがんばったんだよ!
うう。まだ足元がふわふわしている気がする。"進化"解除。
そこは立派な門構えながら老朽化を見せている赤い門。
大きい門に取り付けられている小さい扉の前まで行くとごく自然に中から扉が開けられた。
見た目はご老人だが立派なツノと細い瞳の奥に感じさせる強い気配。
「どうもどうも、遠いところからこんなところまで。インカ君から貴女のことはうかがっています、ローズさん」
「うちの兄がお世話になっています。どうも今日はよろしくおねがいします」
どんなうさんくさい相手が出てるかと思ったがわりとまともである。
"観察"したところちゃんとニンゲンの1種らしい。
ドラゴンが化けていたりはしていない……と思う。
中へと通してもらいそのまま扉をくぐる。
中は広めの庭に生活空間っぽい住居がまず1つ。
そして修練具があちこちに見える建物がもう1つ見えた。
そのまま客間まで通された。
実にほがらかな空間でゆっくりと時間がすぎている。
この場所にほかの師匠はいないのかな。
ハックの話すにはここには5人の師がいる。
うちひとりが彼だろう。
互いに畳の上へと向かい合って座る。
「和室とは……珍しいですね」
「ええ、私の趣味でしてね。帝国ではなかなか珍しいかと。私の名前はリウ、どうぞよろしくお願いします」
「いいご趣味です! よろしくおねがいします」
カコーン。どこからか添水のししおどしが響く。
「今日は崖の迷宮へ行く許可をもらいに来たとのことですが、別にアレは我々がどうこうできるものではないゆえ、ぜひご自由にどうぞ。あなたを見ただけで、悪用する気はないのはわかりますからな」
「それは……ありがとうございます」
なんだかあっさりOKもらえてしまった。
そういえばインカも道すがらいきなり才能を認めてもらって連れてこられたんだっけか。
やはりあの細目の向こうから来る視線は鋭い。
「まあ、お茶でもどうぞ」
「はい、ありがとうございます。それで……ここに暮らす人達はそもそもなぜこのような危険な立地に?」
「良い質問ですね。私達は武を伝え、武を極めようとするものたちで、まあ悪く言ってしまえばなんやかんや流れ着いたものたちが集って人の弟子を募って育てている、怪しい場所ですよ」
笑いながら話しているが怪しんでいたのがバレているな……
なんとなく気まずくなって同じように笑う。
「それは……まあまあ謙遜なさらず」
「まあ、そのような経緯なため、何時頃建てられた建物なのか、そもそもなんで迷宮の近くにこれが建てられ守られているかのようになっているのか、誰もわからないのです。ただ昔から武と縁のある場所なのは間違いはありませんね。全焼した跡があり、記録が全部失われているのが惜しいほどです」
あらら全部燃えてまた建築されてとやっていたのか。
少しは話が聞けるかなと思っていただけに残念。
「それは、長い歴史を持つんですね、ここは」
「ええ。だからなのか各国の違う雰囲気が入り混じった部分もあったりしますが、気にしないでください」
「わかりました。ところでなぜ兄……インカを弟子に?」
「先程、人の弟子をよくとっていた、とは言いましたが……まあ、ふと、誰かが『じゃあ今度は魔物でもとろうか』と言いましてな。けどまあ、たいていの魔物は話をしようとしても、念話は聞かないすぐに攻めてくるか逃げるで、まあ困っていたんですよ」
ん?
あれ……インカの才能があるって話はもしや。
「諦めかけたそのとき、普通に話をしてくれる、しかも帝国語すら不思議な機材で通じるものが現れて、じゃあもう
やるしか無い! と」
「あ、あの……インカの才能って……」
「もちろん、人の話をちゃんと聞く才能です!」
満開の笑顔で言い切られてしまった。