八百三十生目 三角
「どいつから食ってやろうかなァ〜〜」
「ぐぐっ、た、食べられてたまるか!」
水辺で生徒たちは『重鋏』の青蟹に出会った。
言葉が通じれば食べられないかと言えばそんなわけがない。
カチカチと鳴らすハサミが徐々に早くなっていく。
「やあっ!」
「おっと」
リーダーが踏み込み拳に光を込めた強烈な一撃!
正確にカニの顎を叩き抜く!
……が。
「はっは〜〜! お前が先にくわれに来たか!」
「危なあーい!」
拳を痛めるだけでうんともすんとも効かなかったパンチを小さいほうの左鋏で切り払われそうになったところに鉄兜くんの飛び込み!
リーダーの前に飛び出てかばい大きな盾のような光が出る。
良い音が響いて防いだ!
「す、すまない!」
「良かった! 間に合った」
「どうかな〜〜?」
大きい方のハサミが振られる!
今度は大盾が破壊され鉄兜くんごと吹き飛ばされた!
「うわあっ!?」
「つ、強い! リーダー、こういうときはどうしよう!?」
「うぐー……っ、緊急撤退!」
慌ててきた三角帽子くんが受け止めたせいで一緒に転がる。
パニックになる現場にリーダーはひとつの意思を決めた。
荷物から取り出したのは魔法の玉。
魔法作用が発動し閃光と共に不思議な煙が当たりに広がる!
「うわっ!? なんだ〜〜くさっ、うごがご〜〜!!」
カニが泡吹いて悶えている間にみんなは逃走したようだ。
リーダーが走りながらさらにたばねた糸のようなものを燃やす。
端からゆっくりと燃えてゆき……
「みんな、身を寄せて! そろそろ転移する!」
「「うん!」」
「帰還の糸よ、我らを憩いの地へ返せ!」
詠唱を放つと糸が塵となって散ったあと……
強く輝く。
そうしてチリと共に5匹の姿が光に包まれて消え去った!
ふむふむ……きっちり逃走できた。
良い判断だ。あそこで戦果をよくばったりしないのは良い。
本当はもっと早く対処できれば良かったがこれも彼らの冒険だ。
さてアノニマルースまで飛んだはずだし追いかけよう。
その後も彼らは準備して身を休め万全の状態で昼に突入。
昼の洞窟は夜に比べればまともでカニも寝ぼけている背後をこっそり通ってやり過ごし。
無事薬草を手に入れ周辺調査もきっちり行えた。
「し、死ぬ所だったー!」
「ワクワクドキドキがもう悪い意味も含めてとまりませんでした……」
「お疲れ様ー」
結局3チームとも依頼達成。
薬草も規定の長さ以上に切ってない。
再度生えてこないと困るからね。
ただどのチームも夕方までかかった。
夜に行って朝に終わらせる意気込みが多いチームたちだったが無事24時間フルで使うこととなっている。
これも含めて授業だ。
「どうでしたかー? これが初めての依頼達成になりマース! きっと大変な事がたくさんあったと思いマース!」
「本当に……」「死ぬかと思って……」「まだ痛い……」
「でも! それも含めて冒険デース! みなさんが行うことで多くの情報がしれ、ものが流通し喜ぶ誰かも多いデース! それに……自分たちだけのお宝、きっとイッパイデース!」
「思い出が財宝って月並みの言葉になってしまうけれど、冒険した地でのやりとりは忘れられないことになります。良くも悪くもね。だからこそ、この職は楽しいんです。今を最高の時として楽しむ職のひとつなので、ぜひ本職についてみてくださいね!」
「「はーい!」」
諸々細かい話は各々の班にしたもののみんな良い活躍だった。
鉄兜くんのガード力や三角帽子くんの魔法もすごかったなあ……
三角帽子くんこの日までよくきょうだいに追いつきたいって言ってたから少しでも手助けになったなら良いけれど。
「ところでみんな、家に帰ったら何がしたい?」
「寝たい……」「眠りたい……」「1日寝たい……」
「だよね! よくわかる!」
「せんせーもそうなんですか?」
「冒険は心が躍るから、ゆっくり休めることは大事だもの」
「私は踊り足りないから踊り明かすデース!! レッツダンシング!!」
鳥先生はダンス・ダンス。
元気ですごいバイタリティだなあ。
これでも冒険者じゃなくて本職が教師兼ダンサーなのでなんともすごい……
こんばんは私です。
ついに3つめの素材があるらしい迷宮が特定できた。
崖の白砂は崖の迷宮と呼ばれる場所にあるらしい記録が残っていた。
勇者くんが特権で帝国や皇国の過去データベースを漁ったらしい。
たくさんの本の中に少なく記されたその存在。
はるか昔の記録ではそこにひとつの国があったそうだ。
道なき峡国と呼ばれその存在はずっと昔は随分と有名だったらしい。
美しき神が輝きし舞とともに現れ国を豊かにしたというのも今は昔。
今はそこに国など無くそもそもニンゲンが迷宮に住んでいたのか怪しく。




