八百二十九生目 重鋏
夜の洞窟を生徒たちが進んでいく。
とにかく暗いから5匹ともおっかなびっくり。
それに夜の洞窟はただただ暗いだけじゃない……
「ふう……さすがに暗くて疲れるな。光を使おう」
リーダーが荷物から魔法松明を取り出す。
魔力反応を起こせば青い炎が浮かぶ。
かなり広い範囲に光が届くようになった。
だがそれは夜の住人たちを暴くことになるわけで。
「うわっ!?」
「め、目が光る!」
「まずい!」
洞窟の天井やら岩陰やら曲がり角から覗く目線。
夜行性の魔物たちが一斉に飛びかかる!
「狩ってやる!」「火とかうるさいわ!」「獲物だ!」
「うわあああ!?」
「落ち着け! 冷静ならば、負けない!」
「じゃあ、まずは僕が! やあぁ!」
鉄兜くんが逃げそうになるのをリーダーくんが抑える。
三角帽子くんが首飾りを輝かせ風魔法を放つ。
あれは一種の杖なのだ。
首飾りにより強力にブーストされた風魔法が押し込むような突風となり風の壁となって相手を阻む!
魔物たちが勢いに阻まれ軽いコウモリなんかは吹き飛ばされる。
「ありがとう、やっぱキミ強いよね!」
「そ、そうかな? これでもきょうだいの中でいちばん弱くて……」
「話は後! 立て直して倒すよ!」
鳥スカーフくんがおだて鉄爪くんが突風を追い風に突っ込む。
うんうん良い動きだ。
各々できることをやっている。
そこからの戦いはなんどかヒヤッとはしたが実に落ち着いて戦い続けた。
ビビり鉄兜くんは落ち着いていれば正面から攻撃を受け止めるほどだし……
リーダーくんの指示もそうだが単に踏み込んで殴る力もしっかりある。
鉄爪くんはその武器通り駆け回って通り過ぎた相手みんな引き裂いて。
スカーフ鳥くんは武技らしい羽根をダガー投げのようにビシバシ飛ばしアテている。
かなり苦労はしているが予定通り洞窟を進んでいるようだ。
事前調査通りならそろそろハプニング地点に到達だ……
「はぁ、はぁ、疲れた……!」
「こ、こんなに大変だとはぁ……」
「やつら、はぁ、手加減なしだもんな……」
「昔はどちらかといえば襲う側だったから、襲われるとキツいよ〜」
「休もう、とにかく休もう……」
鉄兜くんがへたれこみ三角帽子くんや鉄爪くんが後に続く。
鳥スカーフくんにリーダーくんが隠れられる場所へと移動して全員で腰を落ち着ける。
簡易キャンプをはって安全化だ。
そこらへんはもうよく教えたから手慣れたもので。
手慣れた……
うーん……
「うう、暗いし疲れたし全然できない……」
鉄兜くんのぼやきが洞窟の奥へと消えていく。
みんな結構疲弊していた。
この先がハプニングゾーンなのに大丈夫かなこりゃ。
「実習の時と感覚がまるで違う……」
「火は怖くない、火は怖くない……」
「あ、火が苦手なら僕が点火しようか?」
「だ、大丈夫大丈夫!」
鳥スカーフくんが苦戦しリーダーくんが純粋な炎にびびったり……
その時鉄爪くんの耳が何かの気配を捉える。
無言で立ち上がりそろりと向こう側の偵察。
「……ん? 何かいるのか?」
「いや、今なんとなく感じただけで……気のせいか……? こっち、川が流れているな」
鉄爪くんが向こう側に流れていた清流を見つける。
静かな量だったからさっきまでガチャガチャしていたせいで気づかなかったらしい。
「えっ!? きれいな水ならひと息つけるんじゃ!」
「あっ、ちょっとまって! 水辺は危険――」
三角帽子くんが止めるまもなく鳥スカーフくんやリーダーくんが水辺の方へと走る。
先頭は鉄爪くんだ。
清流に腕を浸そうとして……
「――あっ! あぶない!」
「ん? うぐわあっ!?」「ウッ!?」
「わああ!?」
鉄兜くんが遠くからソレを見つけ叫ぶ。
手のかわりにある大きなハサミがまとめて3匹を吹き飛ばす。
完全な不意打ちは決まらず吹き飛び転がされても3匹ともに受け身をとってすぐに立て直した。
「な、なんだ!?」
「ちょ〜〜ど良いところに、今日のメシがやっ〜〜てきたぜえ!!」
青白い甲羅を持つ大蟹。
右腕の爪ハサミだけが異様に巨大化しており今の1撃で3匹の生命力は半分を切る。
休憩できてなかったとは言えかなりの痛手だ。
彼は『重鋏』の2つ名を持つ魔物。
私達が実はチェックして冒険者ギルドによりそう2つ名がついていた。
今回の依頼はあえて彼の情報を伏せていた。
奥にある薬草を採取しあたりの情報を最新に更新するのが今回の依頼。
つまり彼らはこのカニの情報も持ち帰ることが期待されているわけだ。
「待って! 食べないで!」
「おほほ〜〜しゃべるとは活きが良い! 首をな、はねて血を飲むのが良〜〜いんだよなぁ!」
「相手はこっちをえさだとしか思っていない! みんな戦えるか!?」
「あ、あいつ強いよ……! うぐっ」
受信機リングが言葉を拾って勝手に翻訳をしてくれる。
ピンチなのにはかわりがない。




