八百二十三生目 墓前
ドラーグはパパになった。
まんざらでもなさそうなのでよしとする。
ドラーグたちとアノニマルースへと帰宅。
それはそれとしてコロロは安心そうにドラーグの背の上。
定位置になったらしい。
病院に帰り軽く健康診断。
異常がないどころか快調。
詳しくは調べきれていないがもしかしたら退院も近くなるかも。
何よりクスリやドラーグを求めないで自発的に動きまわれることの評価が大きかった。
近い内に本格的な診察をする予定だ。
「……ツノ、パパとおそろい」
「キュートなツノだね! さわらせて!」
「パパなら良いよ」
ドラーグがなでるとコロロが喜んでドラーグによりかかる。
前のほとんど介護といった様子から随分と仲睦まじい様子に。
ただ……
「パパ……コロロね、まだ、ほしいの。ダメって聞いても……その、アレを……だからね……またコロロがヘンになったとき、前みたいに、ギュッとしてね……」
「うんうん、僕に任せて。そのぐらいならお安い御用だからね」
感情の正常化で脳の正常化が行われても染み付いた心と魂の汚染は本人も自覚する以上に続く。
特にフラッシュバックは生涯治らなくてもおかしくない。
それとの戦いに今後もなるだろう。
「あと……その……えっと……?」
「ん? あ、私? 私はローズオーラ、ローズって呼んで」
「ええと……それじゃあロー……なんとかさん……溶かす毒……心当たりない……? コロロ、この身体になって、ほしいのは、それ……」
溶かす毒?
あ……さっき見た時にあった特殊な毒かな。
というわけで。
そこからしばらく調べた結果。
なんとコロロは……
「ん……これおいしい……」
「すごいねー! 変わっているねこの子!」
「完全に想定外……」
コロロを毒沼の迷宮に連れて行って分神ホルヴィロス立ち会いの元あれこれと合うもの合わないもの試した結果。
確かにまだ空気の毒はつらく食べものが辛すぎたりと合わない部分があったものの。
今もエメラルドグリーンの毒沼を清らかな水のように飲んでいた。
本当にニンゲンなのか……? と疑うが確かにニンゲンである。
かなり特殊なトランスをしたのは間違いないが。
自身が毒漬けにされた経緯が溶かす毒を自らの栄養に変えてしまえることになったのか。
一部ではあるが毒食だ。
あとドラーグは今ついてこれていない。
短い時間なら耐えてくれるそうだ。
「ん……コロロ、そろそろ帰る」
「もういいのかい? じゃあ私は書類仕事たまっているからお先!」
「じゃあ私達も帰ろっか」
分神は先に消えた。
空魔法"ファストトラベル"!
すぐに景色が切り替わり病院前へ。
待っていたドラーグに何も言わずに飛びつく。
肩の力が抜けたのを見るにやはりだいぶ安心したらしい。
「おかえり!」
「……ただいま。パパも……毒が出せたら良いのに……」
「それは専門外なんだ……」
「ううん、大丈夫。パパはパパ」
ひとつの峠はやっとこえれて安心だ……
トランスはまだまだ未知の力があるなあ。
こんにちは私です。
今私がいるのは……墓の前。
この墓に刻まれた名前はない。
「なんだ、こんなところにいたのか」
「……そーくん」
蒼竜がフラリと私の背後に現れる。
今はガウハリの姿。
つまり兄インカっぽい姿に帽子とツノつき。
「うん? そのみずぼらしいものは?」
「お墓だよ、神獣ポロニアと呼ばれた、元この迷宮の管理者だよ」
「へえ、神だったとは、会ってみたかったね!」
「ううん。彼は神ではなかった。神の獣と呼ばれているだけで」
その強さは並の神を超えていた。
このアノニマルース総力に加え私が『ネオハリー』となってスレスレで押し切れた相手。
そのお墓だ。
私は神獣ポロニアとの話を語る。
彼は敵だったが……英雄だった。
「――って感じかな」
「へぇ……神でもないのに、神として祀り上げられて死ぬだなんて、随分とご愁傷様だ」
「あんまり良く思っていない?」
話を聞いた蒼竜は思ったほど乗ってこなかった。
それどころか明らかに不快そうだ。
「神でもないものが神を名乗ったり、ましてや周りから押し付けられるのは不相応って奴さ。この小さい世界の神になったところで、何が変わるでもないのに、死期を早めるだけさ」
「そう……かな」
なんだろう。
刺々しく放たれる言葉はどこか空を切り。
その瞳の奥に別の何かを見ている気がした。
「ま、死んだやつの前で言うことでもないか。キミの覚醒を促し踏み台になってくれた彼には感謝しよう!」
「そーくん……」
今テンションを普段のものに戻しキラッて効果音がつきそうなウインク。
だかこれほどにごまかしたとわかりやすいものはなかった。
追求はやぶ蛇だな……
ポロニアは私個人で簡易的な葬儀を済まし誰も知らない墓を作った。
チリひとつ残らない逝き方をして私の中に整理しきれないものが残っていたからだ。
葬儀も墓も生きている者のために行うとたぬ吉に言われたことを思い出して墓参り。
ただ今は。
静かな風が流れる。
彼のいつも眠っていたこの場所に。




