八百二十一生目 経験
こんばんは私です。
私は今……
暇である!!
ふだんこの時間は書類に悩殺されるのにすることがなくなった。
あのホルヴィロスが気まぐれでやりだしたとしか思えない秘書と事務。
アレが異常なほどに機能しているのだ。
おかげで私はスケジュールが正式に組まれきっちりと1日の中で休みが取られている。
心配だからなんか作業しようとしたらホルヴィロスに家を蹴り出され散歩中である。
おかしい。あそこは私の家なのに。
ただ行先は決めてある。
この時間ならばドラーグとあの子が例のことをやっているはずだ。
というわけで駆けてアノニマルースの外へ。
そのまま風を感じつつ走り抜け……
荒野の迷宮奥地へと向かう。
いたいた。
ドラーグの後ろ姿とその上に乗る女の子。
ココ最近いつもの光景だ。
あの子はドラーグが拾ってきたときには死にかけのアヘン漬けなうえ名前すら話そうとしなかった。
後遺症によりまともな活動が出来なかったが……
今ドラーグは無理矢理にでも彼女を連れ出している。
やることがあるからだ。
それは……
「やあっ!!」
「……勝った……」
ドラーグ10%の姿が魔物の群れをなぎ倒す。
ほうほうに散って逃げたようだ。
何をしていたかというと……
「どう? そろそろトランスできそうかな?」
「……もう、すこし……?」
ドラーグの上に乗って一緒に戦闘をする。
そしてトランスを目指す。
アヘンで衰退した脳を覆せる数少ない可能性だ。
「ドラーグたち! 調子はどう!?」
「あ、ローズ様! 順調みたいです!」
「…………」
相変わらずドラーグのように巨体でないと反応が薄い……
けれど昔とは違って私の方ちらりとだけ見るようになった。
昔は完全に虚空を見ていたからなあ。
ニンゲンは素の肉体ではかなり弱め。
恵まれた体躯くらいしか利点がない。
子どもだとそれもない。
寿命もそんなにないという噂もあるため誰であろうと1度はトランスする。
経験をあらゆることで積めば割とすぐだ。
そして彼女はいまだただのニンゲンであり未トランス。
これを利用しない手はない。
もちろん確実性はないのだけれど。
それでも資料を漁ったら不治の病が治った報告なんかもある。
幸いあの子は脱ドラッグ状態は一切受け入れていない。
心の傷は身体に影響を与え傷として残ったままとなりやすいがまとめて克服が狙える。
ドラーグとの経験稼ぎは色々試したが乗っていて戦うことが1番効率いいようだ。
「そろそろ名前聞けたら良いんだけれど……」
「それに関しては、首を横にふるだけなんですよね。話したくないのかな」
彼女は"観察"しても名前が出てこなかった。
名前を貰っていないか自認していないか……
または否定しているか。
どれにせよ未だに名前すら知らないのは困った点だ。
「でもまあ呼び名には反応するんだよね?」
「ええ、勇ましき子って何度も呼びかけていたら、それは自分のことだって分かったみたいです」
ドラゴン系統の言語で自身の子どもを指す意味なので正確には名前ではない。
ただ名付け文化のないドラゴンでは立派な呼び名だ。
ドラーグが親から受けたことを真似していたら定着したらしい。
「あとちょっとで、もっと元気になれるからやり切ろうね、クワァコロロ!」
「……ん」
症状が悪い時と良い時の波があり悪い時は泣いて薬を求めるが良い時はこんな感じになっている。
本人も根はもう苦しいのは嫌なのだ。
ただそれを表に出す力がほとんど持っていかれているだけで。
「あとちょっとらしいし、付き合うよ。危なくない範囲でバトルしようか」
「良いんですか!? お手柔らかにお願いします!」
場を移して。
近くで平らな土地とちょっとした草が生え茂る場所にきた。
ここなら足元が柔らかいから怪我しない。
互いに少し離れてから構える。
「ようし、やりますよー!」
「じゃあ私から!」
バトルの始まりだ!
まずは正面に駆けて距離を詰める。
「もう、泣いているだけじゃないですよー!」
ドラーグもググッと力をため翼も広げる。
さらに詰めて……
右へ踏みこみ左へ滑り込んで飛びかかる!
「それっ!」
「やっ!」
それに合わせてドラーグが飛んだ!
思ったよりも速い!
「やるね! そうれ!」
低空飛行するドラーグの背後をつく!
跳んでクルクル周りつつ……
背中にいる彼女を狙う!
「……!」
「む、そこだ!」
ドラーグの裏拳が素早く跳んでくる。
私の光と交差して火花が散り軌道がそらされて地面に着地。
「これぞコンビネーション!」
「互いになんとなくわかるんだよね。なかなかすごい! でも負けないよ!」
「こちらこそ!」
ドラーグは彼女と何らかの連携がとれている。
緊張感を彼女に持たせたほうが経験はたまりやすいからね。
ドラゴンライダーの才能があるのかな。




