八百十九生目 眼鏡
ナブシウが金属鉱物そのたもろもろに詳しいことが判明した。
「ふむ……例えばそこの鉄くずたち。こいつを……こう!」
試し打ちかなにかで消費されたらしい残骸たち。
それらがナブシウは念じると持ち上がる。
ガタガタと揺れだして……
端から砂のように崩れたかと思うとその先で再び集合しだす。
ただし形はまるで違う。
鉄。炭素。銀。宝石。多数の混ぜもの。持ち手の木材など。
さらによくわからない輝くもの炎みたいなものと何かの余り。
「木材は専門外で動物の物質などはゴミになるが、ざっとこれが錬金の1つである分解というものだ」
「す、すごい!」
どんどんと物質が分けられて再構築されていく。
当然のようにやるのか……
「全部性質も理解しているから、このような事ができる。多少なら、私も力を貸してやらんこともないが……今はやることがないからな」
「そりゃあ良いな! まだまだやってほしいンことはある! ちょうど難航していたンからな!」
「便利だ」
「う、うう……そ、そうか……ハァ……」
他者の存在を強く意識されるとダメらしい。
ホームではあんなに他者に対して強気なのに。
アウェイでは本当に弱腰だ……
「中見ていってくれ、まだまだンだからよ」
「お、おおう……外より中のほうが落ち着くな……」
「じゃあ、ナブシウはここで鉱物関係で協力してあげて! やりすぎない程度に! じゃあね!」
「えっ、あっ、ちょっと待っ――」
"ファストトラベル"!
あそこは比較的外界から隔離されているし変なのもカンタくらいだ。
少しナブシウも鍛えてもらうといいだろう。
本当にきつかったら分神消せば良いだけだし。
記憶をなくした元寄生ゾンビたちはアノニマルースで経過観察を受けている。
今の所順調に回復しているようだ。
ただ儀式を見たせいで私を神だと思いこんでいるのが難点だが……
今の所本物の神であるホルヴィロスがなんとかしていてくれている。
いや……なんとかしているというか。
「――さあ、キュービットたちよ。記憶がなくなろうとも続いている命に感謝なさい。命とは誰であれ、そしてやがて尽きるとしても尊き重んじることで、それそのものが今を生きる糧となるのだから。総じて言えば、そうだね、他者には優しくしましょう」
「「わかりました!」」
……驚くほど記憶も無い彼らの不安に寄り添い取り除いている。
正直遠目に見て誰なのかがわからない。
いや見た目はどうあがいてもホルヴィロスなのだが。
口調が優しすぎてギャップにむしろ引く。
「なあ……あれって本当にホルヴィロスか……?」
「うん、なんか残念ながら」
「不気味を通り越して企みがあるのでは勘ぐりたくなりますね……」
「神って怖いな」
毒沼の迷宮攻略組でその様子を遠巻きにしばらく監視。
本当に何も起こさず最後に解散。
みな満足して帰っていった……
…………
いやなんでだよ!?
ホルヴィロスってあのホルヴィロスだよ!?
私達にあんなことしてきた神がものすごくまともな受け答えに終始して終わった!?
「ね、ねえ?」
「あ、何!? ローズは……あ、違う、聞いたんだ、ローズオーラって言うんだったね! フルネーム教えてよー、その姿はケンハリマって言うらしいねイイねえどんどん新しい姿知りたいーって思ったら各地に立っている像? あれもローズオーラなんだってね!! 本当良くできていて記憶に焼き付けたよ!! あ、ほれでなんだった?」
「あ、うん、やっぱりホルヴィロスだ」
テンションが元に戻った……
いやこちらが上がったというのが正解なのか……?
「ああ、もしかして私がずっとこのテンションじゃないかって? 違うよ〜! 私は貴方を見る時だ・け! どうしてもテンションが上がっちゃうんだよお!」
「うわッ! わかったから! わかったから!」
セクハラはしなくてもテンションはそのままなのか……
すごく疲れる。
「あ、そうだ!! 貴方にも用事があるのだった、ちょっと来て!」
「え?」
「おう、頑張れローズー」
「変なことしたら近くの魔物を呼ぶんですよ」
「俺たちは遠くから見ているからな」
「ちょっと!?」
みんなひどい。
ホルヴィロスはホルヴィロスで一体……?
ツルで引かれるのでなかば連れらさられる形で移動し……
ついたのは私の家。
ホルヴィロスがいつの間にかメガネをつける。
どこから調達したんだ。
ただまあアノニマルースでメガネ売っているところは1つぐらいしか心当たりないからだいたいわかった。
それよりもなぜメガネを。
「私、貴方の秘書を担当するよ。雇用費用の方はご心配なく」
「……はい?」
一体この白わんこは何を言い出すのだ。




