八百十八生目 臆病
ホルヴィロスの身体を使って白い雪のような毒胞子を回収した。
たくさん……そうかなりたくさんあるので回収したのは1部である。
それでもかなりの量。
そうして私達はアノニマルースへ帰り……
さらに竜人の隠れ里近くにいる鍛冶屋へ。
カジートたちに会いに来た。
「――という経緯で、こんなにたくさん手に入りました」
「ローズさんはみんなのローズさんなのに、独り占めしようとする神は不届き者ですね!」
「ふむ、見ただけでわかるこの皮、いい素材になる」
「まったく、お前ンさんも大変だな……命がいくつあってもたンねえな」
本当にそのとおりである。
ニンゲンの鍛冶師カンタの言うことはともかく。
サイクロプスリーダーに竜人種のカジート。
彼らに2つめの素材であるこれらを渡してひとまず依頼達成だ。
ドサリと空魔法"ストレージ"から大量の破裂していない白毒胞子をくるんだホルヴィロスの一部を出したのだ。
家の外なのに手狭。
「残りは……」
「崖の白砂……ンだな。これまでの流れから察するに……」
「また神絡みか? 確かにこれは凄まじい剣ができそうだな」
「その分ローズさんたちがまた苦労しますね……無事に帰ってきてください」
「ははは……」
もはやかわいた笑いしかでない。
これからも神々との絡みは……あるんだろうな。
おっと忘れないうちに。
「それと……私のゼロエネミーはどうなりましたか?」
「ああ、それなら順調ですよ! 剣の方が積極的で修復も問題なくすすみ、強化中です! あ、剣が積極的というのは我々の感覚の話ですね」
「武器にも、魂は宿る」
「問題があるとすりゃあ、思ったよりも順調すぎてまだまだ強くできそうなとこンだな。何かに応えたかのように、最近勇者の剣が難航しているのにこっちにも予想以上に時間を取られて、嬉しい悲鳴ってンやつだな」
「あら、勇者の剣はなかなか難しいんですか?」
確かに私の剣は大事だが本命はそちらだ。
鍛冶師たちはみな一様に唸った。
「やはり……一通り材料が揃ってみないと何も言えないってのがでかいンだよな」
「やれることは、ある。が、勇者の剣は、難しい」
「ある程度先が視れるかと思ったんですが、奇抜さとか特殊さよりも、ずっと純粋に強いせいで先が見通せないんです。なんとかやってはいますが、世の中にはこんな恐ろしいものがあったんだなあって……」
「感覚上の話として、剣を一振り造っているというより、未知の兵器を造っているようだ」
そ……そんな不可思議なものなのか。
この世界の武器は強ければ強いほどとんでもな品だからなあ。
オウカの光剣やゴウの大きくなる弓……ダンの拳。
それらを踏まえてもトンデモと言われるあたり極めていそうだ。
……?
この誰もこないところに新しい反応が。
「誰? って、うわ!?」
「うおっ!? ココはどこだ!? お前を座標に飛んで来たら違う場所にひゃあ!? 誰かいる!?」
不自然な現れ方だと思ったらナブシウの分神か。
どうやら私を参照に分神の位置を決めていたらしい。
どれだけ内弁慶なのだ。
「ほう、味方ンか」
「ひゃあ!」
「ほら、私の後ろに隠れないで……こちらナブシウという、か……いや、見てのとおりな感じのやつです」
ナブシウがちょっとカジートに話しかけられるだけで背後に私の隠れてしまった。
私よりも小さいせいでちょっとキュート……
カジートではナブシウに傷ひとつつけられないんだけどなあ。
「俺たちは鍛冶を営んでいるんだ。今、勇者の剣つくりをしていてな……」
「あ、あばば……」
「ほら、落ち着いて。私の後ろにいていいし別に誰も何もしないし……」
「ハッ……ハッハッ……ハァッー……い、いや、別に震えてなどいない、ただ少し驚いただけだ! そ、それにしても……鍛冶か……勇者の剣については……こいつから聞いたことがあるが……」
おや?
ナブシウは鍛冶に興味がある?
「ナブシウ、鍛冶とかするの?」
「い、いや……ハァッ……鍛冶自体はしないが、石を扱い、鍛える職なのだろう? 我が神は手軽にやることで……石に関しては、私の専門分野だ」
そう言えばあの黄金の砂漠迷宮では明らかに精錬済みのものがいくつもあったっけ……
ダイヤモンドのピラミッドなんてその最もたる例。
そしてナブシウの身体自体も高度な石。
「へぇー、すごい、なんだか触りたい身体だ……」
「な、な、なんだそのいやらしい手付きは! と、とにかくだ……石ひとつの管理鑑定錬金から選り分けインゴットと全てできる。お、お前たちではなく、石の方を見せてみろ! ゆ、勇者の剣の手伝いをしてやる!」
「「おお!」」
錬金……すらもできてしまうのか。
単に引きこもったとんでもなく硬い神ではなかった。




