八百十七生目 奇跡
祝分の儀というものを締めに行わなければ神として示しがつかないらしい。
イロテナガやヒュードックたちには騙すことになるが……
私もさもホルヴィロスと結ばれましたという顔をしなくてはならない。
少しの間ホルヴィロスと彼らが話しているのを横目で見ていたら私達の周りにワラワラと仔どもが寄ってきた。
ヒュードックの仔であるソーバやイロテナガの仔たちは今まではあんまり見なかったからいきなりわらわらする程度にどこからか出てきて驚いた。
まあ……考えると今までの酒の席やら信用度が微妙なよそ者相手に子どもは近寄らせないよね。
では今なんで寄ってきたんだ?
「おしろいさま!」「ローズさま!」
「「はなたばちょーだい! はなたばちょーだい!!」」
「え?」
花束……?
ええと……?
動揺している間にホルヴィロスが手早くやたら白い花束をどこからか取り出して私のイバラへ手渡す。
今私のイバラはトゲさえ引っ込めれば普通の手よりも器用なことができる。
花束を潰さず柔らかく持つことなど造作もなかった。
イロテナガの長が子どもたちの背後にやってきて恭しく私達へ向き直る。
「これは、おしろいさまにより、伝えられた、われわれに、永きにわたる、子孫繁栄の儀式。渡された、仔、祝福受け、繁栄する。そして、我々も、未来、約束される」
「ちょっ……ちょっと?」
小声でホルヴィロスに訊ねる。
かなり小さいがホルヴィロスぐらいの力があるなら間違いなく聴こえるだろう。
「昔、おばさまにどこかの世界の話を聞いて……多分ニンゲンの儀式だとは思うんだけど……それ以上に神が儀式をするのは、意味があるから」
「ああ……」
そうか……こっちの世界でもあるのか。
今まで一連の流れを振り返ってみる。
どこか前世で思い当たる部分のある……結婚式に似ている。
あの長の呪文は……まさか牧師のセリフだったの?
ということは……これはブーケトス的なものかな?
……なんだか今までの警戒が徒労でさらに肩に重さが加わってしまった。
「……いくよー!」
「「わーい!!」」
「それッ」
ふわり空を舞う花束。
ワイワイと跳ぶ仔どもたち。
死んだ目になりそうなのを悟られないようする私。
「とった!」
ひとりがキャッチしたその時。
その仔を中心に鮮やかに光が一気に広がっていった!
「うわっ!?」「何!?」「おお……」
「我らの悲願が……!」「まぶしっ」
光が走り去ると美しい花が咲き乱れ異様に濃いエネルギーが残り空気中にきらめく。
"千里眼"なんかを見て外を見るとどんどんと世界を光が覆い尽くすかのようだ。
「こ、これは!?」
「だってさ、神だよ? 儀式をすれば奇跡くらい起こるさ。世界が恵まれるほどの軌跡が」
ホルヴィロスの満足そうな表情的にこれで大丈夫らしい。
各地の木々は大きくみのりキキノコたちはたくさんのキノコを身につける。
これが神が世界に与えられる力……
「わあ! 見てみて!」
「あ、あれ? さっきとったイロテナガの仔……?」
花束を受け取ったはずのイロテナガの仔。
その仔の姿が大きく変わってまるで小さなケンタウロス。
腕の長いイロテナガらしさの上半身とまるでホルヴィロスのように白いヒュードックみたいな下半身。
"観察"してみると特殊なトランスをしたらしい。
きっと彼が将来キュービットたちをまとめあげていくのだろう。
それにしてもまさか巻き込まれたとは言え信仰されてしまうとは……
イロテナガたちと別れ白い雪を採取しにきた……のだが。
「どうしまょうね、コレ……」
雪……毒胞子そのものはホルヴィロスの身体だったもののそばにたくさん転がっている。
しかし回収のために用意した対毒用容器がことごとく腐食し溶けてしまった。
これでは回収不可能だ……
雪胞子は弾ける前と弾けた後のものがあり弾けるとある程度細かくなって地面に溶け込む。
なので回収品は弾ける前のものがほしいのだがニンゲンの片手の上を占める程度に大きい上この状態でも毒は健在。
普通の胞子毒は食べないと効果を発揮しないからそっちを見習ってほしかった。
「ああ、そういえば貴方たちはそれを回収に来たんだったよね!」
知ってい……るかそりゃ。
ずっと見てたのならずっと聞いていたはすだろうし。
「何かいいアイデアは無いか? お前の技なんだろ?」
「いいアイデアというか……身も蓋もないんだけれど……私の身体を使ったらどうだい! もちろん私はローズに身体を使われるのなら大歓迎だよ!!」
ホルヴィロスの身体は原型が無くなっている。
砕け散り爆発したからね。
肉片というより植物の一部が毒沼に浮いているかのようだ。
その白いツルたちが折りなって皮か身かになっているのがあちこちにあるわけだ。
バラバラ死体みたいなグロさはない。